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御徒町樹里の冒険(改)  作者: 神村 律子
魔王コンラ編
9/52

カオリンの妹

 僕は勇者。かろうじて勇者だ。しかし、ラ○ディーンではない。


 またしても、僕達は謎の美少女である御徒町樹里ちゃんに助けられた。


 彼女は一体何者なのか? 謎は深まるばかりだった。




 僕達はキサガーナ王国の外れの荒野を進み、魔王コンラの地下城の入口を目指した。


 実際、経験値的にはとても無謀な行動だが、僕達には樹里ちゃんがついている。


「大丈夫ですよ、勇者様」


 彼女のその一言で、僕達は魔王の城に向かう事を決意したのだ。


「あそこでねえだか?」


 腹が減り過ぎて意識が朦朧としていたリクが、蜃気楼を見た旅人のような声で言った。


 確かにリクが指差す先には、巨大な岩山に囲まれた、禍々しい妖気を放つ城門のようなものがあった。


「様子を見て来ます」


 盗賊ノーナがその身軽さを生かして先発した。


「いよいよお会いできますのね、カジュー様」


 武闘家カオリンは、また恋する乙女の顔になっていた。


 魔王よりカオリンが最大の敵になりそうな気がする。


「バカな事言ってるんじゃないわよ。カジュー様は私にゾッコンなのよ」


 今時あまり使われない「ゾッコン」などというフレーズを言い放った者がいた。


 カオリンの顔が引きつった。


「まさか?」


 うん? カオリンが震えている。どうしたんだ? 何か怖いのか?


「またあんた、私の恋路を邪魔する気なのォッ!」


 いや、怖くて震えていたのではないようだ。怒りに震えていたらしい。


 カオリンの殺気が当社比計測不能になった。


 またあの怪力娘が来たのか?


「勇者様、もし私が倒れるような事があったら、カジュー様に伝えて下さいな。カオリンは最後まで美しく戦ったと」


 カオリンは僕にキラキラした眼差しでそう告げると、声のした方に駆け出した。


「出てらっしゃい、ユカリン! 今日こそ、あんたをぶちのめしてあげるわ!」


 カオリンの叫び声が、荒野に響き渡った。


「オーホホホ、相変わらず下品ねえ、お姉様」


 何? お姉様? と言う事は?


「お久しぶりですわね、カオリン。相変わらず、お肌ガッサガサでしょ?」


 現れたのは、カオリンにまさしくクリソツな女性。


 コスチュームはカオリンと色違いで、エロさは同じだ。彼女も武闘家なのか?


「おおお!」


 リクの鼻の下が当社比二倍に伸びた。


「うるさいわね。双子の貴女に、お肌の事をとやかく言われたくないわ」


 カオリンのその発言を聞き、リクの鼻の下は当社比で元に戻ってしまった。


「あらあら、そんなに怒ってばかりでは、小皺が増えますわよ、お姉様」


 ユカリンの口の悪さはまさしく双子という感じだ。


「カオリン、ここで終わるわけにはいかないんだ。チームプレーで勝ち抜くぞ」


 僕はカオリンの反対を覚悟でそう言った。すると、


「ありがとうございます。みんなでギッタギタにしてあげましょう、あのバカな妹を!」


と快諾された。うーむ。相当な確執のようだ。


「そうは行かないわよ。私には切り札があるのよ」


 ユカリンの声と共に、魔王軍の兵士に囚われたノーナが現れた。


「ノーナ!」


 僕は驚いて叫んだ。カオリンが更に怒りのパワーをアップさせた。


「あなた方は手出し無用ですわ。これはカオリンと私のタイマン勝負ですのよ。もし邪魔すれば、この色男さんの唇は私の物ですわ」


 ノーナの唇くらい、いくらでも差し上げるが、もしそうなったら、またカオリンが荒れる事になる。それは困る。 


「カジュー様ばかりでなく、ノーナさんまで……。どこまで欲深い女なの、ユカリン!」


「お誉め頂き、光栄ですわ、カオリン」


 ユカリンはニヤリとした。彼女は魔王軍と通じているのか?


