勇者様の野望
僕は元勇者。
今はあの御徒町樹里ちゃんと甘い新婚生活を送っている。
この前、昔の仲間である戦士リクがやって来たのだが、樹里ちゃんの必殺技で固まってしまった。
何とか解凍しようと思ったのだが、そんな事をしているうちにリクは空を飛んで行ってしまった。
戦士が空を飛ぶなんて……。
いや、あれは「自力飛行」には見えなかった。
何しろ、逆さ吊り状態で飛んで行ったのだから。
僕は密かにリクの冥福を祈った。
そして、今夜こそ樹里ちゃんにお願いする。
「樹里ちゃん」
「はい、旦那様」
樹里ちゃんは笑顔全開だ。
いつもこの可愛さに怖気づき、言えなくなってしまうのだが、今日は踏ん張った。
「僕は、子供が欲しい」
「はい」
樹里ちゃんは屈託のない笑顔で応じた。
「僕の子供を生んでくれ、樹里ちゃん」
「はい」
あっさり承諾。僕は途端に興奮して来た。
「はい、旦那様」
「え?」
何故か、光の速さで樹里ちゃんは僕の子供を身籠り、出産したらしい。
いきなり僕は赤ちゃんを抱いていた。可愛い男の子だ。
「申し訳ありません、旦那様。元魔法使いの私と旦那様では、子供を作れないのです。ですから、遺伝子工学の権威の方に旦那様のクローンを作っていただきました」
樹里ちゃんは本当に申し訳なさそうに言った。
「あ、そ、そう。そうなんだ。じゃあ、仕方ないね」
僕の邪な思いは、悲しくも砕け散った。