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御徒町樹里の冒険(改)  作者: 神村 律子
魔王コンラ編
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カオリンの恋

 僕は勇者。

 

 魔王コンラを倒すため、魔王の城があると思われるキサガーナ王国を目指している。


 隣の王国カオクーフに入った時、魔王の配下である魔導士が現れた。


 あまりにも早い強敵の出現に、僕はこの物語の作者に抗議しようと思ったが、妙な展開になって来ていた。


 カオリンの様子がおかしいのだ。


 カオリンはほんの少し性格に問題があるが、美人だし、スタイル抜群だし、おまけに強い。


 そして大事な仲間だ。


 そのカオリンが、最近呟いている言葉。


「カジュー様……」


 敵の魔導士の名前。何て事だ。


 彼女は敵の魔導士に恋をしてしまったのだ。


 これでは勝てない。


 いくら僕が強くても、リクが大飯ぐらいでも、カオリンが敵になってしまったら……。


 僕は思い切って樹里ちゃんに相談する事にした。


「カオリンが敵の魔導士を好きになってしまったらしいんだ。どうしたらいいだろうか?」


 僕は冗談ではない事をわかってもらうために、樹里ちゃんを宿屋の裏に呼び出して話した。


「そうなんですか」


 樹里ちゃんは相変わらずの笑顔で応じた。


「その魔導士さんにも仲間になっていただけばよろしいのではないでしょうか、勇者様」


「はァ?」


 樹里ちゃん、そんなの無茶だ。


 カオリンが敵の仲間になるのはあり得るけど、カジューが僕達の仲間になるなんて考えられない。


「カオリン様なら、きっとその魔導士さんを仲間にして下さいますよ」


「そんな事、できないよ、樹里ちゃん。無理だよ」


「そうなんですか」


 樹里ちゃんはニコニコしたまま、宿屋に戻って行った。


 僕は溜息を吐いた。相談相手を間違えたようだ。


 かと言って、戦士のリクに相談しても無駄だ。あいつは次の食事の事しか考えていない。


 樹里ちゃん信者のノーナに話しても樹里ちゃんの味方しかしないだろうし。


「勇者様」


 後ろでカオリンの声がした。


「はい?」


 その声には殺気が籠っていた。振り返るのが怖い。


「樹里様にお話したのですか、私の事?」


 いきなり羽交い締めにされた。


「ぐううう……」


 僕はもがいたが、カオリンの力は強力で、全くどうする事もできない。


「カジュー様の事を話したのですか?」


「は、はい。ごめんなさい……」


 僕は意識を失いそうだった。


 何て事だ。魔王と戦って死ぬのではなく、仲間に殺されるのか?


「オホホホホ」


 カオリンは羽交い締めを解いて笑い出した。


「可愛いですわ、勇者様。嫉妬していますのね、カジュー様に」


「……」


 何の事だ? カオリンは可哀想な子を見る目で僕を見ていた。


「嬉しいですけど、貴方はもう過去の(ひと)です。ごめんなさいね」


 そう言うと、カオリンは宿屋の中に戻った。そして呪いのような言葉を呟いた。


「カジュー様、愛していますわ」


 一つはっきりした。カオリンは本気だ。


 最悪の事態は避けられないかも知れない。




 ここは魔王コンラの地底城。


「う……」


 カジューは何故か気分が悪くなった。


「何だ、一体? 何かとても嫌な感覚に襲われたが……」


 カジューは薬師(くすし)のところに向かった。


「今は大事な時だ。体調を崩すわけにはいかぬ」




 翌朝。


 僕達は宿屋を出てキサガーナ王国を目指した。


 カオリンはまるで恋人に会いに行くような顔で、スキップをしていた。


「大丈夫だか、カオリンは? 敵に味方しねえだかな?」

 

 リクが僕に囁いた。ノーナも、


「私も心配です。カオリンさんはこのパーティの要です。そんな人が、敵の魔導士に心を奪われているのは、危機的状況ですよ」


「うーん」


 僕は考え込んでしまった。


「どうなさいましたの、皆さん?」


 先を歩いていたカオリンが満面の笑みをたたえた顔で尋ねた。


「な、何でもないよ」


 僕は慌てて答えた。


「そうですの。先を急ぎましょう」


 カオリンは再びスキップを始めた。


 どうすればいい? 僕は樹里ちゃんを見た。


「大丈夫ですよ、勇者様」


 樹里ちゃんは笑顔全開で答えてくれたが、心配だ。


「あれ?」


 リクが道端に誰か倒れているのに気づいた。


「あれは確か……」


 僕も気づいた。確かあのふざけた服装は……。


「見なかった事にしよう」


「んだな」


「誰なんですか?」


 ノーナが不思議そうに尋ねた。


 しかし、倒れている男が眼中にないカオリンはそのまま通り過ぎた。

 

 僕とリクは気づかなかったフリをして通過した。


 ノーナはそんな僕達を追いかけるように歩いた。


 樹里ちゃんは本当に気づいていないようだ。


「ゆ、勇者様……酷い。やっと、コンラの城への入口を見つけたのに……」


 その男はそう呟いた。


「何ですって?」


 誰よりも早く戻ったのはカオリン。


「どこにあるのですか、ヤギー?」


 そう、倒れていたのは以前逃亡した仲間、遊び人ヤギーだった。

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