第四節 暗号通貨バブル崩壊
ケオエコを激震させるニュースが大々的に報道された。
「ミュークシス、ケオエコ撤退宣言!ミュークシス保有の暗号通貨交換により、暗号通貨市場にも深刻な打撃が!」
ケオエコのゲーム内通貨に連動していた、特に人気のある暗号通貨は大量の売りのため暴落した。また、他の暗号通貨も乱高下を繰り返している。
ケオエコプレイヤーにとっては、ミュークシスの撤退は巨大ギルドの解散を意味する。
投資家にとっては、暗号通貨の乱高下は先行きが不透明な状況であり、極めて深刻な事態となった。
社員になっていないミュークシスのギルド所属員達は、リオンデックスのギルドへの移籍か、在野で生き延びるかという二択を迫られた。
今後、ギルドはリオンデックス一強になる予想が立てられ、これはケオエコWikiでも全ケオエコプレイヤーに深刻な影響をもたらすことになるという見解がなされていた。
「なあ、ミュークシスの撤退で……今後どうなると思うよ」
「予想されてる通り、リオンデックス一強は避けられないだろうよ」
「ミュークシスがいたから、リオンデックスも値段を合わせてた節があるからな……」
「ホントそれな、今後どうなるんだろ……」
このように、ミュークシスという競合がいたからこそ、リオンデックスは強気な価格設定ができなかったと見られている。
だからこそ、リオンデックス一強を予感した全ケオエコプレイヤーは戦々恐々としたのだ。
サンローや姫子も、ミュークシス系と見なされていたため、他人事ではない。
姫子「ねえサンロー、ミュークシス撤退って結構ヤバくない?」
サンロー「繰り返すが、我々は常に美しいスクリプトを書いていればいいのだ……そう、美しいスクリプト……ああっ、LISPで書きたいっ!」
姫子「はいはいご愁傷様。だけどそうかもね、私たちはあくまでミュークシス派と見られてるだけ。あまり過剰に反応してもいいことないわ」
暗号通貨市場の乱高下に引きずられて、ゲーム内通貨と暗号通貨のレートは大きく崩れ始めていた。
ケオエコを経由せず、暗号通貨で儲けていた一般人にも多大な打撃を与え、中には首を吊った人もいるとかなんとか。
夕方の報道番組に出演していた、自称投資家もこのような発言をしていた。
自称投資家「やっぱりケオエコに依存せず、堅実に投資をするのがいいんですよ」
この発言は、ケオエコ内でも問題視されて「投資のためだけにケオエコをやってるんじゃない」という論調で盛り上がった。
しかし、このドヤ顔で言っていた自称投資家も、ケオエコをプレイしていたことがアバターから暴かれ、ネットで炎上して社会的信用が地に堕ちた。
「やはり、政府はケオエコを規制すべき」
という強硬な主張をする人も、法的な取り締まりが極めて困難である現実を理解していないと、有識者の苛烈な批判に遭い社会的信用が地に堕ちた。
この暗号通貨バブル崩壊には、電脳麻薬カンパニーも一枚咬んでいる。
宝箱の中に、暴落しそうな暗号通貨を多く入れてブランディングを行い、暴落から暴騰に誘導していた。
その手法が繰り返されたので、投資の専門家が暗号通貨の動きに不審を持ったのがきっかけだ。
暗号通貨は軒並みその価値を落とすことになり、電脳麻薬カンパニーは自社利益どころか大きな損益を被る形になった。しかし、それらは既にプレイヤー達の手にあるゲーム内通貨として切り捨てた資産。
電脳麻薬カンパニーは、自社の損害をプレイヤーに押しつけることで、暗号通貨バブル崩壊を難なく乗り切ったのだ。
羽手名「ホント、酷いことになっているなぁ……」
「何を言ってるんだよ、ゲーム内通貨と暗号通貨の交換はうちの独占だぜ?」
羽手名「いや、プレイヤーに対して酷すぎない?」




