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御徒町樹里の冒険(改)  作者: 神村 律子
魔王コンラ編
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大魔導士カジュー

 僕は勇者。


 最近、本当にそうなのかと思い始めた。


 パーティの仲間は増えたり減ったりしたが、今は四人。


 武闘家のカオリン、戦士のリク、「メイド」の樹里ちゃん、盗賊のノーナ。


 今では樹里ちゃんを中心に活動をしている感じだ。


 特に樹里ちゃんのおかげで仲間になれたノーナは、樹里ちゃんのためなら命をも投げ出しかねない信者である。


 それでもパーティが僕をリーダーとしてくれているのは、樹里ちゃんが僕を「勇者」として扱っているから。


 もう引退したいと思った時もあったが、いつか樹里ちゃんと暮らしたいという些細な下心が僕を旅から解放させてくれない。




 町から町へと進むうちに、いくつか情報が手に入った。


 僕達の旅の目的は魔王コンラ打倒だ。


 そのコンラの城があるのが、どうやらキサガーナという王国の外れの地下らしいのだ。


 僕達はすぐにそのキサガーナ王国に向かう事にした。


「でも、いきなりラスボスに立ち向かって勝てるのですか?」


 カオリンが非情な現実を突きつけて来た。


「んだんだ。まだオラ達は魔王と戦えるほど強くねえど」


 リクが同意する。しかしノーナが、


「でも心配な事があります。魔王が世界各地から名だたる魔術師達を集めているらしいのです」


「何だって?」


 僕はノーナの話に驚愕した。つまり、経験を積んでレベルアップしていると、魔王軍もどんどん強くなって行ってしまうという事だ。


「樹里様はどう思われますの?」


 カオリンが樹里ちゃんに尋ねた。樹里ちゃんは笑顔全開で、


「きっと大丈夫です。キサガーナ王国に向かいましょう」


と珍しくまともな事を言ってくれた。


 一同は樹里ちゃんの意見を尊重し、キサガーナ王国に向かう事になった。


 ああ、僕の存在って一体……。




 僕達はキサガーナ王国の一つ手前、カオクーフ王国に着いた。


 のどかな田園風景が広がる国だ。


 噂によると、キサガーナ王国は、魔王の魔力の影響で城は荒れ果て、国民はその多くが逃げ出し、軍隊は壊滅寸前らしい。


「ここがそうならないようにするのも、勇者の務めだな」


 僕が折角いい事を言ったのに、カオリン達は樹里ちゃんの出したランチを楽しく食べていて、全く聞いていない。


その時だった。


「何者!?」


 カオリンが武闘家の顔に戻り、身構えた。僕も只ならぬ妖気を感じて、剣に手をかけた。


「これはこれは。もうここまでお()でてしたか」


 現れたのは魔導士のようだ。彼の周囲の空間が歪んで見えるほど凄まじい魔力が漂っている。


「く……」


 カオリンは唇を噛み締め、僕と魔導士を見比べた。何だ?


「どちらに味方しようかしら? 多分あの魔導士の方がイケメンですわ」


 そういう事は心の中で言ってくれ、カオリン……。


「申し遅れました。私は大魔導士カジュー。魔王コンラ様に仕える者です」


 カジューだと? こいつ一人のせいで一つの国が滅んだと聞く。とんでもない奴が現れた。


「大変恐縮ですが、あなた方にはここで死んで頂きます。魔王コンラ様のところには行かせません」


「そうなんですか」


 樹里ちゃんが笑顔で答えた。カジューは樹里ちゃんに気づき、


「貴女もいらしたのですか、樹里様? 私の強さはご存じのはずですよ」


 えっ? どういうこと? 二人は知り合い? まさか付き合っていたとか?


「あのー、どちら様でしょう?」


 樹里ちゃんはニコッとして尋ねた。カジューはほんの一瞬、()けたようだったが、


「お忘れとは悲しいですな。まあいいでしょう。いずれにしても皆さんには死んで頂きますので」


と言うと、右手に持っていた杖を高く掲げた。


「私が得意とする気象魔法で、一瞬のうちに葬らせて頂きますよ」


「起床魔法ですか?」


 樹里ちゃんが尋ねた。カジューはムッとして、


「違います! 何故あなた達を起こさなければならないのですか! 天気を変えて攻撃する魔法です!」


 凄いな、こいつ。樹里ちゃんの言葉が見えるのか? などと思っている場合ではない。


「カオリン!」


 僕はカオリンに目配せした。それほどの魔法なら、詠唱する呪文が長いはず。その隙にあいつにダイレクトアタックだ!


 しかし甘かった。カジューほどの魔導士となると、詠唱すら必要ないのだ。


 いきなり超弩級の稲妻が走った。


「まずは一番邪魔な貴女です、樹里様!」


 えええ? ダメだよ、カジュー! 一番はリクかカオリンで……。


 稲妻が樹里ちゃんを襲った。


「わあああ!」


 僕とリクとノーナは絶叫して目を閉じた。この世界のアイドルが今死んでしまったのだ。


「樹里、様?」


 カオリンの声がした。


 恐る恐る目を開ける。樹里ちゃんは何事もなかったかのようにそこに立っていた。


 どういうこと?


「く……。出直します」


 カジューは竜巻と共に飛び去ってしまった。


「大丈夫か、樹里ちゃん?」


 僕達は慌てて駆け寄った。すると樹里ちゃんはいつもの笑顔で、


「大丈夫ですよ、勇者様」


と答えてくれた。ますます謎めいて来る樹里ちゃんの存在。




 その頃カジューは魔王の地下城に戻っていた。


「以前より強くなっている。何故だ? 何故あの方は勇者と一緒なのだ?」


 カジューはそのイケメン顔を強烈に歪めて呟いた。

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