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 笑い声は入口あたりから響いた。皆思わずそのあたりを見ると、近衛騎士達に傅かれたミケーレが扇を持ってゆっくり歩み寄って来た。危篤のはずなのに顔色も良く、病みやつれた様子もなく、いつも通り…いやいつも以上に紅潮した頬とキラキラ輝く瞳で美しかった。


 ミケーレを見つけた王太子は弾ける様にミケーレに駆け寄った。それはもう主人を見つけた子犬の様で相変わらずミケーレ大好き、愛してるが溢れる王太子の仕草だった。


「ミケーレ ちょっと早くない?」


「あら、殿下、まどろっこしいんですもの。それに…」


 ミケーレが美しい眉をぴくりと上げて王太子を軽く睨みつけた。


「あんな女達にべたべたされて脂下がって!」


「え、ミケーレ、悋気?悋気?嬉しいなぁ!」


 王太子の尻尾がパタパタ振られる幻影が皆に見えた。キューンと甘えた鳴き声も聞こえそうだ……


 すみません。二人の愛の劇場を見せられても困るんですけれど……周りの皆の内心の声がダダ漏れた。ユリウスが近寄って来て、コホン!と大きく咳払いした。


「二人で何してるのですか!話が続かないでしょうよ」


 ユリウスがそう言うと、周りの貴族達もハッとした様に『ミケーレ様が…』『危篤なんてどこ情報なんだ…』などと言いざわざわし始めた。

 父親のボーデ公爵より娘のマーガレットの方が驚愕は激しかった。


「なんで!ピンピンしているのよ!」


 その声を聞いてミケーレがマーガレットとボーデ公爵に歩み寄った。


「あら、ボーデ公爵閣下 マーガレット様ご機嫌麗しゅう」


 ミケーレが美しい礼をボーデ公爵とマーガレットにした。


「なぜって普通に元気にしておりますわ。マーガレット様に贈っていただいた結婚祝いの薔薇の香油も白磁の花瓶も包装を解いただけで触ってもおりませんし、毎日のように王太子殿下の名前を騙って贈られて来た花にも触ってないからではないでしょうか?」


 マーガレットが二、三歩後ろに下がった。


「せっかくマーガレット様が選んでくださった品々ですもの、ちゃーんと大事に花びらの一枚も無くさずに保管してますわ。そうそうマーガレット様の贈り物を回収に来た痴れ者も捕まえてありますわ」


 ミケーレは扇をたたみ、畳んだ扇で自分の手のひらを軽く叩きながら、マーガレットが下がった分だけ詰め寄った。


「それと、ボーデ公爵閣下、我が家に潜り込ませた諜報員も捕まえて、偽情報を流させておりますわ」


「なんだと!では危篤は嘘か!よくも騙したな!」


 いやー真の黒幕はあなたでしたかってすぐわかっちゃう台詞です。周りの皆の内心の声がダダ漏れ…くどいな。


「騙した?毒を私への贈り物に塗りつけて触った私の指から粘膜に移って毒に冒す予定だったのでしょうけれど、それを持ってくる配達人、我が家の使用人も毒に触れる可能性があったわけですわよね?実際花を生けてくれた侍女が一人具合が悪くなりました。私は私一人殺すために周りを巻き込んでも構わないと言う根性が気に入りません!王太子殿下が欲しかったら年上とか言い訳してないで、正々堂々と殿下に言い寄ったらいかがですか?」


 あの子犬を見た後じゃ言い寄っても無駄だと誰もが思うだろうに。マーガレットは目を見開いて言った。


「小娘が偉そうに。たかが王太子殿下のお目にたまたま止まったぐらいで態度が大きいのよ。この高貴な私が下位貴族の娘のように男に言いよるなどと!王太子殿下の方から妃にと請い願って来るべきですわ!この国に王妃に相応しいのは私以外におりません。私は私の正統な地位を取り戻そうとしただけです。王太子殿下の目を覚まさせようとしただけで悪いことはしてないわ。それに使用人の一人や二人死んでも構いません。私が王妃になるための生贄ですわ」


 あーもう罪を認めてる。それにしても酷い言い分だ。いつも嫋やかで淑やかなマーガレットはどこに行った。百年の恋も覚める。べ 別にマーガレットのことなんか好きじゃないからねと弁解するジークハルト。

 でもさすがに父親の方は百戦錬磨である。


「マーガレット お前錯乱しているのか!何を言ってるのかわかっているのか!」


 王太子の方に向かい直り言った。


「申し訳ありません。娘は錯乱しております。連れて帰って療養させます」


 と言いマーガレットを引き寄せて退出ー逃亡とも言うーしようとしたが、すでに出入口には近衛騎士が固め、蟻一匹這い出ることは出来なかった。それまで話の行方を黙って見守っていた国王が動いた。


「ボーデ公爵 退出は許さん。マーガレットの言い分をもっと聞こうではないか」


「いえ 恐れながら陛下 私の情報は間違っておりました。ミケーレ嬢がお元気のようですので私どもの案は引き下げさせていただきます。娘は王太子殿下をお慕いしておりましたので少し動揺して、ありもしないことを言ってしまいました」


 と言ってミケーレを睨んだ。


「ミケーレ嬢 毒をマーガレットが盛ったなどとありもしないことをこれ以上言うようでしたら、いくら王太子妃になられるとしても我が家から抗議させて頂く」


 いやさっき騙したのかって言ってたよね?どこまで面の皮厚いのかと感心してしまう。

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