第五節 三人組の旅立ち
崩壊した『ケオエコエデン』『商業都市リオンデックス』『自由課金国家プライドタックス』の跡地を巡り終えて、例の三人組は立ち尽くしていた。
『自由課金国家プライドタックス』で、うち捨てられた『ゴールド認定証』を拾いながら嘆く。
雛太郎「酷いもんだな、あれほど期待が掛けられた国家群なのに……何も残っていない」
百合男「仕方なかろう、期待が高かっただけに裏切られた時の反発は大きい……しかし、ジョンさんとボビーさんは大丈夫かな」
桃雄「これほど有名な話なら、エコ・リバースの皆さんに伝えるまでもないな」
通り過ぎる大ネズミを瞬殺して、解体する桃雄。
百合男「しかし、我々は未だに鹿とネズミしか討伐できないとはな……」
雛太郎「ギガントケラスも、あれは鹿だったしな……」
桃雄「なんで、他のモンスター相手だとうまくいかないのか。なんでだろうな?」
雛太郎「いや、それは俺たちが逃げ出すからだと、アドバイザーとして言わせてもらう!」
百合男「真っ先に逃げる雛太郎が、何か言っているぞ」
そう、ケオエコにおいて鹿やネズミを狩るのは、今や少し腕に覚えがある生産職に移行している。
物音を立てれば逃げ出すだけだから、傷つくリスクが低いのだ。
桃雄「しかし、HPゲージが減るところを見た事ないな……」
雛太郎「無敗のパーティということだな!」
百合男「いや、他のモンスターから逃げてる時点で負けてるって……」
迷い込んで来た鹿を瞬殺して、解体する雛太郎。
雛太郎「なあ、ここでこうしていても仕方ないだろ……これからどうするよ」
桃雄「そうだな……外国巡りとかどうだ?流石にエコ・リバースの皆さんだってそこまでアンテナ広げられないだろう?」
百合男「良いかもしれないな、まだ噂に過ぎないが、きっとエコ・リバースの皆さんが作る国に役立つだろう」
忍び寄る蛇を瞬殺して、解体する百合男。
桃雄「おい!そいつ蛇じゃないか!なんで倒せるんだよ!」
百合男「ほら『ああああ』さんが、俺たちのモンスター丸呑みを見て『蛇じゃないんだから!』って言ってただろ?それ以来、蛇には妙に愛着が湧いて」
雛太郎「普通、愛着が湧いたら倒せないだろ……でも、外国巡りと武者修行の旅、いいかもな」
百合男「そうだな、ケビンさんやボビーさんの所から、逃げ出すように外国人街から出てしまったからな」
桃雄「モンスター討伐は、ネズミのように俊敏に!鹿のごとく獰猛に!」
雛太郎「鹿は獰猛ではないと、アドバイザーとして言わせてもらおう!」
百合男「ま、いいんじゃないか?武者修行の旅……いい加減、鹿とネズミしか討伐できない状況からは、自力で這い出さないと」
こうして、彼らの外国視察と武者修行の旅が始まった!
雛太郎「いいか、あいつは四本足のモンスターだ、だから鹿だと思え!」
桃雄「いや、流石にワニを鹿だと思うのは無理があるって」
百合男「まずはイメージトレーニングだ、少し足が短くて、外皮が硬い鹿……」
雛太郎「角がない鹿……」
桃雄「奴を倒す為には、足への攻撃は無意味、むしろあの鹿の口の大きさを狙って……」
雛太郎「いいか、あいつは四本足モンスターだが二足歩行もする、だからネズミと思え!」
桃雄「いや、流石に熊をネズミと思うのは無理があるって」
百合男「まずはイメージトレーニングだ、少し大きくて、爪に少し注意する必要があるネズミ……」
雛太郎「外皮も少し堅そうだな……」
桃雄「奴を倒す為には、俊敏さだけでは足りない。不意打ちで深く斬り込み、まずは腕一本でも持って行って……」
まさかの、ネズミと鹿の討伐……そして百合男の蛇アドバイスの応用で、大概のモンスターに対応していく三人組。
桃雄「ええっと、これ有名な鵺だよな……頭は猿、これはネズミ寄り?」
百合男「でも尻尾は蛇だ、つまり蛇寄りか?」
雛太郎「おいおい、足が虎だぞ?すなわち、これは鹿だ!」
桃雄「ネズミと鹿と蛇の全部盛りでいいだろ、全部取りでも俺たちなら倒せる!」
