第一節 ケオエコ最初のアップデート『魔力の流れが変わった』
ケオエコプレイヤーにとって、待望のアップデート時期が公開された。
今までの不満に対してのバランス調整を、多くのプレイヤーは期待していた。
特に期待されているのは、スクリプト商人や生産職へのライブラリアップデートだ。
他にも、モンスターやその素材が増えるアップデートと聞いて、全ケオエコプレイヤーは期待に胸を躍らせた。
そして、アップデートに伴い、初の「ケオエコサーバーにログインできない」状況が発生した。メンテナンス中は、自分の持つゲーム内通貨と暗号通貨を見比べて、やきもきするプレイヤーも多数いたことは……SNSの書き込みの多さからも明らかだろう。
冷静なユーザーはメンテナンス中に、ここぞとばかりに睡眠を貪った。
二十四時間のメンテナンス期間が経過し、無事にサービス再稼働に至った。
内容を考慮すると、驚異的なメンテナンス速度なのだが、プレイヤーはそれを当たり前だと受け止めていた……それが、どれ程異常なことかも考えもせずに。
しかし、いざプレイヤー達がケオエコにログインして、あまりの変貌に驚愕した。
モンスターの種類は想定以上に多くなっていて、その素材も細分化されている。
そして、全員に流れたシステムメッセージ『魔力の流れが変わりました』には、誰もが困惑する。
そしてサンローと姫子は、それぞれ隣接する生産職ギルドと商業ギルドで、悲鳴を上げる羽目に陥った。
サンロー「なんだこりゃ!私の美しきLISPスクリプトが軒並み動かない、負荷増大か?ああ『魔力枯渇』だと?初めてだよ……信じられない屈辱だ、これではメタプログラミングが封じられる……」
姫子「私の『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』!負荷増大に加えて、こんなにモンスターが増えたら、改修が大変なことに!」
それに対し戦闘職の『ああああ』は大喜びだったが、二人に怒鳴られるのだ。
ああああ「ヒャッハー、こんなにモンスターが増えた!倒し甲斐があるってもんだ!」
サンロー・姫子「「うるさい、こっちの身にもなれ(なりなさい)!!」」
ああああ「わ、悪い……そんなに大変なのか?」
サンローと姫子は、イラつきながらも説明をする。
サンロー「いいかね、私の作ったスクリプトが軒並み実用にならなくなっている。
これは恐らく『魔力の流れ』とやらによる影響だ。
この影響は……私だけではなく、全てのスクリプトに及んでいると見るべきだ。
今までのスクリプトの大半が、使い物にならなくなっている可能性すらあるのだよ……」
姫子「あんた、戦闘職でしょ?
そもそもあんただって、私の『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』使ってるんじゃない?
そのまま使っても魔力枯渇を起こすし、新しく出てきたモンスター相手には、それ使えないわよ?
素材収拾はどうするつもり?」
サンロー「スクリプトの大半が使えないというのは深刻な事態だ。
生産職は特に全員がスクリプトを使っているはずだ。
そのスクリプトが実用的に動かなくなったらどうなる?
今まで通りの食糧調達すらままならない、そういう話なのだよ」
姫子「あんたに直接関係する所だと、食糧に加えて『モンスター素材剥ぎ取りスクリプト』も買い直しにするか、改修費用を貰わないと!
そうしないと、こっちもやっていけないのよ!
もちろん自力でモンスター素材を剥ぎ取れるならいいけどね、で・き・る・も・の・な・ら」
『ああああ』も事態の深刻さを、ある程度は理解した。
ああああ「すまん、悪かった。正しく理解できてるとは思わんが、ともかく俺たち戦闘職にとっても、途方もない影響がある大惨事、とザックリ理解した。
知らなかったとはいえ、喜んだことで……不快にさせたなら謝罪する」
サンロー「い、いや……そこまで真剣にならなくてもいいのだよ……」
姫子「そうね……できれば新規モンスターをそのまま持ってきてほしいわ、そうすればスクリプト改修が進むから」
『ああああ』のような説明をされなかった戦闘職は、商人や生産職に猛烈なクレームを入れていたが……
商人A「アナウンス通り、魔力の流れが変わったのです!」
商人B「誠意対応中です!」
と繰り返すしかない状況である。
事態の酷さが広まるのは一瞬だった。
戦闘職はモンスター素材剥ぎ取りスクリプトに頼りすぎてたため、素材を商人に売ることができない。
仕方ないので、モンスターの死体をそのまま商業ギルドに持っていったり、慣れないままに素材を剥ぎ取ろうとして失敗を繰り返していた。
皮肉なことに、慣れない素材剥ぎ取りより、死体そのままの方が、商業ギルドでの買取金額が高くなる始末だった。
商人も生産職もスクリプト対応に追われ、ケオエコ内では食糧不足問題が発生し、モンスターの肉を食糧に戻す者も多数存在した。




