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第七節 姫子の暴走

 ヤマタノオロチを狩ってきた、丸呑み三人組は姫子の姿を見て呆気にとられた。


姫子「ヒャッハー、そうそう、ここよ、この素材剥ぎ取りがよく分からなくて!というか、首を切り落とした以外に損傷がないじゃない!」


 三人組は当然のごとく答えた。


百合男「そういう約束だったじゃないですか」

桃雄「だな、ただの蛇だしな」

雛太郎「鹿とネズミと蛇なら、僕達に任せてください!」


 『ああああ』は頭を抱えて言う。


ああああ「ヤマタノオロチを蛇分類するのは君たちだけだ……」

姫子「まあ、いいじゃない!これで『素材剥ぎ取りスクリプト』が完成に一歩近づくわ!『ああああ』の死体じゃ、どうしても剥ぎ取れない素材があったのよね!」

雛太郎「お役に立てたようなら、よかったです。皆さんには多大な恩がありますから!」

百合男「まあ、この程度で返せる恩じゃないけどな……」

桃雄「まったくだ、皆さんがいなければ、とっくにケオエコ辞めてました……」


 『ああああ』は、純粋な疑問に囚われて問いかける。


ああああ「じゃあ、ヒュドラなんかも蛇扱いなのか?」

百合男「基本的に、蛇の頭は蛇扱いですね。それ以外は四本足なら鹿、二足歩行もするようならネズミです」

桃雄「そいやぁ、ヒュドラを蛇とするか鹿とするか、結構討論したよな」

雛太郎「あったあった!結局、足がないモンスターが少ないから蛇分類になったんだよな」

ああああ「えっと、じゃあケンタウロスなんかは……」

桃雄「ああ、あれは悩みましたね……一応、今ではネズミと鹿のキメラ分類です」


 おいおい、ケンタウロスって知性溢れるモンスターだぞ?その頭部をネズミ扱いとか、こいつら自身がバグってるぞ……この理屈だと俺もネズミか……。

 ケオエコには登場しないが、仮に阿修羅なんて出てきたら、こいつらネズミ三匹のキメラとか言い出すんだろうな……どうしてこうなった……。


ああああ「スレイプニルなんかは、鹿の二体キメラってか……」

雛太郎「さすが『ああああ』さん!その通りです」

ああああ「じゃあオオムカデなんかはどうなんだ?」

百合男「足が多すぎるので、足を毛扱いして蛇分類ですね」

ああああ「念のために聞くけど、メデューサは……」

桃雄「ああ、満場一致で蛇認定です!あんなに頭に蛇がいたら迷うまでもないです!ヤマタノオロチより蛇の数が多くて苦戦しましたね」


 そこに姫子が乱入してきた。


姫子「ヤマタノオロチ水準でモンスターを討伐してくれるの?それなら、他のモンスターもお願いしていいかしら?」


 そう言って、ヤマタノオロチの素材一式代金として六十万コインを支払う。


百合男「いえ、報酬なんていいですよ……というか六百万円相当のコインなんて、皆さんからは受け取れません!」

桃雄「そうだな、ただ、姫子さんの商人としての信用重視からしたら、ある程度受け取った方がいいだろ」

雛太郎「アドバイザーとして、今回はいいとしても……今後もタダ働きはどうかと思うぞ……」


 三人組は、提案された中から三十万コインだけ受け取る。端数が出ないので三の倍数がありがたい、という謎のポリシーを持っている。

 姫子は呆れながら、三十万コインの報酬支払いを受け入れた。


姫子「まったく……これじゃ最低ライン報酬じゃない、バレたら信用問題よ?じゃあ『ああああ』に残りの三十万を、見守り報酬として」

ああああ「いや、姫子さん、見守りと言っても俺は何もできなかった……受け取れないよ」

姫子「いいから受け取りなさい!その分、建国の仕事にとっとと戻る!」


 と言いつつ、気に入ったのか幼女魔王様になって金貨をばら撒く、いつもの姿になる。

 『ああああ』は、躊躇いながらも三十万コインを受け取る。


姫子「うふふふふ……これで、私の素材剥ぎ取りスクリプトの完成度もあがるわね!ああ、今ちょっと討伐して欲しいモンスターリスト作るからちょっと待ってね」


 とはいっても、Pythonトランスパイラを活用しているので、ローカルでは整然としたソースコードだ。

 コメントからモンスター名を抜き取り、ちょちょっと整形して三人組に渡す。

 ケオエコで使われるスクリプト行数は、通常では保守不能な規模のため……とんでもない事になっているが、負荷自体は少ないので問題になっていない。

 もはや、ケオエコ用のソースコードの行数が、難読化不要の様相を呈していた。


桃雄「ちょ、これほとんど全部のモンスターじゃないですか?」

百合男「このリスト、ヤマタノオロチまで入ってるんですが……」

姫子「ああ、ごめんね。管理してる全モンスターリストから持ってきたの」


 流石に姫子もサンローも、サンローが作ったトランスパイラの話は、ケオエコ内で注意深く避けている。


雛太郎「さすが姫子さんですね……モンスターリストの管理とか。でも、僕達の仕事はそんなに役立ちますかね?」

