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電脳麻薬カンパニー狂騒曲 ~快適に転がり落ちるディストピア~  作者: もりゃき.xyz
第六章 デモクラティック・オブ・ケオエコ
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第二節 デモケオの議員選挙と議会運営

 デモケオは、有志Wikiの検証でも『商業都市リオンデックス』より遙かに優れている、そんな検証結果が発表された。


 三権分立の民主主義国家、住民税という形での自衛軍維持の為の対価と、日本に類似した税体系。

 収入の累進課税についても『商業都市リオンデックス』に比べて緩やかだった。

 法体系も、日本の法律……というか先進国の法律を知っていたら、直感的に納得できる仕上がりになっている。


 何より姫子の発案である『軽犯罪現場裁量法』――軽犯罪は現場の裁量に任せる――や『取引規範法』――いわゆる一定の賄賂の容認――などのAI監視対策各法の反響は凄まじかった。


姫子「ほら見てご覧なさい、厳格な法律遵守なんて苦しいだけよ。ある程度見逃すのは、社会を回す潤滑油になるの」


 胸を張る姫子に『ああああ』もサンローも、国民の支持という結果が出ている以上、反論ができなかった。事実、理想主義だけでは、これほどデモケオの支持は得られなかっただろうと『ああああ』も悟った。


 次は各種選挙が行われる、まずは衆参両院の議長と最高裁判所裁判長の選定だ。

 これはケオエコ独特な制度だが、衆参両院の議長を国民選挙に委ねている。

 互いの議長は、互いの議会を傍聴する仕組みだ。


 デモケオに入国したのは、ほぼ全員のエコ・リバース派、そして少なからずの旧リオンデックス派。

 言い換えると、ほとんどの日本人コアプレイヤーがデモケオに入国していた。

 そんな中での選挙だったが……


ああああ「おお、駄目元で出馬したら、参議院議長になれた!」


 『ああああ』は驚いていたが、こんなのは大方の予想通りであり、賭けの対象にすらならなかった。


サンロー「ほう、私が司法のトップたる裁判長か……これはLISPの美しさをもって裁けという神の宣告!」


 サンローは若干の驚きを隠しながら言う。この結果も、スクリプトに関する顔役として、中立的に振る舞ってきた結果としては妥当だった。一応賭けはあったのだが、実質当確の賭け先であった。


姫子「どれどれ、衆議院の議長は誰かしら……げ、リオンデックス派の奴じゃない」


 姫子は顔をしかめるが『ああああ』はたしなめる。


ああああ「まあまあ、これが民意というものだろう。リオンデックス派でも、今はデモケオ民なんだから」

サンロー「しかしな『ああああ』よ、乗っ取りの危険はないのか?」

ああああ「衆議院の議長には、それほどの権限はないよ。とりまとめの雑用だから」

サンロー「参議院の議長がなんか言ってるぞ」


 次に行われるのは、衆参両院議員選挙だ。

 当然その中には、旧リオンデックス派で野心を持つ者、ただただデモケオで権力を握りたい者、デモケオに忠義篤い者と、多種多様な者達が出馬してくる。


 ここで問題になったのは、政党を組むだけの猶予がほとんどなかったこと。そして、政治に詳しい者がさほど多くなかったことだ。


 衆議院と参議院の違いすら正確に理解しておらず、任期二ヶ月の衆議院より任期三ヶ月の解散総選挙がない。それだけの理由で参議院に出馬し「良識の府」だということに愕然した者もいるというから、その愕然に『ああああ』は愕然とした。


 デモケオは議院内閣制なので、内閣も国会議員の中から議決を経て指名される。

 ここで仰天したのは姫子である。


姫子「なんで私が国会議員になってるのよ!」


 『ああああ』は何の気なしに言った。


ああああ「いや、姫子さんは総理狙いかと思って、衆議院に代理出馬しておいたよ」

姫子「冗談じゃないわよ!こんなの法の欠陥よ!再選挙を要求するわ!」


 しかし、姫子の惨劇は終わらなかった。


姫子「……なんで、本当に私が内閣総理大臣になってるのよ……」


 『ああああ』は、思惑通りに事が進んだことにモニタの向こうで笑いながら……


ああああ「国会で、かなりの支持を集めてたから……今さら覆らないよ?さ、頑張って国務大臣任命だ」

姫子「そんなこと言っても、ほとんど知らない人よ?一応エコ・リバース派中心に固めるけど……ああ『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』改修が……」


