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第五節 三人組と外国人街

 引きずられるように『ああああ』に連れられて、三人組が到着した外国人街。

 そこは、日本人プレイヤーの噂する、野蛮という印象とは大きくかけ離れていた。


ああああ「まず、外国人街でも姫子さんの『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』は大きなシェアを誇っている」


 三人はまだ、どこか話がピンと来ていない様子だ。


雛太郎「さすがは姫子さん、外国人街でも有名なんですね!」

桃雄「姫子さん、ワールドワイド技術者ですね!」

百合男「でも、外国人プレイヤーはモンスター肉を漁っているって」


 『ああああ』は顔を引きつらせながら言う。


ああああ「君たちのような、モンスター肉を丸呑みする野蛮人なら『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』は不要だろう!

 外国人プレイヤーはモンスター肉を食べる時でも最低限のことはしている!

 具体的に解体は、絶対にやっている!」


 三人は驚きの表情で固まるが……『ああああ』は、もはや頭痛を耐えきれない。


ああああ「外国人街を見てみろ、生産職もいれば商人もいる!

 ケオエコの仕様に馴染めず、スクリプトを書く商人や生産職は多くない。

 しかし、日本人街からの輸入や、流れの商人からの購入で商いを成立させている。

 これが!どういう事かわかるか?」

桃雄「外国人プレイヤーは文化人!」

雛太郎「ここでも素材を売れるんですね!」

百合男「もしかして、日本人街より高く売れるのでは……」

ああああ「あのなぁ……君たちのようにモンスターを丸呑みして、どうやって素材を売るというんだ……君たちが外国人プレイヤーを野蛮人呼ばわしたらブーメランだぞ!いいから、ちょっとこっちに来い!」


 『ああああ』に連れられた先には、『ああああ』が見ていた、外国人に交じって戦闘を頑張っていた元両替商がいた。

 そこは、少しうらぶれた雰囲気があり、あばら屋に毛が生えたような家の前で、彼は必死に剣を振っていた。


ああああ「すまない、天上天下唯我独尊さん……彼らに、ネズミ討伐のリアルを教えてやってくれないか?」

天上天下唯我独尊「その名前で呼ぶの止めてくださいよ、突発性中二病のせいです。生涯、名前を変えられず、本当に後悔してるんですから……まあ、いいですよ、教えましょう」

ああああ「わかった、じゃあ今後はテンテンさんって呼ぶわ。じゃあよろしく」

テンテン「まず、パーティを組みます。既にパーティを組んでいる場合でも、臨時メンバーを加えることがありますね」


 そうして、モンスターを討伐した時の話に移り……


テンテン「まあ、これは言うまでもありませんが、モンスターの死体に素材剥ぎ取り魔法を掛けて、素材に分解しますね。主に血抜きを行い、素材の品質を保持するためですね。そして、日本人パーティではないでしょうが、ここで食事の時間を取ります、せっかく素材になった肉が、食べられるようになったんですから」

ああああ「ほら、聞いたか⁉外国人プレイヤーだって、しっかり素材剥ぎ取りスクリプト回して素材回収して、肉だけを食べてるんだよ!……はぁ、君たちをこのまま放っておいたら、俺が良心の呵責で眠れなくなるところだった……」


 三人はようやく『ああああ』の言わんとしていることを理解した。


桃雄「え、じゃあ俺ら、今まで素材を捨てていたも同然……?俺の身体が逆素材剥ぎ取りスクリプトみたいなものじゃないか!」

雛太郎「捨てていたならまだいい。なぜか消化してしまっているのだよ、アドバイザーとして不覚を取った!」

百合男「これは……素材回収どころか素材破壊……僕たちは、もはや野蛮人以上かもしれない……」


 その時……『ああああ』を知る、外国人プレイヤーが通りがかった。


外国人プレイヤー「おー『ああああ』じゃないか!こないだのジャイアントリザート討伐、ありがとうな」

ああああ「いえいえ、少しでも力になれたならよかった」

外国人プレイヤー「ところで、そこにいるのは……緊縛プレイの聖人ではないか?」

ああああ「ああ、制限プレイの聖人という意味だ、緊縛ではない」

外国人プレイヤー「おお、このケオエコで緊縛すれば、ワイフが喜ぶとおもったんだけどな!ははは!」


 三人組は何のことか分からなかった……


雛太郎「緊縛プレイ?聖人?何のことだ?アドバイザーとしても何もアドバイスできないぞ」

桃雄「なんか、えっちな同人誌を想像してしまった」

百合男「お前ら、そこは問題じゃない!『緊縛プレイの聖人』と呼ばれて、世間体がどうなるか考えろ!」


 『ああああ』は呆れながらも答える。


ああああ「あー、AI翻訳だからこう言う事は頻繁に起こる。こっちにとっておかしい内容が返ってきたら、聞き直すのが最低限のマナーだ。で、君たちは噂で『鹿とネズミだけで稼ごうとしている縛りプレイの聖人』が、こうなってるわけだ。AI翻訳には気をつけろ?『緊縛プレイの聖人』なんて典型的な例だ」

