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 ミケーレに謝罪と感謝の手紙を書いた数日後ジークハルトにハーマン公爵家より手紙が来た。差出人はユリウス・ハーマン。誰だったけ?ジークハルトは執事がいたので聞いてみた。


「ユリウス・ハーマンという方から手紙を頂いたがどなただった?」


 執事は残念なものを見るようにみた…とジークハルトは感じた。有名人だったのか…


「ぼっちゃま その方は王太子殿下の側近で、ハーマン公爵家の嫡子ではございませんか」


「そうするとミケーレ嬢の兄上か」


「そういう事になりますね。そんな方からのお手紙です。早速返事をしたためて下さい」


 ジークハルトは緊張して手紙を開いた。が、十日後に王宮の王太子殿下の執務室にいるユリウスを訪ねて来て欲しい。それだけしか書いてなかった。王太子殿下の側近といえば激務と聞いている。呼びつけられた訳だが、相手は公爵令息で王太子殿下の側近だ。大人しく行くしかないか。ジークハルトは承諾の手紙を書き、執事に渡した。

 それにしてもミケーレからは全く返事が無い。あれだけのことを言ったのだから嫌われるのも仕方ないと肩を落とした。


 ジークハルトが自分の恋愛運の無さを嘆きながら、自分が読んでいた本に戻ったところで自室の扉がノックされた。


「ジーク 元気ないわね。聞いたわよ。ハーマン公爵令息に呼び出されたのですって」


 にこやかに母が入って来た。


「呼び出されたのかは知りませんけれど、呼ばれました」


「ミケーレ様の事では無いから安心して。彼女はあなたのしたことなんとも思ってないから。どちらかと言うと娯楽だったと笑っていたわよ」


 母のあまりな言い方に背を向けていたが、ミケーレの名前を聞いて母に向き直った。


「母上はミケーレ嬢とお知り合いで……」


「あなたが貴族令嬢を嫌うから、貴族令嬢らしくないお嬢さんをお茶会で見つけようとしてたの。で、出会ったのがミケーレ様。彼女はデビュタント済ませたばかりなのに、しっかりしてて普通の貴族令嬢と視点が違う。彼女が婚約者を探し始めたと聞いて、お父様のコネ使って候補者として見合いの場に押し込んだのに、あなたったら男の子のお尻追いかけてるし。王妃様のお茶会でミケーレ様に会ってお詫びしたら、あなたがミケーレ様に何を言ったか全部教えてもらったわ」


 ジークハルトは慌てて母のそばに駆け寄った。


「そ…そ…それは…あの…」


「『すまない。私は真実の愛に巡り合ったんだ。彼女以外愛せない。君とは白い結婚になる』」


 ジークハルトはがっくりと首を垂れる。ミケーレ記憶力良すぎ。一字一句違わない。


「あってた?お母様の記憶力もなかなかでしょう?」


 思わずその場に膝を突く。両手の手のひらで顔を覆う。ひとの口から聞くとこんなに恥ずかしい台詞だったんだーーこんな台詞を得意満面でミケーレに言った自分って。この場で穴を掘りたかった。


「なーに そんなに恥ずかしいの?」


 床に顔をつかんばかりに身体を丸めた


「…はい……恥ずかしいです」


「後悔先に立たずよね。でもね。今回はミケーレ様に面白い見世物を見せてもらったお礼にと内々に済ませてもらえたけれど、ほかの令嬢だったら自分を蔑ろにしてるって大騒ぎよ。ミケーレ様は公爵令嬢で我が家より格上だから、家と家との問題になってあなたは廃嫡」


 そんなに大問題になる事だったのか。ジークハルトは硬直した。


「ほら あなたが自分で言ったくせにそれがどういう事になるのかさえ予想できない。裏の裏ぐらい読まなきゃ貴族としてやっていけない。いつも目の前のものだけ。そんなだから男を女と思い込むの。いくら綺麗な男の子だって、喉仏や腰の形が女とは違うわ。人をよく見て。ミケーレ様なら甘いあなたを鍛え直してくれるかと思ったけれど、不出来な息子は親がなんとかしなきゃね」


 母はため息をついて言いたいことだけ言って出て行った。しかし、たおやかで静かな侯爵夫人と言う評判は当てにならないなと思った。自分は母でさえちゃんと見てないのだから他人などもっと見てないと言う事だ。

 それにしても父母のエラ呼びはミケーレからだった。まあこだわる事ではないけれど……どうして間違えて覚えたのだろうかミケーレは……あんなに記憶力いいのに……



 三日後元々予定されていたボーデ公爵家主催の晩餐会があった。貴族令嬢に囲まれるのが嫌で公的な場には、たまにしか出席してなかったが、これからは伯爵位を継ぐにあたり社交しなくてはいけないと必ず行くように父に厳命された。



 両親と共に玄関前で出迎えてくれた主催のボーデ公爵夫妻に挨拶をして、両親と共に他の招待客と歓談をする。ボーデ公爵の令嬢マーガレットが婚約者と一緒にこちらに近づいて来た。彼女は舞踏会や夜会でジークハルトに群がるような女性ではないので、普段から話すことが多い。


「ジークハルト様 想い人ができたのですってね。どんな方?今度私にも紹介して下さいな」


 広がっている。父の言っていたのはこう言うことか。マーガレット嬢はにこにこと他意のない顔で続けた。


「ミケーレ様みたいに完璧な方にでも目移りされないのですもの。どんな素晴らしい方かしら?」


「そのようなことはどちらでお耳にされたのですか?」


「あら もう社交界で有名でしてよ。もうあなたに見染められようとするような冒険者は出てきませんわよ。よかったですわね。真実の愛を貫くことができましてよ」


 ほほほと上品に笑いながらマーガレットは後ろにいたマーガレットの婚約者にエスコートされて晩餐会の会場に歩んで行った。

 ジークハルトは詰んだ…と思った。女装男子に騙されたと知られるより真実の愛の方がいいのだろうか?いやどちらにしろ自業自得だけれど……

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