 サンローも、何となく『ああああ』の思惑を予想していたので、やはりモニタの向こうで笑っていた。


サンロー「まあまあ姫子君、さすがにもうスクリプトは後継に委ねてもいいじゃないか」

姫子「わかったわよ……っていうか『ああああ』は、参議院議長の座に逃げたでしょ!」

ああああ「だったら姫子さんも、衆議院議長に立候補すればよかったんじゃないかな?これも民意だから、その結果までは責任持てないよ」

姫子「はぁ『ああああ』やサンローはまだいいわよね、内閣総理大臣とか現実でも針のむしろじゃない……」

サンロー「私は、司法も結構な恨まれ役だと思うけどな。ただ、裁判長として、あまりに理不尽な判決は覆させて貰うし、そのため裁判官の買収も厭わぬが」

姫子「そうは言ってもね……やっぱり重圧を感じる、働いてた頃を思い出すぞ」

サンロー「姫子君、また素が出てるぞ、今後は気をつけたまえ」

ああああ「うん、姫子さんがおっさんでも全然構わないけど、国民イメージは壊さないようにね」


 そうして開かれた国会は、惨憺たる有様だった。


衆議院議員A「また予備予算編成案が、参議院から否決された!これでは国会運営もままならないではないか!」

衆議院議員B「我々衆議院の決定を蔑ろにされているようではないか!」

姫子「落ち着いて、衆議院で改めて見直しましょう!議長も、それでよろしいですよね!」

衆議院議長「ええ、姫子総理大臣。参議院で否決されたというなら、何か問題があったはずです。そこを議論の中心に……」

衆議院議員A「『ああああ』参議院議長!もういっそ二院制を廃止しては……!」

ああああ「憲法の改正には、全国民の過半数の同意が必要となります」


 この混乱は『ああああ』も想定していなかったが、第一回選挙では立候補者達が、政党を組む時間もできなかった事に起因する。

 政党もなければ政策もろくにない、意志決定の方針もままならない。

 そんな現実が、浮き彫りになった。


 国会では、バルノ・シュガーフリーがスクリプト禁止法案を提出した。


バルノ「皆さん!自動化のせいで、真のゲーム体験が奪われているのです!我々は操作の尊厳を取り戻さねばならない!今こそスクリプトの禁止を!」

議員秘書「バルノ様!このままでは全国の食糧供給が停止します!」

バルノ「ふぁっ⁉何故だ⁉食糧は自然に手に入るものではないのか⁉」

議員秘書「それらは、戦闘職のモンスター肉を元に、生産職が食糧にして、商人が売っています!全てにスクリプトが関わっています!」

バルノ「な、なにぃ……」


 こうして、バルノは再選の目が全くなくなってしまっただろう……国会議員の大半が白い目で見ている。

 商店には「バルノセット」という、中に何も入っていないケースが五百コイン、日本円換算五千円相当で売られ、バルノの名前だけは一気にデモケオ民に伝わった。


 なお、バルノセットのケースは原価五〇コイン、日本円換算五百円相当……買う者はだれもいなかった。


 バルノのような無知な政治家もいたが、多くの政治家は現体制に不満を抱えている。


衆議院議員C「もう限界だ!内閣不信任案を提出する!」

衆議院議員A「もうしばらく待て、この状況の原因は政党不在だ!せめて我々が、政党を組むまで我慢するんだ!」

衆議院議員C「くっ……わかった、内閣不信任案の提出は……取り下げる……」

姫子「(やっぱり国会なんて大変すぎる……こんな混沌なら、内閣不信任案も当然だわ)」


 結局、およそ一か月後を目処に、内閣不信任案の提出合意がなされ、各議員は政党結成に勤しんだ。

 政党結成のため、国会の動きは更に遅々たるものとなり、ほとんど麻痺同然に陥った。


 そして政党の結成は、当然のごとくデモケオ内での派閥形成に繋がり、権力闘争に発展していくのだった……

 そんな国会での混乱をよそに、日本人コアプレイヤーが多いデモケオ国民の大多数は「安全な国だ」と政治への無関心を貫いた。


 外国人プレイヤーの一部もデモケオに入国したが、大半の外国人プレイヤーは自ら小国を建国してそれなりにやっていた。




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