 (作者注:有名な大手翻訳サービス二つで、執筆時点に実際このような翻訳をされます。もはや英訳を見るだけで修復不能でした。面白すぎて、ガッツリとネタに採用しました)


 三人組は、ネズミ丸呑みで野蛮人と呼ばれた時より遙かな驚愕を露わにした。


桃雄「そんな!緊縛プレイもとい、縛りプレイじゃなくて、他のモンスターを倒せないだけなのに!」

雛太郎「その誤解される噂はどこから……」

百合男「いや、事実鹿とネズミしか倒してない俺たちって、端から見たら結構ヤバいかも……」


 『ああああ』はもはや菩薩の心境である。涅槃に至った。


ああああ「鹿とネズミだけで数ヶ月生きてるとか、普通に狂気だからな?

 あー、しっかり指導しておくべきだった……

 俺に迫る動きという噂を鵜呑みにした、俺が馬鹿だった……

 そう、諸行無常なんだ……

 しかし、なぜ俺の人生はこんなに煩悩まみれなんだ……

 もう鹿とネズミが悟りの象徴に見えてきた……」


 そこでまた、外国人プレイヤーが乱入する。


ジョン「ははは!鹿とネズミだけで生きていくクレイジープレイヤーか!どうだ、俺たちと組まないか?約束はできないが、顔通しすれば受け入れて貰えるぞ、楽しい奴は大歓迎だ!」

ああああ「やめろ、そういうのは彼らの為にならない。彼らはモンスターを丸呑みする野蛮人だ!」

ジョン「ははは!鹿とネズミを丸呑みする緊縛プレイヤー!とんでもなくクレイジーじゃないか!そういう伝説級に楽しい奴らは大歓迎だぞ!」


 三人組は、どうやってこの場から逃げようか焦っている。

 しかし『ああああ』に連れてこられた以上、無断で立ち去るのも礼儀に反すると悩んでいると……


ボビー「オー、カオス街で聞いた緊縛プレイヤーじゃない!いつも見てるわよ、あの豪快な丸呑み!」

ああああ「ボビーさん……いえ、ですから!その丸呑みを止めさせようとここに連れてきて……」

ジョン「ははは!丸呑みは諦めろボビー!そいつは俺のワイフだ、緊縛大好きだぞ!」


 三人組は緊縛を繰り返されて、もはや訳がわからない。


百合男「その緊縛プレイヤーって、もしかしなくても、俺たちの事ですよね……?」

桃雄「緊縛プレイヤーって、緊縛する方か?緊縛される方か?」

雛太郎「アドバイザーとして真剣に忠告する、今だけはそういう発言は控えておけ……」

百合男「もはやどっちが緊縛して、どっちが緊縛されるのかも分からない……!このままじゃ俺たち、変なプレイ専門みたいに思われるぞ!」

桃雄「いや、それもう思われてるだろ⁉」

雛太郎「頼むから黙っていろ!俺たち、さらに誤解されるぞ!」


 しかし、二人組の夫婦らしき外国人プレイヤーは、更に興奮した様子で話しかけてくる。


ジョン「ほらな?こいつら緊縛プレイヤーなんだよ!やる方もやられる方もOKと来た!」

ボビー「凄い!趣味が合うわね!今度、近くで丸呑み見せてよ!」

ジョン「俺のワイフはとてもダンディなんだよ……プラチナブロンドが格好いいんだ!」


 三人組は混沌の坩堝に叩き落とされた。


百合男「えっと先ほどのお話から、そちらの方……ジョンさんのワイフ……妻がこちらのボビーさんですよね?」

桃雄「落ち着け百合男!ボビーとか思いっきり男性名じゃないか、察しろよ!」

雛太郎「申し訳ありませんが、私たちはゲイではないんですよ……」


 二人組のゲイカップルは、気を悪くした風もなく答える。


ジョン「なんだね?私のワイフを緊縛するのも、ワイフに緊縛されるのも私の特権だよ」

ボビー「なーに?それとも、日本では配偶者以外ともそういう事を平気でするの?」


 この言葉には、流石に三人組も頭を冷やして深く反省した。


雛太郎「いえ、日本でもパートナー以外とそのような事をする習慣はありません、

 失言しました」

百合男「私も失言でした、大切な方だけを愛するのは当然ですよね……」

桃雄「本当に、この二人が申し訳ありませんでした」


 そうすると、二人組のゲイカップルが笑い出す。


ジョン「ははは、どんなにクレイジーと言われても日本人は真面目だな!」

ボビー「そうよ、安心して、ちょっと演技しただけだから……あなた達が信頼に値するかどうかの試験。十分に合格よ」

ジョン「そう、ボビーはただのハンドルだ、本名は控えさせてもらうよ。ただし普通に女性だ、私たちは性的にはマジョリティに分類される。ただし、そうではないプレイヤーもいるから、このような芝居をさせてもらった」

