怪力無双のユーマ
僕は勇者。
と、いつも言っているが、最近本当に自分が勇者なのか疑問に思い始めている。
全然活躍していない。
いや、危ない目には遭っているが、僕の力で解決した事がないのだ。
立場上まずいと思う。
そうでなくても、美人武闘家のカオリンと、大飯食らいの戦士リクには、あまり尊敬されていない節があるのだ。
正体不明の美少女、御徒町樹里ちゃんは、僕の事を、
「勇者様」
と唯一呼んでくれる。本当にいい子だ。結婚したい。
でも、樹里ちゃんは謎が多い。
魔法使いがいる迷いの森にいたのも不思議だが、その後の数々の出来事も良くわからない。
魔王軍に捕らわれた時も、何故か連中は突然手の平を返したかのように僕達を解放した。
あれも樹里ちゃんのおかげなのか?
しかも樹里ちゃんは、大魔導士カジューとも顔見知りだし。
ただ、樹里ちゃんはカジューの事を知らないようだけど。
その上、モンスターと友達だ。
もうどういう事なのか、意味不明に陥りそうだ。
もしかすると、作者が何も考えていないというオチかも知れないと思い、恐怖した。
おっと。影が薄い盗賊ノーナ。
彼は樹里ちゃんに助けられたので、樹里ちゃんが僕を「勇者様」と呼ぶのを見て、どうやらいくらか敬意を表してくれている。
そんな存在感のないノーナが、遂に活躍した。
彼はその自慢の身軽さで、僕達より早くキサガーナ王国の中心に辿り着いた。
そして、衰退した王国の城内に潜入し、情報収集をしたのだ。
「王国の西の果てに、コンラの地下城への入口があります」
「素晴らしいですわ、ノーナさん。やっぱり男はイケメンで行動力がないと」
カオリンは棘のある言い方をして、僕を哀れむような目で見た。
ノーナは慎み深い男なので、カオリンのお世辞を全く受け付けていない。
「いえ、地下城への入口は、この国の誰もが知っているようです。あの遊び人は、我々を罠に掛けるためにあのような嘘をついたようです」
ノーナの言葉で、僕達は怒りに震えた。特にカオリンは激怒した。
「あの腐れ外道のヘボヤロウがァ! 今度会ったら、粉微塵に打ち砕いてやる!」
カオリンはまさしく鬼の形相で言い放った。
僕とリクとノーナは、その恐ろしさに震えた。
「そうなんですか」
一人樹里ちゃんは、別に驚くでもなく、応対していた。
そして、その直後、カオリンの怒りの対象になる人物が現れる。
僕達は地下城の入口がある王国の西の果てを目指した。
人家がなくなり、荒野となった。
元々魔王の魔力の影響で過疎化しているキサガーナ王国だが、入口付近は尚の事寂しかった。
「何か出そうですわね」
カオリンがさり気なくノーナに張り付く。胸が確実にノーナに押し付けられている。
「カオリンさん、近過ぎです。もう少し離れて下さい」
「はーい」
ノーナは顔を赤らめるでもなく、あっさりとカオリンの密着攻撃を退けた。
その時だった。
「よくぞここまで辿り着いた。褒めてやろう」
どこからか、女性の声がした。若そうだ。期待できそう。
「誰ですの!?」
カオリンの年齢探知レーダーが反応する。彼女は自分より若い女性を敵と判断するのだ。
明らかに自分より若いと感じたのか、カオリンの殺気が当社比二倍になった。
「私よん。ピッチピチの戦士、ユーマでーす」
どこから見ても、ある世界で言う「女子高生」のような服装で現れたのは、金髪巻き毛で青い目の美少女だった。だが、箕輪まどかではない。
「お子ちゃまでしたか」
カオリンが鼻で笑った。すると、ユーマと名乗ったその少女は、
「何よ、オバさん! 私を子供だなんて言ってええ! 後悔するわよん!」
「オ、オバさん……?」
わあああ。絶対に言ってはいけない事を言ってしまったぞ。
僕達は樹里ちゃんを伴い、岩陰に避難した。
もうカオリンを止める術はない。辺り一面廃墟になるぞ。
「もう許しませんわ。お子ちゃまだろうと、ぶちのめします」
ユーマはカオリンの闘気を感じたが、怯んだ様子はない。
「それはこっちのセリフよん、オバさん。私は魔王軍で一番の怪力よん」
「それが、どうしたああああ!」
カオリンの殺気は遂に当社比計測不能になった。二度も言ったらダメだよ、ユーマ……。
「ほーい」
ユーマは近くにあった大岩をまるで小石のように持ち上げ、カオリンに投げつけた。
「そんなものおおお!」
カオリンはそれを気合一つで粉砕した。ユーマはピューと口笛を吹き、
「へええ。やるわねん。なら、連続攻撃よん」
と言うと、大岩を次々に投げ出した。カオリンはそれを全て拳で砕き、ユーマに接近した。
「砕けろ、このう○こ臭いお子ちゃまあああ!」
と直接表現を躊躇うような言葉を吐き、カオリンは渾身の一撃を繰り出した。
「甘いわねん」
ユーマはその拳を右手の人差し指一本で受け止めた。
「何ぃ!?」
カオリンは顔を歪め、後退した。ユーマはカオリンを嘲笑って、
「そんな温い攻撃じゃ、私は倒せないわよん。ダメダメねえ、オ・バ・さ・ん」
「ムキーッ!」
とうとうカオリンは振り切れてしまった。
「ならば、もう手加減なし! 死んでも知らないわよ、お子ちゃま!」
カオリンが闘気を溜め始めた。来る。必殺技だ。
するとユーマも身構えた。
「私も行っちゃうわよん」
ユーマも闘気を溜め始めた。
やばいぞ。もっと離れないと!
「あ!」
その時、樹里ちゃんが二人の間に入った。
「樹里様、お退き下さい、危ないですわ!」
カオリンが叫んだ。するとユーマが、
「えええ!? 樹里様?」
と言うと、戦闘態勢を解き、跪いた。
僕達は唖然とした。カオリンも拍子抜けしていた。
「失礼致しました。貴女様がご一緒とは知らず……」
ユーマの言葉に、樹里ちゃんは、
「どちら様ですか?」
と強烈なボケをかました。ユーマは、
「うえええん、私が弱過ぎるから、覚えて下さってないのですね。修行して来ますわん」
と叫ぶと、泣きながら走り去ってしまった。
まただ。また、樹里ちゃんに助けられた。一体彼女は何者なんだ?
「ねえ、樹里ちゃん、君は何者なのさ?」
僕はカオリンの手当てをしている樹里ちゃんに尋ねた。
皆、興味津々だ。しかし、樹里ちゃんは、
「私はメイドですよ、勇者様」
としか答えてくれなかった。
そして、コンラの地下城。
大魔導士カジューは、コンラの部屋である玉座の間にいた。
「勇者一行は、すぐそこまで来ております」
カジューは跪いて報告した。
「はい。ご安心を。私がこの命に代えても、ここは守ります」
カジューはコンラの答えを待った。
「はい。樹里様がいらっしゃるのはわかっております。それでも私は負けません」
カジューはスッと立ち上がり、玉座の間を出た。
「勇者め。我が願い、我が計画、決して邪魔させぬ」
カジューの目は血走り、狂気を帯びていた。