百合男「わかった、イメージトレーニングだ、頭がネズミで尻尾は蛇というだけの、ただの鹿だ……」
桃雄「頭が猿に見えるということは、ある程度の知能があると想定できる」
雛太郎「また尻尾の蛇部分も要注意だ、もしかしたらトカゲみたいに切り捨てるかもしれない、そうなれば好都合」
百合男「今までのイメージトレーニング戦略では……少し苦戦するかもしれないな」
と言いつつ、サクッと鵺を倒す三人組。
雛太郎「いいか、あれはただ頭が多いだけの蛇だ、だから楽勝だ」
桃雄「そうだな、ヤマタノオロチ……ただの蛇だ」
百合男「ただ、一度に蛇八匹討伐は骨が折れる。だが、それだけだ……」
雛太郎「おい、あっちにも、もう一匹ヤマタノオロチがいるぞ」
桃雄「何を慌ててるんだ、もう既に一匹倒しただろ……一匹も二匹も同じだ」
百合男「一度倒したデータは全て私の脳内にある……恐るる事は何もない。あいつは今倒したヤマタノオロチの子だ」
そうして、蛇には手慣れているのでヤマタノオロチを二匹瞬殺した頃には、彼らのレベルは五〇前後まで上昇していた。
雛太郎「ところで、そろそろ外国視察にも行かないか?」
百合男「そうだな、いい加減モンスター肉では飢えが満たされない。そろそろ空腹デバフがキツい所だったんだ」
桃雄「じゃあ、新しい国に行ってみよう!あ、ヤマタノオロチの素材剥ぎ取りを」
雛太郎「肉は、食っちまうか?」
百合男「いや、売りに出そう。食糧の方が空腹デバフへの効果が高いし、ヤマタノオロチは妙薬の素材もある」
驚くべきは、姫子のモンスター素材剥ぎ取りスクリプトである。
ヤマタノオロチまで網羅しているというのだから……由来となった『ああああ』の持って行く死体の事を考えると、三人は「まだまだだ」と気を引き締めるのだった。
新しく来た街は、中華風の雰囲気が流れた街である。
商業ギルドに向かい、ヤマタノオロチ他のモンスター素材売却の話をする。
商人「うーん、三十万コインって所かね?」
雛太郎「そんな馬鹿な話があるかい、先日別の国でナーガ素材を売ったときは、五十万コインだったぞ」
桃雄「交渉する価値もない、行こうぜ雛太郎」
商人「ちょっと待ちたまえ、三十万コインはこの国の商業ギルドの相場だ、これ以上の値段で買ってくれるところなんてないぞ!」
しかし、三人は呆れるしかない。
百合男「それは、この町では、でしょう?まあ、我々はもうこの町から離れるのでご心配なく」
桃雄「ヤマタノオロチは回復の妙薬になる素材があるから、六十万コインは堅いな。半値とか足元見すぎだ」
雛太郎「しかし、食糧はどうするんだ?」
百合男「ヤマタノオロチの肉を食糧にして食べようか」
それに慌てたのは、商業ギルドの者である。
商人「すまなかった、表を見間違えたようだ、確かに六十万コインだ」
桃雄「じゃあ、いいんじゃないか?」
雛太郎「そうだな、じゃあこれがヤマタノオロチの素材一式、あ、二匹分あるから百二十万コインですね」
百合男「しかし、本当にいいんですか?この国が『混沌の街』でしか付かないような値段を採用しているとは、本当に驚きですね!」
嵌められたと思った商人も、もはや手遅れだった。
商人は百二十万コインを支払い、ヤマタノオロチ素材を受け取り、契約は既に成立してしまっていたのだ。
百合男「しっかし、外国はどこもかしこも酷いもんだな……見ない顔には平気で吹っかける」
桃雄「ホント、食糧一日分百コインとか何の冗談だと思ったよ」
雛太郎「まあ、いいじゃないか!こういう実態をエコ・リバースの皆さんに報告できると思えば!」
桃雄「俺たちのレベルも五〇に届いたし、そろそろ『混沌の街』に帰るか?」
百合男「だな、もう二十を超える外国を見て回って、情報を集めたんだ。お土産としては上出来だろう」
そうして、外国の街の屋台で食糧だけを買い込み、三人組は『混沌の街』に向かうのだった。




