第四節 三人組の暗躍
『内閣情報調査室』に所属した三人は、当初は戦々恐々であった。
しかし、上がってくる警察官からの情報を見ているうちに、怪しい内容が案外簡単に分かることに安堵していた。
桃雄「なあ、これ明らかに外国人プレイヤーの吹っかけだよな」
雛太郎「アドバイザーとして断言できるな……あまりに相場をかけ離れすぎている」
百合男「まずは、彼らがデモケオ民かどうかの調査、違うのであれば入国禁止処分でいいだろう」
この指示が飛んで、すぐに警察官が対応して、デモケオ民を偽った者だったことが判明し、入国禁止処分とされた。
民間人の交易自体は禁止されていない、しかしデモケオ民を偽った場合は重罪だ。今後彼らは二度とデモケオに入国できない。
桃雄「おい、これどう思うよ」
百合男「いや、どうもこうも不法入国にしか見えないが」
雛太郎「ちょっと待て、奴らは他国民だ!」
百合男「な……!じゃあ今までのような対応は……」
桃雄「まあ、無理だろうな……他国民については、不法入国者でも慎重に扱わなければならない……くそっ!」
そこに姫子が入室してきた。
姫子「どうしたの?疲れた?おっぱい揉む?」
雛太郎「姫子さんのおっぱいなんてどうでもいいんですよ、他国民案件です」
桃雄「これがただの不法入国であれば、軽くあしらえたものを……」
百合男「まあ、ちょっと困っていたんです、姫子さんの意見を」
姫子「何よ、そんなにわたしのおっぱいは魅力がないって言うの?写メ送りつけてやるから連絡先よこしなさい!」
しかし、姫子は問題の書類に目を通すとすぐに鋭い目になった。
姫子「またこいつらか……ごめん、ちょっと席を外すわね」
そうして立ち去る姫子と、それに戸惑う三人組。
やがて『ああああ』を連れて姫子が戻ってくる。
姫子「ねえ、流石に他国民不法入国者を、今のままの対応にするのは限界だと思うんだけど?」
ああああ「確かにその通りだ。そろそろ国会が動くべき案件だろうな、ありがとう姫子さん」
姫子「どれくらいで、対策立法できるかな?」
ああああ「予想は難しいが、これほどデモケオに不利益を与えるような存在なら、そんなに時間はかからないだろう」
姫子「もうちょっと具体的に」
ああああ「うーん、次期衆院選までになんとか……」
姫子「ちょっと、それじゃ私が総理大臣じゃなくなったら厳しくない?」
ああああ「わかってる……だけど、デモケオは民主主義国家だからさ」
姫子「そうね……『ああああ』だって、いつ今の立場を失うか分からないわ」
ああああ「そこまで心配することか?」
姫子「一見して、対策できる問題ばかりだけど……だからこそ、この止まらない胸騒ぎが気になるのよ」
ああああ「そんなにデモケオの法が不安なのか?」
姫子「そうじゃないのよ……何か、もっと巨大な何かが迫っているような……」
姫子と『ああああ』は頭を悩ませている。
百合男「すみません姫子さん、俺たち内閣情報調査室はどこまで動けるでしょう?」
桃雄「姫子さん、俺たちのことも頼ってください!」
雛太郎「アドバイザーとして僭越ながら、今の姫子さんは……色々抱え込み過ぎのように見えます」
姫子「いえ……大丈夫よ。あなた達は、目の前の職務だけに励みなさい」
ああああ「そう、前も言ったとおり、そこまで覚悟を決めなくていいんだ。建国の責任は全て俺にあるんだから」
桃雄「そんな、あまりに薄情じゃないですか!」
雛太郎「だな……なんだかエコ・リバースの皆さんは、俺たちと距離を置こうとしているように見える」
百合男「そうですね、そんなに私たちが頼りないですか?」
そこにサンローが入室してくる。
サンロー「なんだか、面倒な案件が上がってきたらしいな?」
雛太郎「サンローさん、俺たちはそんなに頼りないですか?」
桃雄「姫子さんのみならず『ああああ』さんも困ってる今、我々が動かないでどうするんでしょうか」
