第一節 ケオエコ四回目のアップデート『建国実装』
今回はイラストが二枚入ります。
前回のアップデートの混乱を経て、ケオエコの第四回アップデートが発表された。
『エコ・リバース~でこぼこたいら』の面々は疲弊していた。
というか、ケオエコプレイヤーのほとんどが疲弊していた。
姫子「はぁ……またアップデートか、今度はどんなクソ仕様が押しつけられるんだ」
サンロー「姫子君、素がでているぞ」
姫子「あらいけない、私は姫子!皆さんの姫ですわよ、おほほほほ」
ああああ「こんな姫いらねー……やっぱ姫子さんって、おっさんだろ……」
姫子「さあ、私を持ち上げなさい、私を甘やかしなさい!」
いきなり踊りスクリプトで、踊り始める姫子だった。
アイドル写真を利用したアバターで、コミカルな踊りをする姫子。
姫子ののおっさん疑惑は、ますます深まるのだった。
なぜか、踊りを止めない姫子を放置して、話は進む。
サンロー「姫子君はどちらかと言うと、スクリプト作者を甘やかしているように見えるのだがな」
ああああ「確かに、姫子さんは本当に面倒見がいいよな」
姫子「なによ!下げたり持ち上げたり!常にわたくしを甘やかしなさいよ!」
ああああ「いや、姫子さんの事は本当に尊敬してますよ。性別なんて些細な話でしょう」
サンロー「そうだぞ姫子君、私は為すべきことを為している君のことを。これでも、敬意を持っているつもりだが?」
姫子は踊りながら、ポーズを決めてシャウトする!
その踊りは、なぜか昭和時代の女子プロレスラーを連想させられた。
姫子「私が欲しいのは!敬意じゃないの!甘やかされたいの!」
ああああ「今さら姫子さんを甘やかすとか、それこそ畏れ多い話になるんだよな……」
サンロー「というか姫子君、そろそろ、その踊りを止めないか?」
姫子「私を甘やかしなさい!そうじゃないと、踊りを止めないわよ!」
ああああ「もう完全に脅迫ですよ姫子さん……
まあ、踊りたいなら踊ってていいですよ、もうすぐメンテナンスですし」
こうして『エコ・リバース~でこぼこたいら』拠点で、姫子はメンテナンス直前まで語っていたが、メンテナンスで強制ログアウトの時間になった。
もはや恒例となった、ピッタリ二十四時間のメンテナンス終了後、彼らはログアウト直前のまま、集合した状態で再ログインした。
メンテナンスを跨いで、再び踊り続ける姫子を放置する『ああああ』とサンローは、姫子の扱い方をよくわかっている。
姫子「今回も、やっぱり『魔力の流れが変わりました』のアナウンスが流れたわね」
サンロー「相変わらずLISPは理不尽な扱いなのだろう?検証も楽ではないのだが、ひと頑張りするか……」
ああああ「いや、ちょっと待て!まだシステムメッセージがあるぞ!これが今回のアップデートの目玉だろう」
サンロー「なになに?『プレイヤーによる建国が実装されました』だと……我々が国を持てるというのか!」
姫子「ねえねえ、私たちも国を作ろうじゃない!エコ・リバースの家みたいな規模でいいから!」
サンロー「そう急くな。まずは建国に何が必要か、しっかり調べてからだ」
姫子の踊りは止まらない。
なぜかそのバリエーションは豊富で、すべてコミカル寄りだった。
『Hey!』とかいう吹き出しまで使った、謎にレトロな踊りを披露する姫子。
実はモニタの向こうで笑いながら『ああああ』とサンローは無視を続ける。
そして『エコ・リバース~でこぼこたいら』の面々は『建国実装』について読んだ。
しかし、凄まじく大量の文章に心折れそうになった。
サンロー「姫子君よ、ザッと実装仕様を読んだ限りでは……マイホーム感覚での建国は難しそうだな」
姫子「そうね……エコ・リバースだけでは、建国しても『国家維持費』であっという間に大赤字ね」
ああああ「なあ、確かにマイホーム国家は作れないけど、マジで建国を目指さないか?」
『ああああ』の言葉に驚いたのは姫子だった。
それに対しサンローは既に何かを感じ取っていたのか冷静だった。
姫子は、今や某魔王を連想させるゴージャスな姿をしながら踊っている。
『ああああ』もサンローも、無駄に高いスクリプト能力と衣類生成に呆れながらも放置を続ける。
姫子「何を言ってるの!国家維持費は、とんでもない金額よ?」
サンロー「まあまあ姫子君、まずは『ああああ』の言い分を聞いてみようじゃないか」
ああああ「まずは、この国家維持費ってのは……基本的にケオエコでの土地料金と考えられる。
あとは、法の取り締まりを行う……AI利用関連費用かな。
そして、ここを見てみろ?国民からは税収という形で国に税収が入る……
すなわち、これを国家維持費や実際の国家運営に使えってことだろう。
しっかりした憲法や法律の制定を行えばさ……
プレイヤー達を集めるのも夢物語じゃない、そう俺は思う」
『ああああ』の言い分に頷くサンロー。姫子は踊り狂っている。
サンロー「なるほど、その点は『ああああ』の言うとおりだろう。だが本当にそれだけの価値はあるのか?」
ああああ「こっちを読んでみろ?
