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第一節 ケオエコ三回目のアップデート『グローバル対応』『ゲーム内通貨に法定通貨連動』

 年度末の騒動を報道するマスコミを無視するように、ケオエコ三回目のアップデートが公開された。

 主な内容は「i18n対応」「ゲーム内通貨に法定通貨連動追加」である。


 そのアップデート自体もマスコミに強い批判を受けたが、むしろケオエコプレイヤーは歓迎している。


羽手名「i18nって、18カ国語対応だっけ?」

社員「ちげーよ、internationalizationの略で、主要言語対応くらいの意味だ」

羽手名「なんで、今まで外国語に対応しなかったんだ?英語くらいならすぐに対応できただろう」

社員「はは、実は徐々に国際化の準備していたけど、一気に対応完了して国際化の方がインパクトは凄まじいだろ!」

羽手名「だけど、ケオエコのチャットは大混乱にならないか?」

社員「ふっ、チャットではAI翻訳で、全て母国語のやり取りが可能!真の国際化ここにあり!」

羽手名「(実装に関わってないコイツが、なんでこんなドヤ顔で語ってるんだろ)」

社員「ところで、石材関連の公式スクリプトの問題はなかったのかよ」

羽手名「ああ、テストコードを通過した物だったし、実地検証も行ってるんだ……問題なんて起こってないさ」

社員「そうじゃないよ、『混沌の街』だったか?あそこのギルド、公式スクリプトを解読しているとかいう話だぞ」

羽手名「それに何の問題が?そもそも『改変可/再配布可』ライセンスだから、彼らは何も違反していないだろう」

社員「アラートに引っかかったチャットを監視していたが、奴らトランスパイラ作った可能性があるな」

羽手名「ああ、それは耳にしている。さすがに個人利用のトランスパイラに制裁とか、どんな理屈を付けて規制するんだよ」

社員「ここからが本題だ、今までは日本国内展開だったからログアラートも機能していた。しかし、真の国際化が行われたら、私のようなエリートしか対応できなくなるではないか」

羽手名「ご自慢の真の国際化で対応すればいいじゃないか」

社員「馬鹿野郎、AI翻訳がそんな完璧なわけないだろ!そもそもOEMだぞ」

羽手名「OEMで済ませるなんてお察しだよな。な、真の国際化君!」

社員「わかったよ、調子に乗った。だから、もうその呼び名は勘弁してくれ……」


 そう……最新鋭のAI翻訳ソフト搭載によって、全世界のチャットが母国語で読めるのだ、当然相手も母国語で読める。

 プレイヤー達は、期待しながらも「本当に使い物になるのか?」「サーバー負荷大丈夫か?」と疑問を抱いていた。

 羽手名達のやり取りからも分かるとおり、その精度は電脳麻薬カンパニー内部でさえ信用を置いていない。


 しかし、そのグローバル対応すら霞むのが「ゲーム内通貨の法定通貨追加」である。

 この通貨を手に入れれば、不安定に乱高下する暗号通貨ではなく、安定した法定通貨……例えば日本円やドル、ユーロ等が手に入る。

 有志Wikiは、この件に関して多くの考察を発表した。


「なあ、遂にケオエコで日本円が手に入るようになるみたいだぜ!」

ハテナ「そんなに上手く行くかなぁ」

「暗号通貨の所得申告はマジ大変だったが、日本円収入なら簡単だぜ!」

ハテナ「まあ、頑張れ……」

「いやー、疫病のせいで散々だったが……これから俺の時代が来る!」

ハテナ「時代が来るといいな……」


 そして、有志Wikiの考察により『レバレッジの無いFXのような世界になる』という見解が出された。

 この見解に、ケオエコプレイヤーの一部は熱狂し、暗号通貨で失敗したプレイヤーも一発逆転を夢見る。

 一部では「ゲーム内通貨が国際基軸通貨に?」などという噂まで立つ始末である。


 相変わらずの二十四時間メンテナンスでアップデートがなされて、再ログインしたプレイヤー達はまず『グローバル対応』で広がったマップを目の当たりにする。

 一部の戦闘職は早速探索に出るが……自分たちの時のように『公式売買所』の周辺に、あばら屋があるだけと知って、すぐに興味を失う。


 『エコ・リバース~でこぼこたいら』の面々もログインした、いつの間にかギルド拠点でログアウトとログインが習慣になり、特にメンテナンス直後はこうしてすぐに話し合える。


