第六節 電脳楽園の法定通貨騒動
結構シリアスです
ケオエコ内で法定通貨に連動するゲーム内通貨が信用できると見られている中、電脳麻薬カンパニーの運営は大騒ぎであった。
「○○通貨暴落!」
「△△通貨急上昇、しかしこれは一時的なもので、急落の気配もあり!」
「□□通貨は一見安定、だが今後の予測不可能!」
その有様は、為替取引業者も真っ青の修羅場であった。
暗号通貨だけでも慣れないのに、主要法定通貨までいきなり業務にぶっ込まれたのだ、無理もない。
「なぁ、俺こんな為替とかやったことないぞ…」
「安心しろ、ここにいる全員やったことなんてない」
「それ、何も安心できませんよね」
「もう一蓮托生だ、だから落ちるときは一緒だ、お前一人じゃない、だから安心しろ、そう信じろ!」
愚痴の内容すら惨憺たるものであった。
そんな時、ケオエコ運営の為替担当室に、電脳楽園社長依田泰造が入室してきた。
「やあ、やっているかね!」
「やってますよ!もう泣きそうです!」
「嬉し泣きかね、そんなに上手く行っているのか!はっはっは!」
「違いますよ、もう何日も帰れないし、ストレスで眠れなくなってて」
「眠れないなら働けばいいんだよ、捗るな!はっはっは!」
いつもの社長のパワハラである。そして、その証拠を押さえることもできない…いや皆で動けば…
「まあ安心しろ、ボーナスは弾んでやるさ!」
「どうせいつもの、価値暴落した暗号通貨でしょ!」
「ばれたか、てへ」
てへぺろ、じゃねーよハゲ社長!
「まあ、頑張りたまえ、私のためにな!」
立ち去った社長の扉を皆で睨み付ける。ホント社長は何をしに来たんだ、ただ邪魔しただけじゃないか…
もう、集中力が限界だ、クラクラする…だけど気絶もできない…
命継庁ができて、特に人命は重視されるようになったが、その分パワハラ規制などの人権思想は蔑ろにされるようになってしまったんだよな。
そういえば…第二回メンテナンスに間に合わせるように書かされたトランスパイラは大丈夫だったんだろうか。
我ながらあまりに杜撰な作りなので、あまり人に見られたくない一種の黒歴史だ。
羽手名さんは「大丈夫だよ、ちゃんと機能している」と言っていたけど…
羽手名さんって、少しくらいの問題だったらその場で修正しちゃうからな…それでいて、たまにバージョン管理ソフトへの登録を忘れるポカをやらかす…
今のところ、ケオエコで公式スクリプトが動カなくなったという報告は聞かないから、ひとマず大丈夫だったんだろうな…
しかし、あのトランスパイラを作っている時ガ屈辱だった…
マるでプログラマとして、自己否定しテいるようナ気持ちだっタ…
何が「def句を使わないPythonコードに落とシ込むトランスパイラを作れ」だよ…そンなのもうPythonじゃねーだろ…
文法的ニ動くからっテ、それがPythonコードっ手訳じゃなイんだ…
なんデ、こんなトランスパイラを作ルことニ陥ったんだっケ…
そウだ、プレイヤーの中に、オふラインスクリぷト構築環境とか作っタ奴がいたカらだ…
そいツがLISP使イだから…LISP封ジの会議が行わレて…関数ヲ全言語で…制約を掛けルようニって話で…
ソれも…全て…アのハげ社長の指示…
あレ…ナんで…こンなに…取り留メのない…考えガ…止まラないんダろう…
きゅウ急しャの…音がする…誰カ…倒れタのかナ…
もウ…イっそ…オれガ…救きゅウ車…デ運…ばれタい…
誰…カ…こノ地獄…カら…助ケて…クれ…
こうして、救急車から担架で運ばれ救急病院に運ばれた彼は、命こそ助かったものの、重篤な脳の障碍を負ったという噂が流れた。
そして、電脳麻薬カンパニー内では「またか」「よくある事」として、すぐに忘れ去られるのだった。
命継庁は「命は救われた」と、問題視することもなく、僅か三分で「円満解決」の議決をしたという。
彼が意識を取り戻してからは、深刻な脳障碍により、終ぞ言語機能は回復しなかったという…救急車で運ばれる時でさえマトモな程の言語機能だったことは、もはや本人でさえ認識出来なくなっていた。
評価に高得点をいただきました、どなたかは存じませんが応援ありがとうございます!




