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あの後ボーデ公爵は『無実だ!』とか『陥れられた!』とか喚いていたが、国王の采配でボーデ公爵親娘は近衛騎士に引っ立てられて行った。その時のマーガレットの憤怒の顔はそれは恐ろしくジークハルトは直視できないほど怖かった。
その後の家宅捜査で毒がマーガレットの部屋から見つかり毒の手配先の人間も捕まった。マーガレットは自分の計画に自信満々だったので、証拠隠滅すらしていなかったのだ。
「どうしたの?」
婚儀の最終打ち合わせで執務室の小部屋でミケーレ、王太子、ユリウス、カイル、ジークハルトが集まっている。ミケーレにしては珍しくため息をついたので、子犬王太子が心配してミケーレの顔を覗き込んで手を握った。いやー手まで握る必要あるかなぁと思う三人。
「反省しているのよ」
「お前が反省?」
思わずユリウスが突っ込むとミケーレは兄を睨んだ。
「私だって反省するわ」
「マーガレット嬢の悪意に気が付けなかった事ですか?」
カイルが尋ねるが首を振るミケーレ。
「いいえ あの人の悪意は随分前から気が付いていたわ。彼女が王太子殿下を狙っていたことも。でも彼女は王太子殿下が好きだからじゃなくて王妃に成りたかったのよ。王妃に相応しいのは自分だって言ってたでしょう?でも彼女は王太子殿下より三歳年上で周りは彼女を候補に見てなかった。悔しかったのでしょうね。特に自分より八歳も年下の私が婚約者になって、たがが外れたのだと思うわ。仄暗い目で見つめられるから、彼女からの贈り物は全部検査させていたけれど王太子殿下の名を騙って花束を贈って来るとはね。生花の花びらに毒を塗ってあって私付きの侍女が触ってしまって寝込んでしまったのよ。一回だけだったからなんとか回復したけど」
「生花に毒を塗るとミケーレ嬢が必ず触ると知っていたのでしょうか」
ジークハルトが尋ねるとミケーレが頷いた。ユリウスが説明してくれた。
「ミケーレの趣味はポプリ作りなんだ。贈られた花を干すから花びらを触るんだ」
「それを知っていた?」
「花束は誰かさんが山の様に求婚で贈って来るから、それでポプリを作って孤児院のバザーに寄付して、出来が良いらしくて良く売れることで有名だった」
すごい女の執念を感じて思わず腕をさするジークハルト。いや今のところ自分に執念向けるような人いないけどね……
「花びら一枚一枚に毒を塗るように命令されたボーデ公爵家の侍女が毒を鼻から吸い込んで死んでいるんだ。侍女には毒と知らせずに塗らせた。マーガレットはそれを取り調べで指摘されても使用人なんか死んでもいい生贄なんだと言い張ってね」
す すごいよーこわいよー。それにしても侍女が気の毒だ。
「結局計画立てたのはボーデ公爵なんですか?」
ユリウスにカイルが質問した。
「いいや マーガレットが計画を立て婚約者として連れ歩いていたスターリン伯爵の次男いただろう?あれが実行犯。毒の手配をして、クラリッサを手引きして母国から出て来させてスターリン家に滞在させた。父親のスターリン伯爵を唆して、オルノーとダンドールを引き入れて、王妃になりたいクラリッサと側妃になりたいイザベラとマルガリータを操ったわけだ。スターリン伯爵の次男はクラリッサが母国で毒殺未遂で逮捕されることを知っていた。だからクラリッサが王妃に成れないことも知っていた。クラリッサを利用して自分の家を取り潰したわけだ。オルノーとダンドールも道連れにして。まあクラリッサがジークハルトに惚れてしまったのも綻びの一因だな」
あらー役に立った????いいのか?これで。
「次男が家を裏切ったのはなぜですか?」
「次男はマーガレットが王妃になった後に貴族に取り立ててもらう予定だった。このままだと次男だから家は継げない。しかも次男の母親は平民で愛妾にもなれなくて、次男を産んでからスターリンに捨てられた。彼女はスターリンから手切金も渡されなくて病死している。次男は家で平民の子と差別されて、生みの母親のことを調べて父親を恨んでいたそうだ」
愛憎劇かぁ。平和な我が家でも第二夫人騒ぎがあったし、貴族ではよくあることなのか?しかし自分はその前に結婚できるのか?不安になってジークハルトは思わず腕を摩ってしまった。
「それにしてもマーガレットはなぜスターリン伯爵の次男を婚約者にしたのですかね?」
カイルがさらに尋ねる。
「あの歳になっても公爵令嬢に婚約者がいないのはおかしいからよ。プライドの高いマーガレットが周りのそんな目に耐えられるわけない。でも王太子妃になるつもりだから、普通の婚約者では婚約解消が大変だから、どこかで出会って悪い意味で意気投合したのじゃないかしら?」
ミケーレがまたため息をつきながら答えた。ユリウスがミケーレの肩に手を置いたら、王太子がサッとユリウスの手をミケーレの肩からはらって、ミケーレを自分の方に引き寄せた。
兄じゃないか。王太子は大人気ないなーと三人の気持ちは一致する。