国家の領域には通常モンスターは攻め込んでこないとある!
これは今までのような、モンスターの襲撃がある従来の街とは一線を画する。
これは誰かがやるべき事じゃないのか?」
姫子「前から思ってたけど『ああああ』って、かなり理想主義的よね」
姫子の踊りは、なぜかセクシー路線になっていた。
ただ、それすらバブル期的なレトロ表現であり、色気は皆無だった……
扇子を振り回しながら、服装だけは商人に戻ったのだからやむを得ないだろう。
サンロー「しかし『ああああ』の言い分も理解できる。確かに、安全に暮らせる国家があれば、今までのようなギルド襲撃を避けられる。自衛軍の負担も減るだろう。
だが、その肝心の……憲法と法律の制定は誰がするのだ?『ああああ』はできるのか?」
ああああ「これでも俺は割と有名な大学の法学部生なんだよ。
多分名前を出せば、日本で知らない人なんていない。どうか、俺に賭けてくれないか?是非、建国に取り組んでみたい!」
姫子「なるほどね……あの辺りの法学部生か。その理想主義的な在り方も分かる気がするわ」
姫子は白いワンピースに藁帽子を被り、ダンスを踊る。
しかし、なぜかこれもコミカルなダンスだった。
サンロー「ははっ……『ああああ』が私だったら、私の親もさぞ満足しただろうにな……もうサンローじゃなく、ヨンローと呼ばれたい」
姫子「サンローはもうサンローよ!というか、私はあまり建国の力には、なれないんだけど」
サンロー「では、百の言語を操る私が『ああああ』の補佐に入ろうじゃないか!百の言語を操る私なら、六法も敵ではない!」
ああああ「サンローさん、受験勉強に影響しない範囲でお願いしますよ。目指せケオエコの民主主義国家!」
姫子は、突然十二単衣の姿になり、なぜか分身して『よよよ』とか吹き出しを出し始めた。
姫子「ねえ、本格的に建国なんてをするなら……私も今の職場を退職しようかと思うんだけど」
サンロー「姫子君、そこまですることはない!実生活での稼ぎも大切ではないか!」
ああああ「そうですよ姫子さん!ケオエコの為に……退職なんて止めてくださいよ」
姫子「いいえ、これは私なりのケジメよ。それにケオエコの稼ぎで十分暮らしていけるわよ!」
姫子は、まさに姫の姿になり、なぜか金貨をばら撒く踊りを始める。
サンロー「姫子君、少しは冷静になりたまえ……」
姫子「私は十分冷静よ、既に個人資産は二十億円あるんだから。今さら無理に企業にしがみつく必要はないわ!今の職場は、税務処理のためだけにいたのよ」
ああああ「えっ、姫子さん……そのためだけに⁉」
姫子「年末調整も源泉徴収票も勝手に出してくれるし、会社って便利じゃない?だけど、もう潮時ね……税理士雇うわ」
ああああ「税理士を雇うことを『退職の覚悟』で語らないでくださいよ姫子さん……」
サンロー「まあ個人資産二十億あれば、当面大丈夫か……私は小銭稼ぎで利益の五%しか要求してないから、大した額はもっていないはずだ……ちょっと確認してみるか。おや、私も二十億持ってるようだ、まあ実家の資産に比べれば端金だな」
ああああ「ちょっと待て、二人ともそんな大金を持っているのか?俺、十五億円しか持ってないぞ……」
姫子「なによ『ああああ』ったら……常識人は十五億円を『しか』とか言わないわよ。私とのロイヤリティ契約で、定期収入だってあるでしょ」
ああああ「いや、もうちょっと節約するわ。食事宅配サービスを削って、食費を一日千円に抑えるか……」
姫子「いつまで庶民感覚でいるのよ!あなたたちの経済感覚、異常よ?」
姫子はまた、魔王の姿になり、踊りながら指を差す。
サンローは冷静に言葉を継いだ。
サンロー「いや、冷静に考えてみると……二十億とか十五億の稼ぎを出せる、ケオエコ経済圏はどう考えても異常だ」
