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電脳麻薬カンパニー狂騒曲 ~快適に転がり落ちるディストピア~  作者: もりゃき.xyz
第六章 デモクラティック・オブ・ケオエコ
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第五節 モンスターのトレンド多様化に疲れる

 第四回アップデートで『建国実装』が注目される一方、建国に携わらないプレイヤーも疲弊していた。


 とにかく、戦闘職も生産職も商人も、仕事を止められないのだ。

 そしてアップデートに伴い、各職業は頭を抱えていた。


 アップデートに伴う爆発的なモンスターの増加、素材の増加、生産される品の増加……まさに手が回らない。

 しかも従来の両替商の失業により、在庫処分も自分たちの手で全て行わなければならいのが、さらに業務を圧迫していた。


 姫子がデモケオ建国に力を入れていたため、スクリプト商人達は『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』の改訂を姫子に任されるようになった。

 姫子はサンローのトランスパイラを秘匿しているため、渡せるスクリプトは混沌としたトランスパイラの生成結果のみ。


 その『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』は、外国人プレイヤーにも買われるほど、重要なスクリプトになっていた。

 スクリプトの後継者達は必死に改訂するのだが、ギルド員達は、改めて姫子の力量に圧倒される。

 『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』が機能してこそ、戦闘職は素材収集が効率的にできるのだから。


 そして、その素材を持ち込まれた商人達は途方に暮れた。

 アップデート以来……とにかく、素材から作れる品があまりに膨大だった。

 一商人には、もはや手に負えないと誰もが思ったとき、ある商人が貼り紙を出した。


『当店では、以下のモンスター素材以外は取り扱いません』


 この商人の対応に、他の商人も「この手があったか!」と、誰もが目から鱗が落ちる思いであった。

 この手法は即座に商業ギルドに伝えられ、特にエコ・リバース派系統で分業化が進められた。

 窓口として商業ギルドに『総合買取所』を設置し、窓口を一元化した。


 同時に『素材剥ぎ取りスクリプト』も、モンスター種別により分割化される形で、姫子から商人達に改めて渡された。

 その結果『素材剥ぎ取りスクリプト』も、元姫子傘下だったプレイヤー達が保守可能な水準に収まった。


 しかし、商人達もこれで本当にいいのか、自信はなかった。


商人A「ねえ、これ姫子さんの努力を否定することにならない?」

商人B「噂だけど姫子さんも、今のスクリプトを好きで書いていた訳じゃないらしいよ」

商人A「そうよね……こんなに、すっごい長大なスクリプト。姫子さん、よくこんなの保守できたと感心するわよ」

 (作者注:どんなに整然としたコードであっても、規模が大きければ個人での保守は厳しくなるのです)


 こうして、戦闘職は数多くの『素材剥ぎ取りスクリプト』の購入を強いられたのだが……


戦闘職「そもそも、素材を買って貰えてナンボだからな、これ位は投資の範疇だ」


 という考えの戦闘職がほとんどで、反論する者には「それでは従来のスクリプトをご利用ください」と対応できた。


 これによって、戦闘職の素材収集に関しては『一応』収束した。


 しかし、本当の問題は、生産職の商品生産だった。生産職の者達は途方に暮れた。


「この素材から作れる商品、どう管理すればいいの……」


 しかし、生産職ギルドもそこは抜かりなく、商業ギルドを見習い「この商品を主力に、これらの商品を生産してほしい」と各生産職に伝達したのだ。

 生産職ギルドは、生産職の面々にスクリプトの分割化と共有化を、商業ギルドに依頼した。


 そのスクリプトを、生産職ギルドが再配分することにより、莫大なモンスター素材、そこから生み出される商品、そのような流通の流れが定着した。

 生産職も商人も、分業化体制が確立したのだ。


「生産する商品の種類は減ったけど、結果として収入は安定したよな」

「そうだな、扱うスクリプトも減って、かなり楽になったよな……」


 こうなると、今度は一番大変になったのが商人であった。

 生産職から納入される莫大な商品の性質、価格などを厳密に管理しなければならなくなる。


 さすがに商業ギルドも、黙って見ているわけではなかった。

 商品の納入先を、各商人で振り分ける決定をしたのだ。

 可能な限り、不公平にならない分配を心がけたので、商人達の不満は比較的抑えられた。


「商品の品目は減ったけど、おかげで管理は楽になったな」

「だな、若干収入は減ったけど、かなり効率化されたと思う」


 と、商人達にも概ね好評だった。

 商人が全ての商品を扱わなくなったことで、商業ギルドにより総合商社も設立されたが、上手く商人達と利害の一致ができる価格設定をしている。


「安く買いたいなら、俺たちみたいな商人から買えばいい。まとめて買い物したいなら若干高い総合商社でと、上手い仕組みを考えたものだ」

「別に俺たちが極端な損をしてるわけじゃなし、これが分業化の形態だろうな」


 しかし、商人も生産職も、否、誰もが見落としていた。


 今までは『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』を姫子が集中管理、『モンスター素材の商品化』スクリプトのほとんどにはサンローの手が入っていたことを。


 そして、今まで姫子とサンローが一手に管理して統括していたスクリプトを……分業化により統括する人がいなくなったのが、何よりマズかった。

 徐々に、全種類の『素材剥ぎ取りスクリプト』を集めても、網羅できていないモンスターが出てきて、その兆候すら商人も生産職も把握できなくなっていた。

 生産職も『素材剥ぎ取りスクリプト』をベースに、モンスター素材の商品化を行っていたので把握できない。


 そのような状況から『素材剥ぎ取りスクリプトで対応できていないモンスター』の討伐が敬遠され、蔓延を招くことになる。

 気づいた時には『対応できていないモンスター』が蔓延していて、生産職や商人が慌てて対応しても、モンスターが多すぎる。

 この状態で討伐してもらったとしても、素材が多すぎて高くは買えない。そうして、さらに蔓延したモンスターの討伐が遅れる、という悪循環に陥ったのだ。

 誰も姫子やサンローのような統括者不在による問題だったことを、見落としたままに。


 姫子はプロであったが故に「個人プロジェクトの範囲なら、読める人がいれば大丈夫」と甘く見ていた。

 しかし、実際に大切だったのは「対応できていないモンスターの管理」という『運用面』だったことを、姫子自身も失念していた。


 自分ができることは当然他者でもできると考えてしまう、あまりに姫子が優秀すぎた故に起こった「属人化問題」の事故であった。


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