第三節 サロンに咲いた毒花
『弱者を盾に語る者を信用するな。真に守る者は他者に語ることなく、既に守っている』
(依田泰造著『目を逸らされる欺瞞』より引用)
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『ケオエコエデン』の没落に続く解散と、ほぼ同時期に『商業都市リオンデックス』が建国された。
さすがはリオンデックス!という前評判で、大手企業が立ち上げた国では『ケオエコエデン』のような酷い事は起こらないだろうと、特にコアプレイヤーの間では話題になった。
ネットニュースでも「法務部が全力で憲法のみならず法律も制定しました」と、力強い発表だったことも、『商業都市リオンエックス』の追い風となった。
『エコ・リバース~でこぼこたいら』でも、憲法と法律制定の合間に、しばしば話題に上がった。
姫子「『商業都市リオンデックス』は、明らかに私たちと対立するわね」
サンロー「ふん、私を評価しなかったリオンデックスなど、たかが知れている!」
ああああ「サンローさん、確かに技術力ではリオンデックスってパッとしないですが、あそこの法務は強いって話ですし」
サンロー「なんだ『ああああ』よ?君は、商業都市リオンデックスの肩を持つのか?」
ああああ「いや、そうじゃないですよ……単純に俺の目から見て、リオンデックス法務部は強敵ですって」
姫子「リオンデックス法務といえど、現実とケオエコの違いを……どこまで把握してるのかしらね?」
ああああ「姫子さんまで……いや本当に法務部を舐めない方がいいですって」
サンロー「まあ、お手並み拝見と行こうじゃないか」
実際『商業都市リオンデックス』の法体系には、理不尽なペナルティはないことが、有志Wikiでも検証された。
『商業都市リオンデックス』の体制は実質貴族制、リオンデックス社員と覚しき人達が、上層部に立つ体制だった。
『ケオエコエデン』のような城はなかったが、広大な土地を利用した『サロン』が名物となった。リオンデックスは自衛軍を使って街を運営していたノウハウも利用し、まさに見た目は豪華絢爛だった。
それでいて、国民の税金は廉価で、治安を乱しても『一時監獄収容』という、十分に理解を得られる範囲だった。『ケオエコエデン』とは違い『亡命』にもペナルティは無く、その安心感は多くのプレイヤーの心を掴んだ。
しかし『商業都市リオンデックス』にいざ住んでみて、一部のプレイヤーが覚えた違和感は、途端に噂として広がった。
『商業都市リオンデックスには、リオンデックス系の商人や生産職しかいない』
エコ・リバースは正式に建国予定を発表していない。それなのに……何故か、商人はリオンデックス系しかいない。
豪華絢爛な商店街も、一部の店舗には空きがあるような状況だった。
少し不便だなと思いながらも、リオンデックス系商人を相手に売買を行う『商業都市リオンデックス』の国民達。
リオンデックス系商人の販売価格は、元々国外より若干高額だったが、その物価も上昇傾向を見せ、逆に買取価格は下落していった。
有志Wikiは『商業都市リオンデックス』の法と実体経済を再検証した結果、ただの国民にとっては税金が廉価でも、国内収入に対する累進課税が原因だと結論づけた。
言い換えると、商人や生産職への税負担が多大だった。
その転嫁が、商品に為されていた。そういう実態が明らかになる。
リオンデックス系の商人達は、リオンデックス社員達だったので……上の言いなりに店を構えなければならない。
風の噂では、リオンデックス社員は『商業都市リオンデックス』に伴い、特別手当が出たと聞くが、真偽は明らかではない。
そんな状況ゆえに、リオンデックスの社員以外は、その税負担を嫌い『商業都市リオンデックス』から離れていくのだ。
『商業都市リオンデックス』を名乗りながら、まるで商業を軽視するような税負担……一部の良識あるプレイヤーは眉をしかめた。
その結果『商業都市リオンデックス』は、国家維持費を税金で賄えなくなり『消費税』の制定に踏み切った。
そうなると、ますます商人や生産職に支払う金額が増大するので、『商業都市リオンデックス』の国民負担も大きくなる。
かつての「税金が廉価」という話から乖離していく『商業都市リオンデックス』と、現実世界でも苦しめられる『消費税』そのままの命名も悪印象を抱かせた。
『商業都市リオンデックス』は『軽減税率』と、またも現実そのままの政策を打ち出すが、それが更に反感を買った。
それでも尚『商業都市リオンデックス』は税収が足りなかったらしい。
遂に『人頭税』を課すという話になり、大量の亡命が発生した。
大手リオンデックスの運営国家という期待と裏腹に、結局『商業都市リオンデックス』は三ヶ月前後で崩壊した。
リオンデックス社はこの件を受け、ケオエコからの撤退を表明し、その影響で現実のリオンデックス社の株価も、いい加減下落傾向だった所から更に暴落した。
元リオンデックス派のケオエコプレイヤーは、在野に下ったという噂で、一部のプレイヤーは外国人街に移住したという。
『商業都市リオンデックス』の『サロン』や豪華絢爛な建物は、リオンデックス派のケオエコプレイヤーが鬱憤晴らしに解体して持って行ったという。
『エコ・リバース~でこぼこたいら』の面々も、想定外の崩壊に、驚きながら話し合う。
サンロー「ほら私の言ったとおりだ、リオンデックス何するものぞ!」
姫子「はいはい、サンローはちょっと黙ってて!っていうか、まさかこんなに早く『商業都市リオンデックス』崩壊なんて、さすがに想定外だったわ」
なぜか姫子は、バカ殿のちょんまげヅラを付けて、扇子を振り回し、踊りながら言う。
ああああ「正直、俺もリオンデックス法務部の全力って言うから、絶対に対抗勢力になると覚悟してたんだけどな……」
姫子「でもさ、これで、どれほど建国が難しいかは、明らかになったでしょ?引き返すなら今のうちよ?」
サンロー「まあ私も、決して建国を舐めていた訳ではない。ただリオンデックスは、あまりにも!あまりにも!あっけなかったがな!」
ああああ「だからこそ、俺たちが成し遂げたら、最高に格好いいじゃないか!」
姫子「はぁ……『ああああ』って理想主義的なだけじゃなくて、案外熱血だったのね。サンローも同じく?」
サンロー「もちろんだとも、我々の建国が成功すれば、それは即ち!リオンデックスを超えた証だろう!」
姫子「サンローも、リオンデックスが絡むと熱いんだから……冷静なのは、私だけかしら?」
ああああ「いや、リオンデックスを超えたと言えるのは、建国が成功し、国家運営が順調に行ってからだ。憲法草案は概ね出来上がってるんだ、法律制定の議論を続けよう!」
サンロー「そうだな、きちんと国民を守る国をつくれてこそ、格好良さが際立つな」
姫子「そうね、さて『商業都市リオンデックス』で起こった問題の中心は税収、これを見直す所から始めましょう。とりあえず『人頭税』だけは絶対にダメね。『消費税』も当然ナシ」
ああああ「まあ、経済が過熱した時は、時限的に『消費税』の導入を議会で検討すればいいか」
サンロー「姫子君……本当に我々のために、仕事を辞めてまで協力してくれて、ありがとう」
ああああ「そうだな、姫子さん、感謝してもし足りないよ。本当にありがとう」
姫子「やだ、止めてよ、感謝するより私を甘やかしてよ!」
なんだかんだ『エコ・リバース~でこぼこたいら』は、まだ平常運転だった……




