第六節 建国までの暗雲
『エコ・リバース~でこぼこたいら』の憲法と法律の制定プロセスは以下の通りだった。
「憲法草案制定」→「法律制定」→「法律制定で見つかった憲法草案の穴を改訂」→「必要に応じて法律改訂」→「憲法と法律の完成」
時に手戻りも発生しながら、着々と憲法草案と法律制定を進めていく『エコ・リバース~でこぼこたいら』の三人。
既に「憲法草案改定」も、不要と思える段階に至り「必要に応じ法律改訂」を煮詰めている。完成は間近だった。議論しているのが三人だけだったので、アマチュアでありながら、これでも相当迅速に憲法と法律制定が行えたのだ。
しかし、ここで建国に暗雲が吹き荒れていた。『ああああ』のゲーム内通貨が底を尽きそうなのだ……それこそ三人組が陥っていた残り五百コインすら可愛いレベルの貧困だ。
サンロー「なあ『ああああ』よ、金なら私が貸すぞ」
姫子「私だって出すわよ」
姫子は大人バージョン魔王様になり、ゴージャスな姿で金貨をばら撒く
ああああ「いや、俺の金銭管理が良くなかったんだ……しばらくモンスター討伐で稼がせてくれ」
姫子「だから『ああああ』がいなくなったら、建国が遅れるでしょう?」
サンロー「そうだぞ『ああああ』よ、どれ程の人間が待っているか……そこを自覚した方がいいぞ」
しかし『ああああ』は首を縦に振らない。
ああああ「自分の食い扶持すらままならない人間に、誰がついてくる?」
姫子「それは……現実の政治家だって、政治献金とか受けてやってるじゃない!私たちにはそういうの一切ないのよ⁉」
サンロー「少なくとも、建国が成功したら『ああああ』だって、もう金に困る事はないだろう?
それでも『ああああ』は頑なだ。
ああああ「いや、建国したって、自分の懐を潤す気はないさ。民主主義なら、俺が選ばれない可能性だってあるんだから」
その時『エコ・リバース~でこぼこたいら』の拠点の扉をノックする音がした。
姫子「はーい、何ですか?『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』のトラブルですか?それともスクリプト相談?」
雛太郎「いえ、僕達……丸呑み三人組です。皆さんに役立つかもしれない情報を集めてきました」
桃雄「もしかしたら、もうご存知かも知れませんが、伝えない理由にはならないと思って」
百合男「聞いてくださいよ、僕達もうレベル五〇に達したんですよ!」
その言葉に『エコ・リバース~でこぼこたいら』の面々は驚く。
サンロー「私の聞き間違い……読み間違いだろうか、彼らのレベルが五〇に達したと」
姫子「大丈夫よサンロー、私もレベル五〇って聞いた」
ああああ「皆、入ってくれ!サンローさんも姫子さんもいいよな?」
姫子「ええ、いいけど……」
そうして、遠慮がちに入ってくる三人組。
桃雄「僕達、外国視察と武者修行をしてきました」
百合男「こちらが、視察報告書になります。DMで送りますが、いいですか?」
雛太郎「しかし『混沌の街』は、その名に似合わず本当に落ち着くなぁ……」
桃雄「ホントにな、外国では騙し騙さればっかりだったから、適正価格が約束されている『混沌の街』は天国ですよ」
百合男「この報告書が、知ってる内容だったとしても……せめて、そのことは伏せてくださいね」
雛太郎「そうそう、最後の街のヤマタノオロチ素材の件が最高だったんですよ!」
そうして、雛太郎は『混沌の街』でさえ六十万コインもの値は付かない、しかも二匹だ。
ヤマタノオロチ素材を足元を見すぎた商人に売りつけた話を面白おかしく語った。
『ああああ』は苦笑いだ。
ああああ「ずいぶんと逞しくなったな。しかし、よくヤマタノオロチの素材一式を一匹六十万コインで売りつけられたな……」
サンロー「私もヤマタノオロチの素材一式は知っているが、状態によっては普通に三十万コインも適正価格ではないか?」
姫子「そうね……どんなに状態が良くても『混沌の街』でだって五十万コインよね」
百合男「その場でヤマタノオロチの肉を食糧にしようって話をしたら、随分と焦ってましたね」
桃雄「俺たち、そもそも食糧化魔法持ってないのにな!」
姫子もサンローも呆れ顔だ。しかし、『ああああ』は視察報告書を読んで、真剣な顔になっている。
姫子「あのねぇ、商人は信用が大切……それを脅迫紛いで高値で売るとか」
ああああ「いや……姫子さんちょっと待って?今、視察報告書を読んでいるが……外国の様子からすると、あんまり彼らを責められないよ。食糧が一日百コイン、ナーガ一式五十万コインとか、随分足元を見られ続けてる」
サンロー「なんと!食糧一日百コインとか、とんでもない暴利ではないか!それに、ナーガと言ったら神獣ではないか……ヤマタノオロチ素材より高値でなければおかしいぞ」
雛太郎「あ、やっぱナーガ一式五十万コインは安かったですか……まあ、あの国は少し貧しそうだったから、あんまり無茶も言えなかったんですけどね」
百合男「流石に我々も、色々見ていますし、報告書にも国の様子を書いていますよね?ヤマタノオロチの件の街は、あまりに足元見すぎだったんですよ」
桃雄「そうだよな、スッパリ八本の首だけを切り落とした素材が一匹三十万コインとか、ないわ」
その言葉に姫子は悲鳴を上げる!
姫子「なんであなた達!そんな良質なヤマタノオロチ死体を持ってきてくれなかったのよ!それ程の死体があれば、『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』だって改修が進んだのに……」
それに驚いたのは三人組である。
雛太郎「いや、ちょっと待ってください、あんなのただの蛇ですよ?」
桃雄「ポップしたら、今度狩って持ってきますから……気を落とさないでください」
百合男「この近くにいたら、今からでも行ってきますが?」
姫子は、早速この話に飛びつく。
姫子「よし『ああああ』あんた今から、この三人組に付き添ってヤマタノオロチ倒して来なさい!損傷が酷いと許さないからね!」
ああああ「いや、いいけどよ……さっきまで、モンスター討伐に反対してたよな?」
姫子「それはそれ、これはこれよ!いいから行ってらっしゃい!ちゃんと『ああああ』にも報酬出すから!」
ああああ「報酬が出るならいいか……よし、行くぞ!そろそろ近場の洞窟でヤマタノオロチがリポップする時間だ」
『エコ・リバース~でこぼこたいら』の拠点を出て、洞窟まで走る『ああああ』と、難なくその速度についてくる三人組。
その三人組のヤマタノオロチ討伐は、危なげないどころではなく、もはや熟練の職人のごときであったと『ああああ』さえ自信を失うほどだった。
桃雄「いかがでしょうか、少しは『ああああ』さんに近づけたでしょうか?」
雛太郎「まだ、鹿とネズミと蛇しか討伐できない我々ですが、少しは見られるようになってますか?」
百合男「イメージトレーニングを取り入れているんですよ!大概のモンスターは、鹿とネズミと蛇の特徴を踏まえれば行けるんです!」
死体をインベントリに入れた三人組を見て『ああああ』は言葉に迷う。あれほど見事にヤマタノオロチを討伐した彼らに、何かを言う資格は、今やあるのだろうか?と自問自答する。
結局、洞窟から拠点に戻るまで何も言わなかった『ああああ』に、三人は「何か機嫌を損ねることをしただろうか?」と困惑するのだった。




