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 母が戻って一週間後に父も戻ってきた。父は馬車でなく騎乗で戻ってきた。母は父が馬に乗っているのを見るのが好きだとジークハルトに耳打ちして、玄関ホールから外のポーチへと歩いて行った。ジークハルトに政略結婚かと言われたのが気に食わなかった様で母は父に対する感情をジークハルト限定で表に出すと決めたようだ。母が父を出迎えて二人で入ってきた。執事と使用人がずらりと並んで挨拶をする。


 母は着替える父について二人の自室に入っていった。ジークハルトは挨拶をして戻ろうとしたら、母に父の執務室に後からくる様に言われた。


 しばらくして執事がジークハルトを呼びにきた。父は着替えて執務室で留守の間の報告を使用人から聴き終わってジークハルトを呼んだようだった。

 いよいよ縁談の件とエマの件でなにか言われるにだろうと腹を括って執務室に向かった。


「父上、失礼します」


 そこにはすでに使用人がいなくて父が一人でいた。


「お呼びと伺って」


「いろいろと話がある。さきに座れ」


 長くなると言うことだなと思った。


「まずお前の公爵令嬢との縁談の返事がハーマン家から来た」


 父は一通の手紙を畳んで封筒に入れた。


「お前はハーマン公爵令嬢との見合いを婚約者との顔合わせと誤解していたらしいな」


「はい。父上は会って来いと言われただけだったので、てっきりすでに婚約者なのかと」


 父はあまり表情を変えないが、その時は表情が厳しくなった。


「お前の母から聞いたが、お前は今時の縁談については無知なのだな?懇切丁寧に説明しなかった我らも悪かったが、なぜそんなに知らない?」


 ジークハルトは自分の分が悪いことを悟った。


「申し訳ありません。婚約者候補と言う事に気が付きませんでした。言い訳になりますが、社交界で令嬢方に囲まれたりして、貴族の令嬢に忌避感を持っておりました。普段から縁談とか耳に入れたくなかったのです」


 父は厳しい表情のまま言った。


「ハーマン公爵令嬢に想う女性がいるからこの縁談は辞退すると伝えたらしいな」


 ジークハルトはミケーレがそういう風に父親に伝えたとは意外だった。あれだけ無礼をしてまだ正式な謝罪もしてないのに。


「その想う女性とは、領地に行く前に言っていたエラとかいう平民か」


 父もエラか。どうせ偽名なんだからどっちでもいいかと思って訂正はしなかった。


「はい。ですが、すでに別れました」


「護衛から報告が上がっている。男だったそうだな」


 父はサラッと言ったがジークハルトは恥辱で顔が上げられなくなった。


「お前の世間知らずにも恐れ入った。男と女の区別もつかんのか。貴族令嬢を非難してる場合じゃない」


「はい。全くもってその通りですございます」


 ジークハルトは身が縮む思いだった。


「今回の縁談での無礼は、お前が親に意中の人を紹介できてなかっただろうということで問題にしないと大目に見ていただいた」


 そんなに自分が有利でいいのかと思ったが許してもらえるならいいのか。


「ただ公爵家に意中の人がいると言ってしまったのだ。話は広がると思え。これからのお前の縁談は難航する。身分の合う適齢期の令嬢は何百人もいない。お前が嫌いなお前を取り囲む令嬢達もお前に想い人がいると知ってまで何人引き続き取り囲んでくれるかな?まあ 自業自得だな」


 そこに母が執務室にするりと入ってきた。


「ジーク自身が魅力的な男性になればいいのよ。そうしたら女性も惹きつけられる。お父様みたいにね」


 父がごほんと咳払いした。


「あなた ジークハルトは私達は政略結婚だと思っていたそうよ。何か言ってやって」


 父は決まり悪そうにしていたけれど、母に腕に縋られてようやく口を開いた。


「お前の母は幼い頃からの婚約者だったけれど、可憐で儚い容姿で優しい雰囲気で社交界で他の男達に断トツに人気があった。私は必死に婚約破棄されない様に頑張ったんだ…」


 父のこんなに赤くなった顔を初めて見た。母はそんな父を見て嬉しそうに笑っている。父は母の尻に敷かれてるな。間違いない。自分は何を見て、政略結婚とか父が冷たいとか思っていたのかとジークハルトは思った。


「とにかく ジークの縁談は長期戦になりそうよ。ジークが望みそうな令嬢をお茶会で探して来るから、好み言ってみて」


「好みですか。……物事をはっきり言う人で優しいところもある人でしょうか?」


「あらーなんだか誰かを思い浮かべている様ね」


 母は身を乗り出して言った。


「……そんなわけでは……」


「ま、とにかく今は伯爵位を継ぐための準備を真面目になさい。伴侶は当分無理ね」


「…はい…失礼します」


 執務室から自室に戻る途中で、我が家の花園が見えた。その隅に設えられた四阿を見てミケーレを思い出して胸が痛かった。

 つい先日までエマに夢中だったのに、なんて自分は移り気なんだと、とぼとぼ自室に入って、ミケーレに謝罪と感謝を伝えるために手紙を書き始めた。


 


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