百合男「この二人と同意見なのは癪ですが、せめて指示を飛ばしていただかないと……」
『ああああ』はピシャリと言う
ああああ「では指示を与える、この案件については一切口外せず、君たちの職務に集中しろ」
姫子も、続けて言う。
姫子「そうね、これは私たちで預かるわ。エスカレーションありがとうね」
サンロー「そうだな、この案件を内閣情報調査室だけに任せるのは、若干厳しいだろう」
そうして退室した三人の後に、三人組は話し出す。
桃雄「どう考える?」
百合男「一応『君たちの職務に集中しろ』という言質はとれたと言える。十分職務の範疇だからな」
雛太郎「アドバイザーとして忠告するが、エコ・リバースが預かると宣言していたことも忘れるなよ」
百合男「大きくは動けない。少なくとも投獄といった事態には持って行けない」
桃雄「牽制を仕掛けて、足止めに徹するしかないか……」
雛太郎「とすると、手札は基本『軽犯罪現場裁量法』と『取引規範法』か、あとは我々の情報」
百合男「なら、いっちょ罠を仕掛けるか……まずは警察官の買収から始めよう」
雛太郎「買収して、どうするんだよ?」
百合男「それはだな……」
そうして、大々的な警察官の買収から始めた。
政治の腐敗とはこうして起こるものかもしれないな、そう思った三人組である。
続いて、問題の他国民達を『軽犯罪現場裁量法』を利用して、軽犯罪容疑で『裁量』を使いながら足止めをする。
道を歩いていれば「睨まれたという通報があった」として警察官が飛んでくる。
店で買い物をすれば「恫喝されたという通報があった」として警察官が飛んでくる。
ナイフを買えば「傷つけられそうになったという通報があった」として警察官が飛んでくる。
もはや、問題の他国民達は、拠点の宿屋から出ることもままならない。それどころか、宿屋にまで頻繁に警察官が出入りしている。
桃雄「うまく行ってるようだな」
百合男「問題を起こすどころか、徹底マークして行動制限しているも同然だからな」
雛太郎「俺たちがやることと言えば、たまに通報できる住民を買収した位だしな。睨まれたとか恫喝されたとか、主観でも問題はない。必要なのは訴えだ」
そこに、血相を変えた『ああああ』が飛んでくる。
ああああ「おい、お前達!一体何をやったんだ?」
雛太郎「アドバイザーとして保証しますが、目の前の仕事に注力しただけです(棒)」
桃雄「なんだか、警察官にむっちゃ睨まれてますね奴ら(棒)」
百合男「凄く住民に迷惑をかけてるそうじゃないですか。これ、外交問題ですよ(棒)」
ああああ「お前らなぁ……相手国から苦情が入ったのは知ってるだろう」
百合男「ああ、大丈夫ですよ。こちらは法に従い対処してるだけです。問題を起こす場合は、仮に他国民であっても、逮捕はあり得ると仄めかしておきました」
桃雄「そうですね、法に従わない行為の場合、AIの手によってブタ箱行きですからね」
雛太郎「そう、我々は完全に合法手段しか利用してないわけですから、文句をつけられても困りますよ」
ああああ「はぁ……相手国は奴らを引き取りたいと言ってきてる。そろそろ警察官を引き上げさせろ……」
こうして、対策立法の前に、警察官と住民の買収、軽犯罪冤罪という『合法手段』によって、国内の混乱を収めたのだった。
ちなみに三人組は、とりあえず警察官に「あんまり賄賂に流されるなよ」とお叱りをした。しかし「お前らが言うな」という対応をされたのは、言うまでもない。
結局、口止めのために、三人組は更に継続して賄賂を支払う羽目に陥ったのだった。
桃雄「なんで俺たち……こんなことになっちまったんだ……何を間違ったんだ……」
百合男「そりゃ賄賂とか冤罪とか、普通なら犯罪だからな……」
雛太郎「そもそも『ああああ』さんの言うとおり、動かないことが正解だったのかもな……政界に任せればよかった」




