二話 サイズがやってくれました
二話 サイズがやってくれました
着替えを終えて、出てきたサイズは泣き虫な感じがなくなっていた。
「私が宿守応該をやっつける」
そんな事を言い出した。
「さっきまで泣いてたやつに何が出来る。こっちには人質がいるんだぞ。しかも二人」
応該はサイズに対しては大人気なかった。まるで好きな子をいじめる小学生男子みたいだ。
「私は研究所には戻らない。絶対に!」
サイズは応該に宣言した。
「お前は連れ帰る。これから繁殖を繰り返して、人間の誕生に協力してもらわないとな」
「人間?」
周りの誰も意味が分からない。だがサイズの尊厳を踏みにじっているのは明白だ。
「あなたは子供を育てた事がないのね。哀しい人」
マダムは応該に哀れみの目を向けている。
それには我慢ならないようで、すぐに反論する。
「子供なら二人いるぞ、モーニングスター。そしてまともに育っている。親に反抗するのは若いからだ」
マダムは首を横に振る。
「育てたのは元奥様です。あなたは要さんや能さんが辛い時に側にいましたか? お金だけあげれば良いわけではないのです。後、二人が反抗するのはあなたが正しくないからです」
「私は仕事をしている。それが超能力の研究だ。ようやく人間に応用出来る道筋がついた。そのために実験動物……サイズが必要だ」
サイズは応該に向けて舌を出した。
応該は挑発を受けて、サイズに向かっていった。
サイズはすぐに銃を抜いて、撃鉄を起こし、引き金に指を掛ける。
「教えた通り、射程距離に入るまで撃つなよ」
黒星の指導にサイズは頷き、やる気満々だ。
サイズは応該につかまれる寸前で銃の引き金を引いた。発射音が鳴った。そして返り血を浴び、つかまれる事は回避した。
サイズに被害はなかったが、床には血が滴り落ち、貫通した弾丸がベッドの木枠にめり込んでいる。
「弾丸持ってたっけ?」
「さっきもらったの。これで私もホーリエ・ヴィスコンティーになったよ」
要に返り血まみれのまま笑顔を見せる。その血は後で要が拭き取らなければならないのだ。
「くそ……」
応該は電話を掛けた。すると黒スーツが入り込んでくる。家主である要はなす術がなく、アックスと黒星とエスパーダに頼るしかない。
「要は掃除の準備しといて」
一発撃って、エスパーダは物陰に逃げた。
「良いか。お前はそいつ以外には銃を使うなよ。こいつらは任せておけ」
黒星はサイズに言い含めると、アックスとともに黒スーツへ近付いていく。そして射程距離に入ると、足の甲だけを撃っていく。靴は脱いでいないが防弾機能なぞあるはずもなく、血がさらに畳を汚す。
小さい襲撃者達に翻弄され、黒スーツは混乱している。部屋の狭さも混乱に拍車を掛けていた。
「何をやっている! 私を助けろ」
応該の叫びも虚しく、立っていられる黒スーツは一人もいなかった。黒星だけでなく、アックスやエスパーダも活躍していた。アックスは足首辺りを切り付け、エスパーダは的のデカい太ももを撃っていた。
おかげでサイズはストレスフリーなまま、応該に近付けた。
「弾丸はまだあるよ。次はどこに穴を開けようかな」
サイズは悪そうな顔をしている。よほど応該より上の心理状態になった事が嬉しいのだろう。現にその表情と武器に応該は怯んでいる。
「逃げる?」
「うるさい! 戦略的撤退だ」
応該はそう怒鳴り距離を取る。そしてテーブルに血まみれの手をついた。
掃除の二文字がチラつき、要は介入しようとする。
「そろそろ。能達を置いて、帰ってくれ」
人質を思い出したのか応該は冷静になった。
「ここまでか」
応該はマダムを見下ろす。
ただならぬ空気を感じてマダムは後ずさった。
「モーニングスター、せめて君だけでも」
風穴の開いた手をマダムの体に纏わり付かせ、握る。
息が荒いシールドが前に立ちはだかろうとしたが間に合わない。
「お前も来い」
ついでと言わんばかりにシールドを反対の手で雑につかんだ。
「おじいちゃん! おばさん!」
サイズは近付いていって応該を打てる距離に入ろうとする。アックスも黒星も黒スーツの相手で手一杯だ。エスパーダは隠れながら撃っているので、すぐには救いに行けない。サイズと要だけが応該を邪魔出来るのだ。
「私を攫いに来たんじゃないの?」
挑発してみる。いくら許してくれると言っても四人も人質を取られるなんて戦いに勝ったとは言えないだろう。だから応該の注意を引こうとしているようだが、全く食いつかない。
「お前みたいな跳ねっ返りはもういらん。勝手に野垂れ死ね」
強い言葉で傷つけようとしている。だがそれは負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「帰るぞ! 私を守れ」
黒スーツもやられているため、動きは遅かった。でも数人がアックスと黒星の気を引いているうちに、応該をお姫様抱っこで連れて行った。
自分の父親のそんな姿を見て、要はドン引きしていた。そのせいであっさり逃がしてしまった。
後で外に出てみると就と能も連れてかれていた。
サイズは連れて行かれなかったが、損害も多い。何より要を悩ませたのが、血痕の置き土産だった。