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ある日の勇者様
僕は勇者。
いや、正確には勇者だったと言った方が正しいだろう。
今は完全に戦いの世界から隠居して、のんべんだらり、いや、穏やかな生活をしている。
しかし、食べていかなければならないので、僕は仕事を始めた。
奥さんの樹里ちゃんも、近くの道具屋で働いている。
彼女はかつて大魔法使いだったが、僕と一緒に歳を取る事を選択し、今ではごく普通の女の子。
いや、超可愛いけどね。
だからもの凄く心配。
道具屋には、荒くれ者達もたくさん訪れると聞いた。
僕は仕事が終わると、こっそり彼女の様子を見に行った。
「ありがとうございました」
相変わらずの笑顔で、樹里ちゃんは接客している。
お客さんも妙な奴はいないようで安心した。
ホッとして帰ろうとした時だった。
「樹里様あ、お久しぶりですだあ」
どこかで聞いた事のある男の声が聞こえた。
ふと声のした方を見ると、懐かしい顔がそこにあった。
かつての戦友である戦士リクだ。樹里ちゃんは笑顔全開でリクを見た。
「どちら様ですか?」
樹里ちゃんの必殺技によって、リクは石に変わってしまった。
可哀相なリク。