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第六節 年度末の阿鼻叫喚

 年度末といえば、所得申告の処理が待ち構えている。

 本来、ゲーム内通貨だけで遊んでいたケオエコプレイヤーにとっては無縁な話だった。

 しかし「疫病イベント」の影響を受けて、一気に状況が変わる。


 有志Wikiにも『所得申告を忘れるな!』と強く表示される程だった。


 『エコ・リバース~でこぼこたいら』や、親しいギルド内部でも、その件は語られていた。


サンロー「『ああああ』よ、確か大学生だったよな?所得申告は行ったか?」

ああああ「ああ、これでも一応法学部生だからな、そういうところの知識は自信があるぜ?そういうサンローさんは」

サンロー「私は親に丸投げだな。受験勉強に集中しろと抜かしていた……ふふふ、ケオエコで書けない分、自分専用のLISPスクリプトを書いているが」

ああああ「あんなに長時間ケオエコをやりながら、よくそんな時間が取れるな……じゃあ、姫子さんは?」

姫子「ああ、私は社会人だし副業をしていたこともあるから、慣れたものだ」

ああああ「ホント、姫子さんはおっさん臭いこと言うよな……」

姫子「お、おお、おっさんちゃうわ、ほら!こんな可愛いアバター!」

ああああ「なんか、どこかで見たことあるようなアバターなんだよな……」

サンロー「ネットゲームで個人情報の追求はタブーだぞ。しかし、年度が変わると私のサンローという名前が相応しくなくなるのが困る」

ああああ「何でだよ」

サンロー「今年、医学部受験に落ちるから四浪になるのだよ、ヨンローに変えたいがケオエコではそれができなくてな……」

ああああ「いや、ケオエコやってる場合かよ……」

サンロー「いいんだ、そもそも私に医学部合格する学力などない設定だからな……LISPさえあればいい、このままでは一生浪人生だろうな!」


 例の三人組は暢気なものだった。


雛太郎「アドバイザーとして確認する、所得申告は大丈夫か?」

百合男「俺たちは疫病にもやられず、換金の必要性もなかっただろう」

桃雄「そもそも、ケオエコでの食糧調達で精一杯だからな!」

百合男「はぁ、エコ・リバース案件での収入から、コインは減りっぱなしだな」

雛太郎「そうだな、このコインを換金なんてしたら我々は詰むんだった!」

桃雄「ま、俺らみたいなパーティなら、一人か二人が感染したくらいなら、一時的にコイン預けて死ねば済む話だろ」

百合男「金がまつわる話は、そんな単純じゃないだろう」

雛太郎「そこは借用書魔法を使えばどうとでもなるだろう!アドバイザーとして金のトラブルは起こすなと忠告するぞ!」

桃雄「ってか、本当に……ただネトゲやってるだけだよな俺たち」

百合男「今のところ、現金収入は一切ないしな……皆そうだろ?」

雛太郎「なんなら、暗号通貨に交換する方法すら忘れた!」

桃雄「雛太郎……さすがに、暗号通貨の交換方法は……あ、俺もわからん」


 エコ・リバース派は比較的落ち着いて対処できたし、三人組はそもそも対処不要だったが、大半のケオエコプレイヤーは大混乱だった。

 

 ゲームでの所得申告など、大半のプレイヤーにとって想定外の事態だった。

 ケオエコ全体チャットでも、次の文面が頻繁に流れる。


『疫病にやられた奴は特に、所得申告に気をつけろ!』


 しかし、一般的なケオエコプレイヤーにとって、所得申告の知識は身近なものではなかった。


 全体チャット警告を見る前に、速攻で調べたプレイヤーは税務士への依頼をしたが、そうすると……税務士の負担がパンクするのは、目に見えている。

 大半のプレイヤーは税務士に依頼を断られ、リアルで阿鼻叫喚に陥った。

 全体チャットを早期に見たプレイヤーでさえ、税務士への依頼は間に合わなかった。


 プレイヤーのほとんどは、必死にネット上で調べ、一部はクラウドサービスを使い、自力で必死に所得申告をしようとする。

 当然、そんな素人の所得申告には多くの過不足があり、税務署も大量の所得申告チェックで大混乱に陥った。


 マスコミでもこの事態を報道された。


「ケオエコプレイヤーの所得申告問題!税務署も対応に追われる大惨事!」


 しかし、ケオエコプレイヤーも手一杯である、ケオエコでの大混乱があったとはいえ、信用のためにケオエコも止められない。

 なによりゲーム内通貨を稼がないと、キャラクターが餓死を繰り返して詰んでしまう。

 だからといって税金について正しく申告しなければ、下手をすると後ろに手が回る事態である。

 これを受けて、クラウドサービス……特にケオエコプレイヤー特化のサービスが増えたが、少なくとも今年度には間に合わない。


 暗号通貨を含めた収入申告多数という事態は、税務署も対応に大変苦慮したのだ。


 また別件として、ケオエコ内でスクリプト商会ギルドを開いているリオンデックスの報道も流れた。


「リオンデックスの決算大赤字!ケオエコ参入の傷は深い!しかし撤退の意思を見せず」


 これにより、リオンデックスの株価も下降傾向にあったが、所得申告に追われたケオエコプレイヤーにとっては、まるで関係の無い話だった。


 そもそも、疫病対策薬のオークションでリオンデックス商会の信頼は、既に失墜しかけていた。せめて、リオンデックスもエコ・リバースも、抽選形式で疫病対策薬を売るべきだっただろう……それが平等だったのではないか。


 その後、ケオエコ上で元リオンデックス派商業ギルド長の姿を見た者はいないという。


これにて第三章完結です。

以前からさらにブックマーク1件増えました、応援ありがとうございます。

面白いと思っていただけたなら、引き続き第四章以降もよろしくお願いします。

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