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第六節 追い詰められるコアプレイヤーと暢気なライトプレイヤー

 ケオエコの大半のコアプレイヤーは疲弊していた。

 ゲームなのに、まるでゲームの外と内での二重生活だ。

 それを常時強いられているような感覚だった。


 しかし、暗号通貨という目に見える報酬があるだけに、一日の休憩が致命的な損害に繋がるかもしれない。

 そんな強迫観念のために、ケオエコを止めるに止められなかった。


 『ああああ』は学生、サンローは勉強しない浪人生だから、まだ負担は少なかったが、社会人の姫子は特に疲弊していた。


ああああ「おーい、例のモンスター狩ってきたぞ……ってどうした姫子さん」

姫子「あー、おらはもうつかれた」

ああああ「おら?」

姫子「わりぃ、疲れて素がでとる。モンスターサンキューな」

ああああ「まあ、あんま無理するなよ……」


ああああ「なあ、サンローさん、姫子さん大丈夫かな?しばらく休んだ方がいいんじゃないか」

サンロー「しばらく、とは具体的にどれくらいだ?

 今や姫子君の『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』は誰もが手放せない。

 そんな姫子君が、ケオエコから一日でもいなくなったらどうなる?

 大騒動は必至だろう、暴動すら起こりかねないぞ」

ああああ「店番自体はサンローさんとの二交代制だろ?サンローさんの時間をもうちょっと増やして……」

サンロー「これでも私は一日十六時間の店番だぞ?

 最近はスクリプト相談もな、店頭で受けている。

 美しいスクリプトも書けないから、正直楽しくもない。

 だけれど仮にもギルド長として、精一杯やっているつもりだ。

 さすがにこれ以上の姫子君優遇は、私の体調に悪影響が出てしまうのだよ」


 サンローは店頭の椅子で背を伸ばす。リアルでも同じ動作をしているため、ポチッとそのエモーションを入れたのだ。


ああああ「な、一日十六時間……ごめん、軽率だった。じゃあ誰かを雇ってとか」

サンロー「店番だけならそれもいいだろう。だけど『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』だけは、姫子君が専門だ。

 これだけは、正直私でも……あのPythonの長大なmatch文で構成されたスクリプトは、更新が厳しい水準なのだよ。

 更新自体はできるのだ、しかし保守性を落とさずの更新となると厳しく、結果として姫子君の負担を増やしかねない」

 (作者注:私では普通にできないことを描いています)

ああああ「サンローさんでも厳しい?」

サンロー「美しくないスクリプトを強いられる現状、あれほどの長大なスクリプト……

 それを大して保守性を落とさず書いてるのは、もはや一種の才能なのだ。

 ああはなりたくないがな……そういうのが、実務経験の強みだろう」

ああああ「でも、サンローさんの負担を考えると、やっぱ店番を雇った方が……」

サンロー「いや、私は平気だ。そもそも、結構な頻度でスクリプトの相談が来るので、私が対応しなければならない案件が多いのだよ」

ああああ「なんか戦闘職ですまない。俺もスクリプトが少しでも書ければ、力になれたかもしれないのに」

サンロー「あまり深く考えるな、それぞれができることを分担しているだけだ。

 君が仮にスクリプトができたとして、肝心のモンスターはどうやって手に入れるのだ?」


 『エコ・リバース~でこぼこたいら』も手一杯だが、他も似たようなものだ。

 むしろ『ああああ』ほど戦闘を楽しむ者は、既に少数派となってきている。


 戦闘職は数多くのモンスターや、モンスター素材を納入しないとゲーム内通貨を得られない。生産職は一日店を閉めるだけで、商人から卸された素材からの商品納入の遅れという損害を無視できない。商人に至っては、もはや交代制で二十四時間営業と、本当に休む余裕がない。


 下手をすると、現実世界の労働より過酷なのだ……ケオエコに労働基準法など存在しないのだから。

 職を辞したり、大学を辞めてケオエコ一本に絞った者は、起床から就寝まで、食事とトイレとたまに風呂に入る休憩くらいでぶっ続けでケオエコをやっている。

 そんなケオエコプレイヤーが増えるから、余計に周りの者も止められないで、長時間拘束されるに至っている。

 これが現実と二足の草鞋を履く者はもっと悲惨だ。結果的にケオエコの時間が削られて収益に影響するから、必要とあれば睡眠時間を削ってでもケオエコをやっている。


 その一方、ライトプレイヤーは気楽なケオエコライフを満喫していた。

 彼らは『混沌の街』のような中心地から離れて、小さな街のあばら屋でその日暮らしをしていた。


ライトプレイヤーA「さて、今日も暗号通貨マイニングを行いますか」

ライトプレイヤーB「って言っても、スクリプトを回すだけだけどな」

ライトプレイヤーC「そういえば、Wikiで『マイニングは割に合わない』って書いてあったけど、あれ、なんでだろうな?」

ライトプレイヤーA「さあな、ただマイニングスクリプトは商人から安く買えたよな」

ライトプレイヤーC「これだけ確実に儲かるのにな、ちょっと謎だわ」

ライトプレイヤーB「もしかして、マイニングスクリプトを回してると、ファンの音がうるさくなるのと関係してる?」

ライトプレイヤーD「マイニング……そういえば電脳麻薬カンパニーは、以前何かの施設を海外に作ってたよね?」

ライトプレイヤーA「いいんだよ、そんな話。俺たちが儲けられればな」

ライトプレイヤーC「ところで、どの通貨をマイニングするか、どうやって決めた?」

ライトプレイヤーD「うーん、なんとなく?」

ライトプレイヤーB「俺も、なんとなく名前の響きが良い通貨を選んだ」

ライトプレイヤーA「そうだよな、そもそもケオエコで手に入る通貨なんて、あぶく銭なんだし」


 一同は笑い声を上げながら、話を続ける。


ライトプレイヤーC「コアプレイヤーのような、あくせくした生活は耐えられないな」

ライトプレイヤーA「マイニングが一段落したら、今日の飯のモンスターを狩りにいこうぜ」

ライトプレイヤーB「コアプレイヤーのような、あくせくした生活は耐えられないな」

ライトプレイヤーD「狩りと言えば最近、商業ギルドが感じ悪いのよね~」

ライトプレイヤーA「ああ、持ち込んだら買い取ってくれるが、前とは明らかに対応が違うような」

ライトプレイヤーC「だったらさ、そんな所に持ち込まず『公式売買所』でいいんじゃないか?」

ライトプレイヤーB「違いない、金が手に入って、最低限の飯を手に入れるなら、それで十分だしな」

ライトプレイヤーD「食糧が手に入れば、俺たちはそれでいいからね」


 ライトプレイヤーから見ると、むしろコアプレイヤーの忙しないゲームの何が楽しいのか理解できない。

 同様にコアプレイヤーから見ると、ライトプレイヤーの素朴すぎる生活の何が楽しいのか理解できない。


 こうして、ゲームスタイルでもケオエコ内で二極化が進んでいる。


羽手名「労働者みたいな生活、牧場的な生活でマイニングを行う生活、どちらが吉と出るのか……」


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