狙われたコンラ
コンラは元魔王です。ですから、その魔力は強大です。
でも今は、ごく普通の母親……のはずです。
「カジュー、赤子が泣いておる。下の世話を頼む」
コンラは庭のオープンテラスの椅子に座り、言います。
「はい、コンラ様」
夫であるカジューは、以前部下だったせいもあって、完全に顎で使われています。
しかし、カジューはそれに喜びを感じているようです。
ようするに「ドM」なのです。
コンラが紅茶のカップを皿に戻した時、庭に妙な男が入って来ました。
それなりにイケメンですが、性格の悪さが顔に出てしまっています。
「何奴?」
コンラは挨拶代わりの業火を放ちました。
「効かぬ」
男はニヤリとして言いました。炎は男はおろか、彼の服も燃やしていません。
「やるな。楽しめそうだ」
コンラはそれでも椅子に座ったままです。
「私は悪魔コツリの弟、ムツリだ。姉の仇を討ちに来た」
悪魔コツリとは、この世を闇に変えようとし、勇者達に倒されたガマガエルのような怪物です。
しかも、コツリはコンラとその妹の樹里の実の母親でもあります。
すなわち、ムツリはコンラの叔父という事です。
「コンラ様!」
カジューが異変に気づいて庭に来ました。
「手出し無用だ、カジュー。この方は我が叔父」
コンラはムツリを睨んだままで言いました。
「何と!」
カジューは目を見開いてムツリを見ました。
ムツリはニヤリとし、
「お前の魔法は私には通じぬ。悪魔の魔力、舐めるなよ」
と言うと、いきなりコンラに雷を見舞いました。
結構姑息な奴です。
「戯けが。ならばお前の魔法も私には通じぬ」
雷を浴びたコンラは、髪の毛を逆立てて立ち上がりました。
何だかスーパー○イヤ人みたいです。
「何ィッ!?」
コンラはニヤリとして、
「樹里、お前が代わりに礼をしてくれ」
と邸の奥に声をかけます。
「はい、お姉ちゃん」
その声と同時に、ムツリに巨大な氷の柱が伸び、ぶち当たりました。
「ふおおおおおっ!」
ムツリは氷の柱に押されて、遥か彼方まで飛んで行ってしまいました。
「またのお越しをお待ちしております」
礼儀正しい樹里は、深々とお辞儀をしました。
「座れ、樹里。紅茶を飲め」
コンラは椅子に戻りました。
「はい、お姉ちゃん」
樹里は笑顔全開で答えます。
今日もコンラ邸は穏やかです。
し、しまった。樹里は魔法使いじゃなくなったんだ……orz