姫子「異常ねぇ……でも、ほら『ああああ』は全国的に有名な大学の法学部生で、サンローは百のプログラミング言語を操る天才開発者の生産職、私は世界規模でスクリプトを売る商人。むしろ相応じゃない?」
サンロー「姫子君は一体何を言っているのだ、『ああああ』の十五億円があれば、リアルで小さな国くらい運営できるだろうな」
姫子「なんか、リアルよりケオエコの方が建国が大変そうね!」
姫子は麻黄姿で笑いながら、踊り狂い言い放った。
『ああああ』は頭を抱えながらつぶやく。
ああああ「俺たち……このままだと、間違いなくケオエコの世界で神話になっちまうぞ」
サンロー「『ああああ』よ、今さら何を言っているのだ?『エコ・リバース~でこぼこたいら』は、既に神話級の扱いを受けているだろうが」
こうして『エコ・リバース~でこぼこたいら』の建国計画が立ち上がった。
これは秘密裏の計画だったのに、どこかから噂が立てられるようになった。
「エコ・リバースが、建国を計画してるって噂を聞いたか?」
「なんでも民主主義国家を目指してるんだって?」
「なんか、期待が高まるよな……だけど、エコ・リバースの発表がないから、ただの噂かもしれないが」
「お前の目は節穴か?エコ・リバースの面々は、最近あまり表に出てこないだろ!」
「それって、両替商を大量にエコ・リバースに取り込んだ影響じゃ?」
「それじゃサンローさんの、商人や生産職に対する相談時間が減った説明がつかないだろ!」
「それに、最近『ああああ』さんが……モンスター討伐する姿をあまり見ないな」
「サンローさんは、元両替商の教育があるだろうが、『ああああ』さんの動きは確かに……」
「っていうか、サンローさんは教育をほとんど終えてるそうだぜ……あの人、マジで有能だわ、マジでリスペクト」
『エコ・リバース~でこぼこたいら』内で「建国の力になれない」と謙遜していた姫子だったが、積極的に憲法や法律の制定議論に参加していた。
姫子「福祉はほとんどケオエコで必要ないと思うのよ!ケオエコで全資産を失っても、リアルで死ぬわけじゃないし!」
サンロー「姫子君の言い分はもっともだな。現実世界の理想ではなく……ケオエコに合った憲法や法律の制定こそが求められるだろう」
ああああ「しかし、全財産を失った商人や生産職を守る法だってあった方がいいだろう……」
姫子「あんた、本当に法学部生なの?商人も生産職も、今ですら国内では外敵から守られる!それだけでも十分恩恵を受けているでしょう!」
今日の姫子は何をどうやったのか外見は幼女だ。
その姿で、魔王の姿をして金貨をばら撒いているのだから……『ああああ』もサンローも腹筋が痛い。
それでいて、福祉に関しては最も厳しい意見というギャップが、さらに腹筋を痛くする。
サンロー「まあ……『ああああ』がどうしてもと主張するなら、生活保護的な制度を作ってもいいのだがな……」
姫子「何言ってるのサンロー!商人だって生産職だって、収入手段が確保されているのよ?それ以上は過剰!」
ああああ「確かに、現実世界では生活保護は必須だが、確かに働ける者は働くのも、生活保護の原則だな……」
サンロー「『ああああ』の言い分も、姫子君の言い分もわかった。ここでは、食糧調達もままならない国民だけへの救済で、手を打たないか?」
ああああ「わかったよサンローさん、確かにケオエコではそれで十分な福祉になるな」
姫子「私はそれでも過剰な対応だと思うけどね!だけどここは妥協してあげるわ」
サンロー「しかし『ああああ』よ……ここまで踏み込むとか、これで現実世界よりも良い福祉制度になったらどうするんだ?その時はノーベル平和賞でも狙うか?」
現実とかけ離れたケオエコでの憲法や法律制定は遅々として進まない。
しかし、それでも少しずつ前進していた。
エコ・リバースの噂を聞いていたプレイヤーは、建国はまだかと不満の声を上げようとしていた。
そんな時、エコ・リバースより早く『ケオエコエデン』を建国した者が現れた。