「私の事は気にせず、こいつらを倒して下さい!」


 ノーナが言った。


「心配しなくて大丈夫ですわ、ノーナさん。貴方の唇は、私が守ります!」


 カオリンはバッと飛び、ユカリンに向かった。


 二人の壮絶な戦いが始まった。


「腕が鈍ったんじゃないの、カオリン?」


「それはこっちのセリフよ、ユカリン!」


 その戦いの隙を突いて、僕達は魔王軍に仕掛けた。


「ノーナを助けるぞ、リク!」


「おう!」


 僕とリクは魔王軍に突進した。虚を突かれた魔王軍は敗走し、ノーナはすぐに解放された。


「大丈夫だか、ノーナ?」


 リクがノーナの縄を解くと、


「ありがとう、リクさん!」


とノーナがリクに抱きついた。リクはビックリして、


「お、おい、オラはそっちの趣味はねえだよ」


と言ったが、何故か顔が赤い。


 こいつ、相手が男でも、綺麗ならいいのか?


 本当に節操がない奴だ。あれ? でも、様子が変だぞ。


「ノーナ?」


 今までノーナは短髪だと思っていたのだが、それはカツラだった。その下から、輝くようなブロンドの長い髪がこぼれたのだ。


「お、おなごなのけ、ノーナ?」


「は、はい……」


 ノーナはリクにしがみついて答えた。


 これはビックリだ。ノーナは女だったのか。道理で綺麗な顔をしている訳だ。


「うほー」


 リクは鼻血を盛大に吹き出し、倒れてしまった。


「樹里ちゃん、助けて!」


 僕はすぐに救護班の樹里ちゃんに言った。樹里ちゃんは相変わらずの笑顔で、


「はい、勇者様」


と答えた。


 そんな中、カオリンとユカリンの戦いはまだ続いていた。


 お互いもうヘロヘロだ。年には勝てないようだ。


「な、何、ノーナさんは女でしたの?」


「そ、そんな……」


 双子の悪魔がガッカリしている。あ、いや、その……。


「ここは一旦退くわ、カオリン。次はカジュー様と私の結婚式で会いましょう!」


 ユカリンは捨て台詞のような言葉を残し、逃げた。


「その逆よ! 貴女をカシュー様との結婚式に招待してあげるわ!」


 カオリン、そんな事を勇者一行が言ってはダメだよ……。


 こうして僕達は何とかピンチを脱した。




「ここか」


 そして城門の前。大きな扉に大きな錠前が付けられている。


「鍵が開かないと、中に入れませんわね」


 肩で息をしながら、カオリンが言った。


「そうみたいですね」


 ノーナがリクとピッタリ寄り添って言った。カオリンはそれを見てムッとしたらしく、


「ノーナさん、貴女、ちょっと上まで行って見て来て下さいな」


「は、はい」


 ノーナはカオリンの殺気を感じて、すぐに城門の上に飛び乗った。


「ダメです、上からは入れません。この扉を開くしかないみたいです」


「そうですの」


 困った。鍵なんてどこにあるんだ?


「開きましたよ」


 樹里ちゃんが言った。えええ?


「ど、どういう事?」


 樹里ちゃんは錠前を外していた。


「鍵はどこにあったの、樹里ちゃん?」


 僕は妙に思って尋ねた。樹里ちゃんは城門の脇にある休憩小屋を指差し、


「あの中に」


 おいおい、こんな小屋、さっきあったか? 不思議だ。


 ま、いっか。とにかく、これで魔王の地下城に入れるぞ。


「リク!」


「ほいよ」


 僕とリクで重い扉を押し開く。


「ここからは、本当に大変な戦いになるぞ」


 僕は決め台詞のように言ったが、誰も聞いていなかった。


 勇者なんかやめたい。そう思った瞬間だった。

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