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御徒町樹里の冒険(改)  作者: 神村 律子
魔王コンラ編
16/52

最後の敵(前編)

 僕は勇者。


 長い旅の末、僕達の本当の敵の正体がわかった。


 それは、悪魔コツリ。


 全部こいつが仕組んでいたのだ。


 もしかすると、カオリンが性格が悪いのも、リクが大飯食らいなのも、あいつのせいかも知れない。


 悪魔コツリは、神に戦いを挑んだほどの実力の持ち主。


 敗れたとは言え、僕達が勝てる相手とは思えない。


 確かに、そのコツリの娘であるコンラと樹里ちゃんが味方にいるが、恐らくコツリはそれ以上の力を持っているはず。


 どんな方法で挑めばいいのか? 僕は考え込んだ。


「母コツリは、お姉ちゃんと私の力を合わせ持ちます。戦いは厳しいものになるでしょう」


 樹里ちゃんが言った。皆、その言葉に沈黙する。


「あんな女を母などと呼ぶでない、樹里。あれは悪魔。そして、我らが父ジーフの仇ぞ」


 コンラが初めて口を挟んだ。


「お姉ちゃん……」


 そんな姉を悲しそうに見つめる樹里ちゃん。やっぱり可愛い。


 僕は断然樹里ちゃんだ。コンラに心変わりしているリクは最低な奴だ。


「ジーフの仇ってどういう事ですの?」


 カオリンが尋ねた。樹里ちゃんがカオリンを見て、


「父ジーフは、私を助けるために、たった一人でコツリの軍隊に挑んだのです」


「……」


 悪魔が差し向けた軍隊とは、どんなものなのだろうか?


「軍の総司令官が、父との一騎打ちを申し出て、父はそれを受けました。でも、総司令官が危うくなった途端に、全員が父を攻撃して、父は死にました」


 何て卑怯な……。作者なら、あいや、コツリの軍隊ならやりかねない。


「私は一人で追手を逃れ、マングー王国に辿り着きました」


「えっ?」


 僕は意外な国名を聞いて驚いた。マングー王国とは、僕の生まれ故郷なのだ。


 ますます樹里ちゃんに親近感が湧く。


「そして、身を潜めて生きて来たのです」


 意味ありげに僕を見る樹里ちゃん。何だろう?


「コツリの魔法攻撃は、私と姉で防ぎますから、後は皆さんでダイレクトアタックをかけて下さい。悪魔とは言っても、コツリも不死身ではありません」


 一同は頷いた。


「しかし、コンラ様はまだお身体の具合が優れない。私が代わりに……」


 カジューが異義を唱えた。


「カジュー、私なら大丈夫だ。気遣い無用」


 コンラは弱々しく微笑んで言った。するとカジューは、


「ならば、私はコンラ様と共に戦いましょう。コツリに騙されていたとは言え、私は大罪を犯した。その罪滅ぼしのために、この命を賭けます」


「ありがとう、カジュー」


 コンラは嬉しそうに言った。


 そんな二人のやり取りを、恨めしそうに見ているカオリン姉妹。


 姉妹だけに、その「ジト目」はもう「おしまい」にすればいいのに……。


 あああ、座布団は一枚残して下さい、○田君!


 作戦が具体的に決まった。


 コンラ・樹里ちゃんの最強姉妹が、コツリの魔法を全部封じる。


 そして、カオリン・ユカリンの最恐姉妹が、コツリにダイレクトアタック。


 その後方支援を怪力娘のユーマが担当。


 リクとノーナは、その絶妙のコンビネーションでコツリの兵達を撹乱。


 さらに止めを刺すために、僕が最後方から溜め技の秘奥義である「勇者の攻撃(仮)」をかける。


 勝てるかも……。


 そんな気がして来た。


「この先にある玉座の間に、コツリが封じられた石碑があります。早くしないと、完全にコツリが甦ってしまいます」


 樹里ちゃんの言葉に僕は、


「でも、魔力の供給は止めたんだろう?」


「止めたのですが、まだ他にもルートがあったようで、また吸収を始めています」


「何だって?」


 僕達は顔を見合わせた。


「よし、急ごう」


「おーっ!」


 今まで戦った相手とも力を合わせる。これこそ、この旅の醍醐味だ。


 これこそ、勇者の人徳だ……。


 言ってて虚しくなった。


「樹里ちゃん」


 僕は気になって樹里ちゃんに声をかけた。


「はい、勇者様」


「いいのか? いくら敵でも、そして悪魔だとしても、相手は君達の母親なんだよ」


 その問いは、樹里ちゃんの心を揺さぶるものかも知れない。でも、尋ねずにはいられなかった。


「はい。勇者様と旅を始めた時から、その覚悟はできていました。大丈夫です」


「そうか。それなら、行こう」


「はい、勇者様」


 僕は決意した。


 何があっても、この戦いに勝つ。


 そして、どんな事をしても、樹里ちゃんを守ると。




 長い回廊を進んだ先に、玉座の間があった。


 部屋の反対側に、魔王の椅子がある。かつてコンラが使っていたものなのだろうか?