ボビー「でも、気に入ったわ。本当に、私たちのパーティに彼らを預けてみない?」


 『ああああ』は苦笑いしながらも、三人組が比較的理知的な対応をしたことで評価を改めていた。


ああああ「そうですね、あなた方なら相性も良さそうです。ただ、彼らのモンスター丸呑み文化は、できるだけ早く止めさせるようにお願いします」

ジョン「ははは、それがクレイジーで面白かったんだがな!まあ、丸呑みがなくなっても、彼らにはまだまだ可能性があると見た!」

ボビー「そうね、日本人プレイヤーは、私たちがモンスターの肉を食べてるってだけで蔑視してきたんだもの。それに比べて、彼らは自らモンスターの肉を食べたんですもの。そのやり方は野蛮だったけど、異文化交流なんてこんなものよ!」

ああああ「良かったなお前達!これで鹿とネズミしか狩れないという状況から、脱出の目処が立ったぞ」

ジョン「ははは、まあ我々も鹿やネズミは狩るけどな?それだけじゃないぞ、緊縛プレイヤー達よ」

ボビー「そうよ、緊縛プレイヤーの実力、期待しているからね!」


 三人組は苦笑しながら答える。


百合男「我々は別に緊縛プレイヤーではありませんが、よろしくお願いします」

桃雄「早速、我々の野蛮な所をビシバシ直してください!」

雛太郎「おいおい『ああああ』さんの話を聞いてなかったのか?素材剥ぎ取り魔法をかけて、肉だけを食する、それだけの話じゃないか」


 存在を忘れられていた、元両替商テンテンが……納得しながら話に混じる。


テンテン「なるほど、話を聞いていておおよそ理解しました。そうです、モンスターの肉を食べるのは野蛮だと言われていますが、外国人プレイヤーは肉の素材を食べているだけなんですよ」

桃雄「テンテンさんでしたっけ?それで空腹は解消されるんですよね?」

テンテン「テンテン呼びありがとう。それで、いや……済まない。私は両替商としてレベルが上がってしまったのですよ。一度モンスターの肉を試したけど飢餓寸前になってしまった、参考になれず済まない」


 これを聞いて驚いたのは夫妻の二人である。


ジョン「なんと、レベルが上がるとモンスター肉の素材だけでは足りなくなるのか!」

ボビー「これ、皆に教えた方がいいでしょ……まだこの街には食糧作る人がほとんどいないわよ!彼らも贅沢品を作っている感覚でしょ。今からでも食糧生産職が多数いてくれないと、私たちのレベルではいつ危なくなるか……」

ジョン「ちなみにテンテン、君のレベルは?」

テンテン「恥ずかしながらレベル四三です……」

ジョン「我々のレベルは今一八前後……レベルの上昇率から考えると、あまり猶予はないな……」

ボビー「ごめんテンテン、あなたの名前は出さないから、これをこの町全体チャットに流すわね」

テンテン「いえ、お力になれたなら何よりです」


 そうして、街の全体チャットでその情報が共有された。

 それからの外国人街の混乱は凄まじいものだった。


 外国人街の生産職ギルドが集まり『改変可/再配布可』の食糧生産スクリプトを、混沌の街から買い入れる事が急遽決定した。


 そんな騒ぎの中『ああああ』は気がつけば姿を消していた……


ジョン「ちなみに、クレイジー緊縛プレイヤー達よ、君たちのレベルは幾つだ?まだ猶予はあるのか?」

雛太郎「ええ、我々のレベルは間もなく七という状況ですので、ジョンさんやボビーさんよりずっと余裕があります」

桃雄「食糧が問題になる前に、僕らはまず鹿とネズミを脱出したい!」

百合男「まずは、クレイジー緊縛プレイヤーって呼ばれるのを脱出したいだろ!」

ジョン「テンテンはクレイジーな程にレベルが高いのに、クレイジー緊縛プレイヤーはクレイジーにレベルが低いな!ははは!」

ボビー「でも、食糧のことを考えると、緊縛プレイヤー達はあまりクレイジーじゃないかもね」


 そして、翌日には行商人が幅広い食糧スクリプトの行商に来た。

 外国人街では『ああああ』の手配であることを疑う者は誰もいなかった。


 また、経緯を知った外国人街の皆は、テンテンに対して『改変可/再配布可』の食糧生成スクリプトを渡したのだった。

 天上天下唯我独尊改めテンテンは「そうか、スクリプトは魔法だから、誰でも使えるんだった……」と目から鱗を落としていた。


テンテン「ありがとうございます、これで飢えて死ぬ危険がなくなりました……」


 その後、テンテンは戦闘職兼食糧生産者として、あちこちのパーティから引っ張りだこになった。


 なお、ジョンとボビーは外国人街でも顔役パーティだったので、三人組はいつしか外国人街を拠点にするようになった。


百合男「まあ、これからは俺たちもちゃんと素材を剥ぎ取る練習をするか……」

桃雄「それは単にモンスター素材剥ぎ取りスクリプトを回すだけだろう……

 次の目標は、鹿とネズミ以外を狩れるようになることだな!」

雛太郎「異文化交流も頑張るぞ。アドバイザーとして、俺たちは成長するしかない!」


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