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第一節 ケオエコ五回目のアップデート『モンスター建国』

 建国実装からおよそ半年後、国家がデモケオ一強となった頃に、ケオエコ五回目のアップデートが発表された。


 余談だが、サンローは無事「五浪」となり、「ああ、サンローからゴローに改名したい」と、いつもの文句を言っていた。なお『ああああ』は大学を留年したと笑っていた。


 『エコ・リバース~でこぼこたいら』は、久しぶりに本拠のギルドに戻っていた。


姫子「はぁ……またアップデートね。今度はどんな凶悪変更が起こるのか……」

サンロー「いい加減、私の愛するLISPを、実用レベルで動かせるように戻してほしいものだよ」

ああああ「しかし、この時点でのアップデートって、何があるだろうか?」

姫子「何となくだけど、建国実装にまつわる何か……じゃないかと思ってるわ」


 姫子はなんとなく幼女魔王姿になって、金貨をばら撒いている。

 何気に宝石まで混じっているのは、さすが芸が細かい。


サンロー「姫子君の意見は的中率が高いから、無視できないな……しかし我々に有利なアップデートが来るだろうか?」

ああああ「国家維持費の上昇とか……」

姫子「それは無いわよ、その程度なら大規模アップデートなんて不要でしょうから」

ああああ「とすると、国家を揺るがすようなアップデートと見るのが妥当か……」


 そう語っているうちにアップデートの強制ログアウトの発生。

 三人ともここぞとばかりに睡眠を取り、二十四時間後に再ログインした。


姫子「え……『魔力の流れが安定しました、当面は安定する模様です』ですって、ねえサンロー、これはもしかして!」

サンロー「ああ、今検証してみる!ああ、美しいLISPスクリプトが……期待通りに動くじゃないか!」

姫子「ホントに?じゃあ私の『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』もエレガントに保守できるわね!」

ああああ「姫子さん、案外サンローさんと似てるところがあるよな」

サンロー「どこがだ!」

姫子「どこがよ!」

ああああ「でもさ、姫子さんの『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』って、エコ・リバース派に委ねたんじゃなかったっけ?」

姫子「あ、そうだったわ……総理の仕事が大変だから、すっかり忘れてた。ああ……あんな、非実用的なスクリプトを任せて、本当に悪かったわ……」

サンロー「それなら安心したまえ姫子君、私がたまに出向いて少し教導している!関数利用に制限がなくなれば、より良くなるだろう」

姫子「いやサンロー、あんたも裁判長でしょ⁉」

サンロー「それがだな、地方裁判所での判決が案外妥当だから、上訴がほとんど起こらないのだよ。

 あとは現行犯はAIにより投獄されるのも大きいな。

 上訴が起こったとしても、ほとんどが棄却で済むのだ。

 だから、私は割と時間があるのだよ」

ああああ「まさか……これほど業務量に差が出るとは……」

姫子「別に『ああああ』を責めてるわけじゃないのよ?

 議院内閣制も無事動いてるし、第二次姫子政権は割と安定してるし……」

サンロー「私も司法府の長として、いずれは多くの決断が迫られるだろう。今現在そうなっていないのは『ああああ』の定めた、憲法や法律がどれほど優れていたかの証明だ、そう誇っていたまえ」

姫子「国会はホント大変だわ……誰よ、また勝手に出馬させたのは!法の欠陥よ!」

ああああ「姫子さん、本当にゴメン……あ、まだシステムメッセージがある」

サンロー「なんだと?なになに……『モンスターが建国を始めました』だと⁉」


 慌てて、三人は会議室の窓に駆け寄り、外を眺める。

 そこには見慣れぬ城が乱立した、もはや別世界と感じるほどのケオエコの風景だった。


姫子「あれ……明らかにモンスターの建国した国……よね」

サンロー「だろうな、メンテナンス以前には、あんな城は一つもなかった」


 彼らに限らず、ケオエコプレイヤー全員が『見知らぬ城』の乱立に驚愕した。

 それが『モンスターの建国』だと察すると、多くのプレイヤーはリアルで顔面蒼白となった。


 ただ、モンスターが城を作っただけなら、まだ救いがあった。

 間もなく、その城の一つからモンスターが軍勢を率いて、デモケオに攻め込んできた。


 通常のモンスターは、人間国家に立ち入ることはできない、そう『建国実装』のドキュメントにも明記されている。

 しかし、その軍勢モンスターはデモケオ内に攻め込んできた。


 それは誰もが、単純かつ冷酷な結論を導き出した……。


『国家の軍勢モンスターは通常のモンスターと異なり、人間国家に侵攻できる』


 デモケオに住む戦闘職により、辛うじて軍勢モンスターを引かせることには成功したが、国民は全く安心できない。


 人間国家建国で、やっと安住の地を得たと思った多くのデモケオ民は、それがほんの僅かの安らぎだったと知り、もはや呆然とするしかなかった。


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