ああああ「さて、国際化対応、AIチャット翻訳で外国人プレイヤーとも、日本語で話せるようになったんだな!」

サンロー「ああ、だが気をつけろよ『ああああ』よ……AIチャット翻訳を万能だなんて思わないことだ」

ああああ「そうか?既存サービスでも、AI翻訳はかなりの精度じゃないか」

姫子「私もサンローの意見に賛成ね。AI翻訳一発でネイティブ外国語になんて、絶対上手くいかないわよ」

ああああ「そっか……でも、法定通貨が手に入るようになった方も衝撃だよな」

サンロー「そちらも、実態はどうなんだろうな……少なくとも簡単に手に入るとは、とてもじゃないが考えられないな」

ああああ「なんでだ?」

姫子「よく考えてみなさいよ?ケオエコで法定通貨が出るなら、おそらく宝箱からでしょうね。そうなったら、どうなると思う?前みたいにまた宝箱を独占する輩が出て、彼らが日本円などを独占するでしょうね」

ああああ「そうなったら、また昔の俺が参加したパーティみたいに討伐パーティが」

姫子「前回の顛末がWikiで公開されている以上、討伐パーティも法定通貨狙いと思われてるのがオチでしょうね。下手したら、全ギルドから干されるわよ。当然宝箱を独占したパーティも同様に」

サンロー「そうだな『ああああ』よ……あまり目の色を変えて狙わない方がいい」

姫子「っていうかさ……なんか、今のケオエコ経済って、若干スタグフレーションじゃない?私たちの収入は上がらないけど、物価は上昇傾向でさ」

サンロー「姫子君、それはある程度やむを得ないのではないか?どこからゲーム内通貨が出てくるのかを考えれば……な」

ああああ「確かに、今の所はダンジョンの宝箱頼りなんだよな……」


 こうして『エコ・リバース~でこぼこたいら』内部では、法定通貨について慎重論が採用されたが、多くのプレイヤーにとってはそうではない。


日本人プレイヤー「日本円はどこだ……?」


 せっかくの大量の諸外国プレイヤーを、置き去りにする事態に陥ったのだ。


外国人プレイヤー「なあ、このケオエコ、日本ではとてもクールなゲームだと聞いてるぞ!」

日本人プレイヤー「今はそれどころじゃないんだよ!」


 このように日本人コアプレイヤーが、新規諸外国プレイヤーに言葉で攻撃する事態が頻発し、埋められない亀裂が発生した。

 外国人プレイヤーは運営に通報しようとするが、通報機能が存在しない事に愕然とする。

 流石にあまりに露骨な単語は伏せ字になるが、ケオエコの対処なんてそんなものだ。

 この程度に対応していたら、電脳麻薬カンパニーも業務がパンクする。


 ここで新規プレイヤーの利点が浮き彫りになった。


 キャラクターレベルを上げてしまうと、食糧を生産職から買わざるを得ない状況に陥る。

 そして、飢餓によるHP減少幅が無視できなくなるのだ。


 それに対し、新規プレイヤーは食糧を買わずとも、モンスター素材の肉だけで事足りてしまう。


 日本人コアプレイヤーは、そんな新規プレイヤーを「野蛮人」と貶す状況まで発生し、それでいて新規プレイヤーの方が暗号通貨を稼ぐという逆転現象が発生した。


 結果として、日本人コアプレイヤー間で自然発生した街と、諸外国新規プレイヤーの街は棲み分けが進んだ。

 ケオエコ国際化という波に、結果として日本人コアプレイヤーだけが取り残されることになった。まさに皮肉な結果だった。


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