百合男「そうですね、そういう仕事は今までも『ああああ』さんが行ってきたでしょう?」

桃雄「俺たち『ああああ』さんを、マジリスペクトしてますから!」


 姫子は若干呆れながら言う。その姿は今だ幼女魔王姿だ。

 サンローも話題に入ってくる。


姫子「確かに『ああああ』のやってた仕事よ、だけどあいつ常に心臓や急所を突くから、あなた達みたいな首を切り落とすタイプの死体が不足しているのよね……」

ああああ「悪かったよ、ただ……モンスターを見ると、大体あの辺が急所だなって見えてきて、どうしてもそこを突いてしまう」

姫子「別に戦闘スタイルには色々あるからいいんだけどね、素材剥ぎ取りスクリプトでは彼らの方が優秀ってだけ」

サンロー「ははは、弟子の三人組に追い抜かれた気分はどうだ『ああああ』よ!」


 三人組は慌てて言う。


桃雄「いえ、急所を的確に突く戦闘スタイルは憧れです!」

雛太郎「ただ、俺たちの戦闘は全て、鹿とネズミと蛇ですから……」


 姫子は、改めて金貨をばら撒きながら言う。


姫子「建国が一段落したら、改訂版モンスター素材剥ぎ取りスクリプトで一儲けよ!目指せ個人資産三十億円!」


百合男「個人資産三十億を目指すってことは、二十億は持ってそうですね……」

桃雄「それなのに俺たちと来たら、現実世界ではただの大学生だしな……」

雛太郎「外国視察と武者修行で、ゲーム内通貨は結構増えたけど……現金化はまだしたことがないな……」

姫子「え、何をやっているのよ!ケオエコはリアルマネーを稼ぐゲーム!特に法定通貨を持ってるなら即現金化しなさい、死んだらどうするの!暗号通貨も『公式両替商で法定通貨にしなさい!」

桃雄「いや、鹿とネズミと蛇が相手なら、まず負けませんし……」

百合男「そうですね、今まで死んだ事は一度もありません」

雛太郎「死んだら資産半分徴収ですから、安全マージンは十分取ってますよ」

姫子「ちょっと待って!『ああああ』は個人資産結構あったわよね?で、ゲーム内通貨が不足気味という」

ああああ「ああ、パーティ次第では俺も死ぬからな。あまり、ゲーム内通貨は持たないようにしている」

姫子「ほら見なさい!一度も死んだ事がないとか、あなた達異常よ!」


 静かにショックを受ける『ああああ』であった。


雛太郎「でも、ゲーム内通貨を現金化したら所得申告が地獄じゃないですか?」

桃雄「所得が増えたら、税金もガッツリ持って行かれますよね?」

百合男「バイトレベルの換金なら俺はしてるぞ……お前らどうやって生活してるんだよ」

桃雄「え?親のスネかじり」

雛太郎「っていうか、俺たちただの廃人プレイヤーに片足突っ込んだだけの、ただの学生ですよ」

姫子「あんたたち!金稼ぎを何だと思ってるのよ!ケオエコは金を稼ぐ場所!ケオエコで現金化しないなんて正気⁉」

桃雄「そういう見方をしたことはなかったですね。文化交流と武者修行に明け暮れて」

雛太郎「まあ、色々な文化圏を見られるのはケオエコならではだよな、外国語は身に付かないけど」

百合男「一応、一人暮らしを始めたら少しずつ換金しようかと……職業ケオエコにしようかな」

姫子「まず、さっき渡した三十万コインだって、現金化すれば三百万円……この勢いで稼いでいるなら、あなた達は絶対、億プレイヤーじゃない!」

雛太郎「アドバイザーとして思うのだが……今の日本で三百万円って、もはや社会人の年収ではないか?」

桃雄「うわ、冷静に考えたらそうじゃん!もしかしたら親父より稼いでるかも!」

百合男「ってか換金した俺だって、普通に一千万コイン以上あるから、全部換金したら即座に億プレイヤーだぞ……」

姫子「ほら見なさい!だからと言って、そこで満足しない!稼げるうちに稼ぐのよ!私のように!モンスターを狩ってきたら、私が色付けて買うから!一緒に金持ちを目指しましょう」

百合男「しかし、姫子さん……エコ・リバースは建国を目指しているという信憑性の高い噂が流れてますが……」

桃雄「モンスター素材剥ぎ取り魔法の改訂版とか、作ってる時間はあるんですか?」

雛太郎「アドバイザーとしてではなく個人的に、エコ・リバースには建国に注力してほしいですね」


 そこにサンローと『ああああ』も言う。


サンロー「姫子君、素材剥ぎ取りスクリプトは、そろそろ後任に任せるべき時じゃないか?」

ああああ「っていうか、建国した当初は幹部メンバーとしての活動もあるだろうからな……だから建国以前に俺も稼ぎたかったんだが」


 姫子は悲鳴を上げた。


姫子「そんな……『ああああ』に付きあって建国しただけなのに、私も金稼ぎができないの⁉」


 金貨をばら撒く姿から、ただの商人姿に服を替え、泣き崩れる姫子であった。


これにて第五章完結です。

ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます、もし面白かったなら引き続きお楽しみください。


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