「ここに再び足を踏み入れる事になろうとはな」


 コンラは苦笑いをして言った。


「来たか、愚か者共」


 ひーっ。何だ、今の不気味な声は? 地獄の底から聞こえて来たような、魂も凍るような声だ。


「悪魔コツリ、僕は勇者だ。お前を倒しに来た。覚悟しろ」


 僕はガクガクと震えながら言った。


「ワハハハ、そんな及び腰の勇者が、この私を倒すだと? 笑止千万。返り討ちにしてくれるわ!」


 コンラの椅子が崩れ、その向こうから石碑が現れた。


「いかん、もうコツリは甦りかけているぞ」


 コンラが言った。皆に緊張が走る。


「お姉ちゃん、魔導士さん!」


 樹里ちゃんがコンラとカジューに目配せして、走った。


「妹が姉に指図致すな、樹里!」


 コンラも走り出す。


「私はカジューですよ、いい加減覚えて下さい、樹里様!」


 カジューも走った。


「コンラとは気が合いそうですわ」


 カオリンが呟くと、


「私は樹里様と気が合いそうですわ」


とユカリンが言い返す。カオリンはムッとしてユカリンを見ると、


「私達も行きますわよ、ユカリン」


「はい、カオリン」


 二人も走る。


「ああっ!」


 気がつくと僕達はすっかりコツリの兵に囲まれていた。


「ノーナしゃん、オラ達も行くベー」


「はい、リクさん」


 リクとノーナは兵達に向かった。


「私の怪力、見せてあげるわよん」


 ユーマがカオリン達の援護に走る。


「よし!」


 僕は一番後ろ(別名一番安全な場所)で、気を溜めた。


 勇者の最大の攻撃。気と共に繰り出す、大上段からの斬撃。


 名づけて「勇者の攻撃(仮)」。結局名前が思いつかない……。


「揃いも揃って、大バカ者共よ!」


 石碑に亀裂が走った。


「何!?」


 コンラが仰天する。樹里ちゃんもあっと叫んで立ち止まった。


「何と!」


 カジューも眉間に皺を寄せた。


「コツリが甦るぞ」


 コンラが叫んだ。


「くっ!」


 カオリンとユカリンも突進を止めた。


「ふおおおおっ!」


 背筋が凍るようなおぞましい声と共に、石碑が粉微塵になり、悪魔コツリが甦った。


 僕はその姿を見て唖然とした。


 一言で言えば、酒樽みたいな体型のガマガエル。


 キモッ! こんな醜い奴から、どうしてコンラと樹里ちゃんのような美人姉妹が生まれるのさ!?


 納得がいかない。


「そこ、笑うな!」


 コツリはその短い腕を精一杯伸ばして、腹を抱えて爆笑しているカオリンとユカリンを指差した。


「こ、これが笑わずにいられますか、ねえ、ユカリン?」


「そ、そうですわ。いくら敵役とは言え、面白過ぎて困りますわ」


 二人共、笑い過ぎだ。ここは敵地なんだぞ。


 とは言え、僕も笑いを堪えていたが。


「おのれーっ! 私を愚弄する者は許さぬーっ!」


 コツリが魔法攻撃を始めた。どこから降り注ぐか予測ができない雷撃の連続技だ。


 しかし、アホな攻撃だ。自分の兵達が、次々に倒れている。


「これは私が!」


 カジューが杖を振るった。


最弩級雷撃(テラライトニング)!」


 カジューの魔法がコツリの雷撃を全て受け止める。


「次はどうだ!」


 今度は床のあらゆるところから、炎の柱が出現した。またやられるコツリの兵達。


 何か哀れだ。


最冷凍(コールデスト)!」


 樹里ちゃんが冷凍呪文で火柱を凍らせた。


「まだまだよ!」


 さらに大津波が出現した。コツリの兵達はなす術なく、津波に飲まれた。


超海竜爆渦(スーパーリヴァイアサン)!」


 コンラが呪文を詠唱した。巨大な海竜が津波をその巨体で受け止めた。


「ぬううう……。お前達、よくもこの私に……」


 ガマガエルはまるで四六(しろく)蝦蟇(がま)のように脂汗を流した。


 こいつの正体はやっぱり蛙か?


「私を助けて、貴方!」


 ガマガエルは、裏声を使って叫んだ。貴方? 小坂○子でも出て来るのか?


「まさか……」


 樹里ちゃんとコンラが顔を見合わせた。


「呼んだかい、愛しい人よ」


 ガマガエルの後ろに、一人の男が現れた。すっげえイケメンだ。


 誰だ? あの格好は、神官? いや、違う、賢者だ。


 まさか……?


「父上……」


 コンラが呟いた。樹里ちゃんは唖然としている。


 父上? 賢者ジーフなのか? そんな、ジーフが、コツリの味方?


 何て事だ!


 僕達は一気にピンチに陥った。

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