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御徒町樹里の冒険(改)  作者: 神村 律子
魔王コンラ編
15/52

コンラ復活

 僕は勇者。


 僕達は今、魔王コンラが入っている溶液で満たされた大きなガラスの筒の前で思案していた。


「どうすればいいのだろう?」


 僕が言った。しかし、リクはコンラが気になって仕方ないらしい。


 ノーナはプリプリしている。


 リクの性格がだんだんわかって来た。


「それで、この女性が魔王コンラですの?」


 カオリンが嫉妬交じりの目で言った。


「間違いありませんわ。随分昔ですけど、お会いした事があります」


 ユカリンが答えた。そうか。やっぱりコンラなのか……。


「だったら、カジューは何のために?」


 僕は疑問だった。そう言えば、樹里ちゃんが、


「魔導士さんがお姉ちゃんを……」


と言いかけていた。もしかすると?


「コンラは死んでしまったか、生命力が低下して、眠っているかだと思う。そのために……」


 僕がそこまで言うと、ノーナが、


「だからなのですね? 魔術師達が集められていたのは?」


「多分ね。僕が樹里ちゃんと飛ばされた部屋に、魔力を吸い取られた、数え切れないくらいの魔術師達の死体があった」


「魔力を集めて、彼女を復活させようとしていたのですね、カジュー様は……」


 カオリンは再びコンラを見て言った。


「何てお優しいのでしょう!」


 カオリンとユカリンは、これぞ双子という感じでハモッて言った。


「優しいなんてとんでもないですよん。そのために、たくさんの魔術師さんが死にましたのよん」


 ユーマはムッとして言っているが、口癖のせいでまるで緊迫感がない。


「どちらにしても、何とか樹里ちゃん達のいるところを探し出さないと」


「そうですわね」


 カオリンが同意した。




 その頃、樹里とカジューは、魔術の間の扉に辿り着いていた。


「逃がさぬぞ、樹里、カジュー!」


 悪魔コツリの声が響く。


「魔導士さん、この扉を破りますよ」


「はい。私はカジューです」


 そんな時にも、自分の名を呼んで欲しいカジューだった。


最冷凍コールデスト!」


 樹里が冷凍呪文を唱える。


最灼熱ホッテスト!」


 カジューが灼熱呪文を唱える。


 二つの呪文が合わさり、扉を砕いた。


「それは、パクリ呪文であろう!」


 後ろで悪魔コツリが罵る。


「さ、脱出しますよ、魔導士さん!」


「私はカジューです、樹里様!」


 二人は手を取り合い、部屋の外へとジャンプした。


「おのれええ!」


 悪魔コツリの叫び声が聞こえた。




「わああ!」


 僕達は、いきなり上から抱き合うようにして降って来た樹里ちゃんとカジューに驚いた。


「カジュー様!」


 カオリンとユカリンがカジューを樹里ちゃんから引き離した。


 嫉妬剥きだしで、非常に醜い。


「樹里ちゃん!」


「勇者様!」


 嬉しい事に、樹里ちゃんは僕の手を握ってくれた。


「ご無事で何よりです」


「樹里ちゃんもね」


 樹里ちゃんはニッコリしてから、コンラが入れられているガラスの筒を見上げた。


「魔導士さん、よく見て下さい。貴方が集めた魔力は、お姉ちゃんには全く使われていませんよ」


「本当だ。あの悪魔め、やはり自分のために……」


 カジューは悔しそうに拳を握り締めた。


「どういう事?」


 僕は混乱して樹里ちゃんに尋ねた。


 そして、本当の敵が誰なのか、ようやくわかった。


 作者神村律子、あいや、悪魔コツリ。


 驚いた事に、コンラと樹里ちゃんの母親だそうだ。


 それにしても、何かというと身内を出すな、この話は。


 更に僕達は、驚愕の事実を樹里ちゃんから聞かされた。




 その昔、悪魔コツリは世界を支配しようと神々に戦争を仕掛けた。


 そして敗れたコツリは、人間の姿になり、ある人物に近づいた。


 その人の名は、ジーフ。当時最高位の賢者だ。


 コツリは魔力でジーフの心の闇を見抜き、彼の好みの女性に変身し、彼を誘惑した。


 ジーフはあっさり騙され、コツリは彼の子を身籠った。


 やがてコツリは双子の女の子を出産した。


 ジーフはその時、ようやくコツリの正体に気づく。


 コツリは、ついうっかり、悪魔方式で子供を生んでしまったのだ。


 彼女は口から赤ん坊を産み落とした。


 ジーフは怒り、コツリを賢者の力で封印し、キサガーナ王国の西の果ての地下深く閉じ込めたのだ。


 封印されたにも関わらず、コツリは人間界に影響を与え続け、コンラはコツリの手下にさらわれ、樹里はジーフが命がけで守ったが、離れ離れになってしまった。


 そして、時は流れて千年……。


 え? 千年?


「はい」


 樹里ちゃんは笑顔全開で言った。


 えええ!? 樹里ちゃんて、千歳超え? お年寄り?


「姉は、長い間魔王として母に利用され、苦しんで来ました。でも、もうそれも今日で終わりにします」


 樹里ちゃんのまともなセリフ、かっこいい。惚れ直した! お年寄りでもOKだ。


「姉は、母の野望を知り、母の要求を拒否したため、この中に閉じ込められたのです」


「では、私は最初からコツリに騙されていたのですか?」


 カジューは目を見開いて樹里ちゃんを見た。


「はい。姉は、世界征服など望んでいません。望んでいるのは、貴方との平穏な生活ですよ、魔導士さん」


 爆弾発言だ! カオリンとユカリンが、強烈な嫉妬の炎を目に宿し、コンラを睨んだ。


「おおお……」


 カジューは泣いていた。


「コンラ様……」


 樹里ちゃんはコンラを見上げた。


「お姉ちゃん、起きて! お母さんへの魔力の供給は止めたわ。今なら、その結界も破れるはずよ!」


 樹里ちゃんの叫びに呼応するように、ガラスにひびが走った。


「あ!」


 コンラが目を開いた。青い瞳だ。


「皆さん、離れて下さい!」


 樹里ちゃんが叫んだ。僕達は一斉にガラスの筒から離れた。


 そして、次の瞬間、筒は粉微塵に砕け散り、コンラは外に出た。


「コンラ様!」


「カジュー!」


 二人はヒシと抱き合って泣いた。カオリンとユカリンも抱き合って泣いている。


「会いたかったわ、カジュー。私の愛しい人……」

 

「コンラ様、私の愛する方……」


 魔王と思われていたコンラは、悪魔コツリの犠牲者だった。


「ああ」


 リクが残念そうな溜息を吐いたのは、コンラが魔法で服を出して着たからだ。


「オラが受け止めたかっただよ……」


「リクさん!」


 ノーナはリクの呟きを聞き逃さず、頬をつねった。


「いてえだよお、ノーナしゃん!」


 情けない奴だなあ。


 コンラはまだ本調子ではないらしく、カジューが支えている。


「これで揃ったな。本当の敵を倒しに行くぞ!」


 しかし、僕の呼びかけには誰も答えず、みんなは樹里ちゃん達と共に歩き出していた。


 ああ。勇者、やめたい……。

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