襲撃される仲間 その四 盗賊ノーナと戦士リク
かつて勇者と共に悪魔コツリを倒した盗賊ノーナと戦士リクは、樹里からの手紙を受け取り、途中で落ち合って、樹里達のいるキサガーナ王国に向かっていました。
「ノーナしゃん、久しぶりだなや」
リクは相変わらずの女好きモードです。
「そうね、リクさん」
ノーナは夫のネコにゃんと一緒です。子供は母親に預けたようです。
「ノーナしゃん、このブサイク、誰だにゃん?」
ネコにゃんが戦闘態勢でリクを睨みます。
「ブ、ブサイクだとお?」
リクはムッとしますが、ノーナが二人の間に入り、
「忘れたの、ネコにゃん? この人が戦士リク。私の命の恩人よ」
「戦死リク?」
ネコにゃんのブラックジョークが冴えます。
「戦士だあ!」
リクも雷神の斧を振りかざします。
一触即発です。その時でした。
「見つけたぞ!」
地獄の底から聞こえて来るような声がしました。
「だ、誰?」
ノーナがネコにゃんを楯にして辺りを見回します。
「だ、誰だにゃん?」
ネコにゃんはチビりそうになりながらも、言い放ちました。
「おお!?」
リクが最初に気づきました。
道の向こうから、鎧付きの黒い馬に跨った黒い鎧の騎士が槍を構えて走って来ます。
「これが、敵?」
ネコにゃんはガン○ムの名セリフを真似てみました。
でも誰も気にも留めません。ネコにゃんは落ち込みました。
「我が名は暗黒騎士セイン。盗賊ノーナ、戦士リク! 覚悟!」
セインは一足飛びにノーナ達のところに走り寄り、槍をノーナに振り下ろします。
「遅いわよ!」
ノーナはサッとかわしますが、
「にゃん!」
ネコにゃんはその余波を食らい、吹っ飛びます。
「おらあ!」
リクがその隙を突き、雷神の斧で斬りつけます。
「どあ!」
セインは信じられないスピードでそれをかわし、リクを槍でなぎ払いました。
「ぐああ!」
リクは吹っ飛ばされ、ようやく起き上がったネコにゃんの上に落ちました。
「ぐにゃん!」
ネコにゃんは気絶してしまいました。
「つ、強い……」
リクは痛む胸を押さえて呟きます。でも、下敷きになっているネコにゃんには気づきません。
「先程は避けられたが、今度は外さぬぞ、小娘!」
セインがノーナの方に向きます。
「ノ、ノーナしゃん……」
リクが呻きながらノーナの身を案じます。
リク、その気遣いの千分の一でいいから、ネコにゃんに回してあげて下さい。
「待て。お前の相手はこの私だ」
セインが声のした方を向くと、そこには魔導士カジューがいました。
「カジュー様!」
ノーナの目が喜びに満ち溢れます。助かる、と思ったのでしょう。
何しろ、さっきまでいたのは、大飯食らいの大男と猫だけでしたから。
「業火無尽矢!」
カジューの炎系の魔法が炸裂します。無数の火の矢がセインに向かい、彼の身体を貫きました。
「やっただ!」
リクがようやく立ち上がったので、ネコにゃんも目を覚ましました。
穴だらけになったセインは、プスプスと音を立てています。
カジューはニヤリとし、
「呆気ない。私が出張るほどではなかったな」
と言いました。
樹里に敗れて味方になった剣士ゴウンの話で、ムツリは大して強くないが、手下の中のセインが途轍もなく強いと聞いていたのです。
「とんだ食わせ者であった」
カジューは余裕の笑みを浮かべ、ノーナを助け起こしに歩き出します。
その時でした。
「うぐっ!」
カジューの身体をセインの槍が後ろから貫いていました。
「な、何ィッ!?」
カジューはグイッと槍から抜け出し、セインを睨みます。
セインは穴だらけの身体がすっかり修復していました。
「それは、私を穴だらけにしたお返しだ」
セインが言いました。
「おのれ……」
カジューは傷を魔法で治癒しながら、歯軋りしました。
「わかったか、愚か者共! 我らこそが最強! この世界は、悪魔ムツリ様のものと知るが良い!」
セインはそう言い放つと、走り去ってしまいました。
「あやつ、何者なのだ……」
カジューは気遣わしそうに彼を見ているノーナに苦しそうに微笑み、呟きました。