第一節 『Chaos Economica ~Bleak Rules~』発表前夜
お分かりかと思いますが、こんなMMORPGサーバーはフィクションの産物です。
その日は電脳楽園、数多くの『依存せずにはいられないソフトウェアが国際的に知られる』企業、通称電脳麻薬カンパニーの新ソフトウェア発表会だった。
その発表会はとても華やかで、映像で見るだけでも、どれほどの金が掛かっているのかと息を呑むような舞台だった。
「我が電脳楽園渾身のMMORPG大作『Chaos Economica ~Bleak Rules~』略してケオエコの発表が、いよいよ明日に迫って参りました!月わずか千円のサブスクリプションで、スクリプト完全利用可能、ゲーム内売買可能、ゲーム内通貨は複数存在し、各暗号通貨と連動して事実上のRMT解禁、手数料を払えばゲーム内通貨の現金化も可能という、かつて存在しなかったゲームです!」
「電脳麻薬カンパニーさんのケオエコには、凄まじい期待が寄せられていますね!数多くの法的ハードルが存在していたと思いますが、それについては」
「資金決済法、金融商品取引法、マネーロンダリング防止規制など、法的問題は全てクリアできました!」
「いや、そんな簡単な話ではないでしょう…」
「大丈夫です、うちの法務部が大丈夫と言っているので大丈夫です!」
「そういえば、生涯で一度しかアカウントを作成できない、サブキャラクターも存在しないという挑戦的な規約らしいですが」
「ええ、アカウントはマイナンバーを利用して管理します。マイナンバーと個人情報は厳格に管理を分けておりますので、ご利用の皆様もご安心ください!」
「しかし一人のキャラクターしか操れないというのは、実際どうなんでしょう?」
「私どもの考えとしましては、ケオエコ内長くでプレイすればするほど、キャラクターが成長するので愛着を持てるように誠意努力しました。転職によるペナルティは一切ありませんのでご安心ください」
「スクリプト解禁との事ですが、どのような仕組みなのでしょうか?」
同時に、背景のスライドで数々の言語名がアニメーションで飛び出してくる。
そして最後に出てきた、大きな文字の『未来への架け橋!』という言葉が、胡散臭さを何倍にも高めてくれる。
この後に続く言葉も、実はスライドに気を取られて、インタビュアーの頭に入ってない。
「弊社が用意した各種言語向けAPIライブラリを通じて、皆様に幅広いプログラミング言語でご利用いただけます!ライブラリは、なんとコンパイラ言語にも対応しているんです!
利用可能な主な言語は、スクリプト言語ではPython、Ruby、JavaScript、TypeScript、Luaなど。コンパイラ言語ではC、C++、Java、C#、Go、Rust、Swift、そしてKotlinなど、多彩に対応しています。これらの言語に留まらず、ほとんどの言語を既に完全にサポートしており、すぐにご利用いただけます。
これらスクリプトやコンパイラ言語は、購入したものも含めて、すべてサーバー上で稼働するため、専門知識がなくてもスムーズにスクリプトを動かせます!詳しくは対応言語一覧をご確認ください。不備がございましたら、即座に対応することをお約束いたします!」
「…MMORPGという触れ込みですが、複数のホームサーバーに各自が登録する一般的な形でしょうか?」
「いえ、ホームサーバー的な存在はあるのですが、頑健かつ強力なサーバー構成を採用して、シームレスに各ユーザーが触れあえます。ユーザーの皆様はホームサーバーを意識することのない、快適な世界を堪能してください!」
この発表前夜のケオエコニュース映像で、更に凄まじい期待が集まった。
考えてもみよう、今までMMORPGで禁止されていた行為のほとんどが解禁される上に、ゲーム内通貨の現金化までできるという!
これは、本当に「ゲームをプレイしているだけで金を稼げる」という話であり…熱狂しない方が無理であろう。
「おい、ケオエコいよいよ発表だな!電脳麻薬カンパニーの新作MMORPG!」
SNSで相互フォローのハテナに話しかける、とある人のやり取り。
ハテナ「うん、電脳麻薬カンパニーの新作だろ?月千円のサブスクリプション」
「馬鹿だなぁ、安いだけじゃないんだって、ケオエコでは実際に稼げるんだよ」
ハテナ「ゲームなのに稼げるって言ってもなぁ、ゲームはゲームだぞ?」
「もうゲームの枠を超えてるんだって!本当に、今までとは一線を画しているんだから」
ハテナ「金が欲しいなら、素直にバイトすればいいと思うんだがなぁ…」
「なんだよ、冷めてるなぁ…俺はケオエコで一発当てるぜ!」
ハテナ「まぁ、気をつけろよ…」