第三節 モンスター国家への侵略とその対価
その後のデモケオ内部の事は、今や外部者となったエコ・リバースの三人にとっては直接知る術もない。
しかし、風聞に基づいた話は聞こえてきた。
第三次内閣総理大臣は前評判通りにミリタリーマニアであり、軍の体裁から入ったらしい。
大量の戦闘職の者を、軍の傭兵として雇ったらしい。
傭兵は一糸乱れぬ行動を強いられて、本当に必要かと言う議員に軍事パレードを見せたことで、ほとんどの議員は魅了されたらしい。
あれほど綿密に組み立てられた立法も、総理の力で次々と法律改定どころか、憲法改定が行われたらしい。
そして総理の権限を、とても民主主義とは呼べない程に拡大してしまったらしい。
もはや、総理ではなく総統と呼称を改め、同時に軍の最高指導者に就任していた。
公正な裁判を志していた裁判所も、裁判長が軍国主義者ゆえに、総統と協力して反戦主義者を次々と投獄したという。
三権分立という理想は粉々に打ち砕かれたらしい。
総統は、陸軍しか無いことに不満を漏らしていたらしい。
傭兵の得意武器ごとに部隊を編成し、パーティのリーダー経験者を、無理やり指揮官に立たせたらしい。
傭兵達のパーティは、当然のごとく軍国主義的法律の下に、ズタズタに引き裂かれたらしい。
傭兵達は国家総動員法に基づき、全財産をデモケオに没収されて徴兵されたらしい。
聞こえてくる噂は、どれも誰かしらの目撃や証言が元になっていて、極めて信憑性が高いとされた。
そして『国防のため』という名目で、重税が課された。
さらに『緊急事態での亡命は全財産の没収』と、死より重いペナルティを科され、おいそれとデモケオから亡命もできない。
既に民主主義の欠片もなくなったデモケオを『ミリケオ』と揶揄する人もいた。
しかし、いつの間に法制化されたのか『国家反逆罪』として全財産没収と投獄の厳罰に処された。もはや『ケオエコエデンより酷い』という発言すら、国家反逆罪の危険がある国になった。
そんな中、輝かしきデモケオ建国の思い出を胸に、国民達は『エコ・リバース~でこぼこたいら』の再起を強く願うのだった。
そして、遂にモンスター国家への対策集会を開いた総統は訴えた。
総統「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と昔からいう。我らの軍はあくまで寄せ集めの傭兵集団、そう己を知っている!あとは、敵であるモンスター国家を知るだけだ、そうではないか⁉」
議員「「「そうだ、そうだ!」」」
賛同の声を上げるのは、軍国主義思想を持つ議員ばかりだ。傭兵として雇われた、もはや戦闘奴隷とも呼ぶべき戦闘職の者達は、つばを吐き捨てたい思いをグッと我慢する。
総統「このまま防戦一方では、ただただデモケオは疲弊する一方だ!今こそモンスター国家に逆侵攻する時!」
議員A「そうだ、今こそその時!」
議員B「敵も油断している今こそ好機!」
そんな議員達を見ていて反吐が出そうな思いをする傭兵達。
無理やり徴兵しておいて命を賭けろというのか。
それでも、かつて稼いだ金銭が惜しくてケオエコを止められない。
総統「ただ、いきなり逆侵攻というのはさすがに冒険が過ぎる。にモンスター国家の偵察を各部隊に任ずる!」
モンスター国家の偵察だって、決して甘い任務ではないだろう。
どれだけ死者が出るんだと思うが……死ぬこと自体がペナルティですらなくなった自分が情けなくなる。
国家総動員法により、傭兵の財産はデモケオが全て管理していて一文無しになったんだ、死んでも失うものは何もない……と。
そうして、まさにゾンビの如き戦闘奴隷と化した傭兵達は、偵察どころかなんと八割の部隊が、モンスター国家を陥落したという話を聞き、総統は狂喜した。
何より、傭兵達もその成果で、自分の命の自由を買い戻せると期待したのだ。
モンスター国家には、それぞれ『魔王』と呼ばれる存在がいた。
『魔王』を討伐したら、ダンジョンの宝箱より遙かに豪華な、金縁で飾られた宝箱が現れたのだ。宝箱の中身は、期待通り……というか期待以上の法定通貨が大量に詰まっていた。
しかし、目の色を変えて我先にと、法定通貨に飛びつく傭兵達は失念していた。
『財産は全て国家総動員法により国家管理となる』
法定通貨に触れる先から消えていく様、その行き先はデモケオ政府であることを思い出して、更なる絶望に叩き落とされた。
結局、富んだのはデモケオ政府関係者だけだった。
狂喜した総統は、更に『魔国討つべし』を訴える。
その瞳は、狂喜どころか狂気そのものであった。
傭兵どころか、対モンスター国家戦に協力した商人や生産職にも「国防のため」という名目を謳われ、金銭面で還元されることはなかった。
それどころか「戦争に貢献していない」と政府に言われるに至る。
傭兵達の得た莫大な富は、緊急会議の参加者で山分けしても巨額の資産になった。
デモケオの政治家達は失念している。
そもそも餓死せず生きていけるのは、誰のおかげであるのか。
デモケオが攻め込まれず、ひとまずの平和を保っているのは、誰のおかげであるのか。
デモケオでは少なくとも、かつて軍国主義を歓迎していた層でさえ、今では辟易し賛同する者はほぼ皆無となっていた。




