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 ジークハルトはエマの言ったことが理解できなくて、しばらく立ち上がれなかった。

 それでも会計をしようと立ち上がろうとテーブルの上に目をやると、エマはあれだけ騒いでいたのに注文したケーキや軽食はきれいに食べている事に気がついた。そう言えば、どこでデートしても必ず家族にとお土産を買わされたなと思い出した。しかも大量に。家にいる母と弟の分と言っていたが、ケーキ二十個とか串焼き30本とか食べ切れるのだろうか?


 デートしてもエマの家には一度も行っていない。エマは動揺してあんなことを言っていたが、真実の愛は揺るがないはずだ。自分達は結婚するんだから、ちゃんとエマの母親に挨拶に行かねばと思った。

 その前に難関の自分の父親に平民になるからエマとの結婚を許して欲しいことと、エマが最後までこだわっていた家と支度金をもらえないかの二点を交渉しなくてはと思った。


 そうと決めたらと、会計を済ませようと店員を呼び止めたら、エマは自分の前で注文したケーキ以外にパンを大量にジークハルトにつけて持ち帰ったことを知った。

 エマの家族はどんな大食漢なのかと思ったが会計を済まして外に出た。

 今までならエマが両手に一杯のお土産を持ってニコニコして待っていた。ジークハルトはあんな事を言ったけれど待っていてくれるのではと希望を持って周りを見回してしたが姿形も無かった。

 ジークハルトはとぼとぼと自邸に帰る道すがら、エマと過ごした日々を思い出していた。そしてあんなに愛をささやいてくれたエマを信じようと思った。



 自邸に戻り執事に両親は在宅かと聞いた。


「お二人とも監査のため領地にご滞在です」


 ああ、そうだった。あの父の従弟の横領があってから父は監査を厳しくしたのだった。度々領地に出かけて今度は一ヶ月は戻って来ない。だから公爵令嬢との縁談の結果を父はまだ聞いてないんだ。ジークハルトは執事に命じた。


「先日の縁談の件は、私が自分で父に報告するから、公爵家から手紙が来たら私に渡してくれ」


「かしこまりました」


 婚約者ではなくて婚約者候補である事を父はなぜはっきり言ってくれなかったのだろうと恨めしく思った。自分は社交界で令嬢達にとって好ましい人物の様だから、ミケーレに求められた婚約だと思い込んでいた。だから自分の要望を強く言ってもいいだろうと高を括っていたのだ。

 あんな事を言ったことをミケーレから公爵に伝わっていたら不味いことになりかねない。

 公爵家からは断りの手紙が来たら、父の手元に渡る前に目を通して言い訳を考えておかなくてはと思った。ミケーレがどう公爵に言ったかもわからないから、下手な言い訳をすると父の逆鱗に触れる。



 それにしても無礼な物言いをしたのは確かだ。ミケーレに正式謝罪に行かねばとと思い、面会希望の手紙を書いた。出しておく様に執事に命じた。ジークハルトはミケーレから面会を断られるとは微塵も思ってなかった。やる事は多いが、ミケーレへの謝罪が先だ。

 だが、何度手紙を送っても多忙のためにとのお断りしか返信が来ない。ミケーレにそんなに嫌われたのかと思うと胸が痛かった。痛い?なぜ?貴族令嬢に嫌われることなど本望のはず。ジークハルトはなぜミケーレに嫌われる事がこんなに辛いのかわからなかった。



 エマの方はエマの家がどこか調べて、家に訪ねた方がいいと思った。母親にも挨拶をしておきたかった。まずは家の場所をエマに聞きたいが、今までの連絡方法の雑貨屋に小銭を渡して伝言を頼んだら、そこの店主からエマからジークハルトからの伝言はもう教えていらないと言われた事を知らされた。

 店主にエマの家を聞いたが、知らないと言う。紙幣を一枚握らせたら、ニコニコ顔で多分下町の中でも一番治安の良くない場所じゃ無いかと教えてくれた。スラムだからそこに行くには今の様な服じゃだめだとも教えて貰った。



 自邸に戻ると市井に出る時に服装を整えてくれる執事を呼び止めた。


「いつも下町に行く時に着ている服だが、この服は下町の住民が着る様な服なのか?」


 執事が苦笑した。


「いいえ ぼっちゃま 今着ていらっしゃる服は到底下町の住民には見えません。そうですね。それでしたら貴族でも男爵ぐらいの方が着られている服です」


「なぜそんな服を?」


「下町の服で住民に混じると護衛ができないからです。遠くからでもぼっちゃまと分かるように。ぼっちゃまが離れていろとおっしゃるので苦肉の策です」 



 そうだ。デートだから会話が聞こえない様に離れていて欲しかったのだ。雑貨屋の店主の言う、この服ではだめだと言うのはそう言うことか。だったらエマも最初からジークハルトを貴族と知っていて近づいて来たことになる。ジークハルトはもやもやしたが、とにかくエマにもう一度会いたいと思い、執事に護衛を伴って行動するから、もっと下町に相応しい服を用意する様に頼んだ。


 用意が出来てから髪も整えずざんばらにして、同じ様にスラム仕様の服を着た護衛達を連れて下町のスラム街に向かった。

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