第七節 ケオエコによるPC需要と価格高騰
ケオエコプレイヤーは、マスコミの連日報道に影響されて、むしろ増える一方だった。
その結果発生したのはPC──特にCPUとグラフィックボードの品不足であった。
コアプレイヤーはケオエコが出る前に、PC一式を揃えて備えていたので問題はない。
しかし、これからケオエコの世界に突入しようと夢見る人々が、PC購入に踏み切るケースは急増した。
その結果、酷い円安の影響もあった上に、更に品不足が起こりコンピュータ自体の価格が暴騰。CPUやグラフィックボードも、コンピュータを所持していても、より上位モデルのニーズが増大した。
ゆえに、CPUとグラフィックボードの価格暴騰は、もはや尋常ではないレベルに達した。
これらコンピュータパーツは海外製造で輸入に頼っているし、海外でもそれぞれ需要があるのだから当然だ。
あまりに暴騰したPCやパーツの価格のため、電気街などは閑散としてしまっていた。
業務で利用するPC故障など、やむを得ない者だけが、暴騰したPCやパーツを電気街で購入する。
今やネット通販やオークションより、電気街の方が廉価という状況が発生している。
電気街で仕入れて、ネット通販やオークションで再販すれば、そこそこ良い儲けが出るほどの価格差である。
この再販に手を出す一部の層は、転売屋とは一線を画した商人であると一般に認知されている。
彼らは、電気街を荒らしてまでの儲けは追求しないのだから、社会の混乱を招いていないという見解だ。
何より、電気街に店を構える所も、ネット相場を荒らしたら自分達の在庫が荒らされると警戒し、店頭価格より遙か高値で売っているのだ。
店舗でも、店頭価格をネットに流さないよう、店内掲示などで注意喚起している。
下手に店頭に販売価格の貼り紙をしたら、マスコミの餌食だと警戒しているのだ。
電気街で村八分となれば、商売の信用にも関わる。仕入れにも影響しかねないのだ。
それでも人の口には戸が立てられない、一部アフィリエイトブログやニュース記事では「PCのネット価格と電気街にある価格差」などと取り上げられる。
店舗の写真拒否や映像拒否から、それらの記事には同意する者と、デマではないかと疑う者に分かれた。
デマを疑う者は狡猾で、電気街の方が安いという事実を、むしろ詳しく知っている。
その事実をネット上に流されることで、自分に不利益が生じる可能性を潰す為に、敢えてデマを訴えている。
このようなPC系商品のネット通販麻痺状態に、ケオエコに手を出さない層は、更にケオエコへの恨みを募らせるのだった。
『電脳麻薬カンパニー』は一般層向けにも、電脳麻薬の名に相応しいアプリケーションをリリースしているが、ケオエコの余波を被った者達の中からは、それらアプリケーションを忌避する者も出てきている。
スマホ向けの『電脳麻薬カンパニー』リリースアプリケーションの評価は、レビューが大荒れで評価を暴落させている。
電気街が遠い者達にとって、時間をかけて電気街に行くか、高値のネット通販で時短をするかを迫られるのだ。
ケオエコのせいでと言われたら、それはもはや大抵の人が同意する事実であった。
ケオエコプレイヤーなんて、端から見ればただの廃人ネトゲプレイヤー。
彼らは電気街に足を運ぶ時間を惜しんで、ネット通販やオークションで相場を知る。
この状況下で「いずれ買い替えればいい」と思っていた、ケオエコのコアプレイヤー達は深く後悔した。
「うげ、オークション見たけど、ミドルハイエンドのグラフィックボードが五十万円超えとか……とてもじゃないが手が出せないぞ」
「多分俺もそのオークションを使ってる、最上位のCPUも五十万超えだぞ、ケオエコではそれほどCPUを使わないという話だったのに……」
「くっそ!あの時に、借金してでも最上位グラフィックボードを買っておけば……」
「俺も、マルチコアに強いCPUを使ってたけど……ケオエコってシングルコア処理も大切だから参ってるわ……」
コアプレイヤーのみならず、ライトプレイヤーのマイニング層にも需要が発生したのが悪い方向に動いた。
「マイニングって、通貨によってCPUかグラフィックボードの性能がいいと、マイニング効率がいいらしいぜ」
とあるライトプレイヤーの言葉は、瞬く間に広まった。
「こないだの話を聞いて調べたけど、やっぱ、この暗号通貨マイニングにはハイスペックなグラフィックボードが必須だって!」
「俺の暗号通貨はCPUのスペックが必要だとさ」
「お前らはまだマシだぞ、俺なんかCPUもグラフィックボードも必要なんだぞ……どうしろって言うんだ」
こうしてPCニーズが高まってしまい、全ケオエコプレイヤーがハイスペックなCPUやグラフィックボードを求めるに至った。
ただ金額があまりに高騰したため、多くのプレイヤーはアップグレードを諦め、現状維持を選ぶ。
羽手名「マイニングプレイヤーは、まさか電気代を考えていないのか……?」
羽手名の言葉は、残念ながら誰にも届かない独り言であった。
スクリプトを利用すると、ゲーム経由でPCにおけるマイニングが行われているのだ。
ライトプレイヤーは後に電気代が跳ね上がり、そのことを大いに嘆くが時既に遅し。
一部の、ハイエンドCPUやグラフィックボードに買い替えた『自称ライトプレイヤー』は、使い道のない高級パーツに深く後悔した。
彼らは、電気街で買うよりはるかに高値で買ってしまったが、今からでもオークションに出せば相当額を取り戻せるという事実を知らぬまま。
そして、せっかくだからとハイエンドパーツを使う事で、密かに行われているマイニングに気づかず助力しているのだった。
これにて第二章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
「Chaos Economica ~Bleak Rules~」の混沌はまだ始まったばかり──
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