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仲間集合

 僕は元勇者。


 今は元大魔法使いの御徒町おかちまち樹里じゅりちゃんと甘い新婚生活を送っている。


 先日、非常にショッピング、じゃなかった、ショッキングな出来事があった。


 僕と樹里ちゃんでは、子供が作れないというのだ。


 樹里ちゃんは僕の細胞を培養して、クローンを作ってもらったらしい。


 僕は人知れず落ち込んだ。


 つまりは、樹里ちゃんと……できないという事なのだ。


 あれ? ……するだけならOK? でもそれは元勇者として恥ずべき事だ。


 そんな時、樹里ちゃんの姉であるコンラから手紙が来た。


「取り急ぎ来られたし」


 それだけ告げると、喋る手紙は消滅した。


「何があったのでしょう?」


 樹里ちゃんは心配そうだ。


「とにかく、行ってみよう」


「はい、旦那様」


 僕と樹里ちゃんは、近所の飛竜ワイバーン乗りに頼み、コンラの家へと向かった。


 彼女と魔導士カジューが暮らす高原は、僕らのいるマングー王国から遥か彼方なのだ。


 魔法使いでなくなった樹里ちゃんと只の貧相な男である僕では、何日かかるかわからないのだ。


 ああ。言ってて悲しくなった。


 


 さすがにワイバーンは速い。わずか数時間で、コンラの家に着いた。


「お姉ちゃん」


「樹里!」


 二人の美女がヒシと抱き合うシーンは、ジーンと来た。


「お? 樹里様、お子様がお生まれでしたか?」


 カジューが、僕が抱いている赤ん坊を見て言った。


「あ、いや、この子は僕のクローンです。僕と樹里ちゃんでは、子供が作れないので……」


 僕の話を聞いていたコンラが言った。


「ならば別れよ、樹里」


 酷い。結婚て、それだけでするものじゃないでしょ?


「別れません、お姉ちゃん。旦那様はお優しい方です。他の誰よりも」


 樹里ちゃんが惚気のろけてくれた。僕は天にも昇る心地がした。


「カジューはもっと優しいぞ。カジューと再婚しろ」


「はあ?」


 何言い出すんだ、この人は? 


「コンラ様、それはあの……」


 カジューも混乱しているようだ。


「樹里は元魔法使いゆえ、魔導士の其方そなたとなら、子を成せよう」


「お姉ちゃん……」


 樹里ちゃんも困った顔をしている。


「もはや、私はカジューと子を成したのだ。カジューを貸し出すぞ」


 え? 今、さり気なくおめでたい事と酷い事を同時詠唱しませんでしたか、元魔王様?


「お姉ちゃん、身籠ったの?」


 樹里ちゃんは驚いた。コンラは急に顔を赤らめて、


「うむ。カジューの奴が張り切ったのでな」


「コンラ様……」

 

 カジューも恥ずかしそうだ。羨ましい……。


「それで、かつて一緒に戦った者達を呼んだのだ。お前達が一番乗りであった」


「そうなんだ」


 樹里ちゃんは嬉しそうに言った。僕も顔が綻んだ。


「樹里様、お久しぶりですわ!」


 カオリンとユカリンの姉妹が現れた。


「私も今着いたのねん」


 怪力少女ユーマがやって来た。


「ユーマ、久しぶり!」


 盗賊ノーナが現れた。


「あれ、猫はどうしたのん?」


 ユーマが尋ねると、ノーナは陽気に笑って、


「結婚できないので、別れたの」


「ああ……」


 ユーマは苦笑いした。


「ユーマこそ、王国はどうしたの? お兄さんと帰ったんでしょ?」


 ノーナが尋ね返す。するとユーマは、


「騙されてたのねん。私は王女じゃなかったのよん」


「そ、そうなんだ……」


 ノーナも苦笑いした。あちこちで悲喜こもごものようだ。


 僕達はコンラの懐妊を祝って、夜遅くまで騒いだ。


 みんなは楽しそうだったけど、僕はどうしても心から楽しむ事はできなかった。


 一人家を出て、外の風に当たる。


 樹里ちゃんとの子供。


 変な妄想は抜きにしても、やっぱり欲しい。


「旦那様、こんなところにいらしたのですか」


 樹里ちゃんが僕を探しに来てくれた。彼女は僕のクローンを嬉しそうに抱いている。


「ああ、ごめん」


「子供、欲しいのですか?」


 樹里ちゃんが尋ねて来た。僕はギクッとしたが、


「うん。やっぱり、クローンは僕の分身でしかない。子供は、僕と樹里ちゃんの分身なんだ。その子も可愛いけど、やっぱり樹里ちゃんとの子供が欲しい」


「わかりました。では、そうしましょう」


「え?」


 何か方法があるの?


「私が魔法使いに戻れば、旦那様との子供を作る事ができます」


「……」


 それは究極の選択だった。


 樹里ちゃんが魔法使いに戻れば、彼女は不老不死になり、僕だけ老いて死んでしまう。


 でも、子供を作る事はできる。

 

 今のままにすれば、樹里ちゃんも僕と共に歳を取る。


 しかし、二人の子供は望めない。


「いや」


 僕は微笑んで答えた。


「今のままでいいよ。僕は君と歳を取りたい。それが僕の望みだ。そして、その子を僕たちの子供として、育てて行こう」


「はい、旦那様」


 樹里ちゃんは笑顔全開で応じた。

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