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「ですが、クラリッサ王女は他国に嫁ぐ事に不安があるそうなのです。そのご不安を晴らすため他国に嫁いで、何もわからないクラリッサ王女を支え、公務を代わりに務める側妃を二人ご紹介いたします」
突っ込みどころ満載の台詞を吐いたスターリン伯爵は隣のオルノー子爵とダンドール子爵の娘を前に立つように促した。
「オルノー子爵が娘 イザベラ・オルノーでございます。母の女官長に付いて幼き頃から王太子殿下が第一王子であらせられる頃より幼馴染としてご寵愛を頂き、ご一緒に過ごさせていただいております。母の女官長から王妃様の公務は教えられておりますのでクラリッサ王女殿下を支えていきます」
それだけ述べると王太子に向かって、熱い視線を向けた。
「ダンドール子爵が娘マルガリータでございます。私は王宮に女官として勤め、女官長より教育を受けて、王宮の事で知らないことはありません。どうか王太子殿下、王宮の仕切りはお任せください。王太子殿下をずっとお慕いしておりましたので、側妃に上がれるなど光栄でございます」
瞳をキラキラさせて王太子を見つめるマルガリータ。
でもさぁとジークハルトは思う。これって一番大事な事が抜けてる。
「あーはっはは あーはっは」
大きい笑い声が静まり返った大広間に響く。そちらを見ると壇上の王太子が腹を抱えて笑っていた。目尻に浮かんだ涙を指で振り切り、つかつかとスターリン伯爵達の元に歩み寄った。
「スターリン伯爵だったかな。我が国に君のようなお節介な貴族がいるとは」
スターリン伯爵は腰を引き膝を曲げて礼をした。
「お褒めいただき光栄でございます」
絶対に褒めてないよね。王太子は!
「それで聞きたいが」
王太子はオルノー子爵の娘イザベラに向き合った。
「いつ君を寵愛なんかした?」
イザベラは自信満々の笑みを浮かべた。
「まあ 王太子殿下 照れていらっしゃるの?幼い頃に結婚しようと誓い合ったではありませんか」
「結婚の約束?そんな覚えはない」
冷たく切り捨てるが、めげずにイザベラは言い募る。
「いやですわ。ご一緒に花摘みをした時に花冠を私に被せて『可愛い、大きくなったら花嫁になって』とおっしゃいました」
「私は幼くても花摘みなどしない」
そうだね。武闘派の殿下は幼い頃から剣の打ち合いが好きで侍従とばかりいたとユリウス様から聞いたなとジークハルトは思った。
「いいえ アル様 あなたにプロポーズされました!それからあなただけを見つめて参りました」
その割に私にまとわりついていたようだけれど。覚えてないけれどさ。
「あ!」
王太子はぽんっと手を打った。
「あれか 私が模擬剣を持って訓練場に行こうとしたらまとわりついて来て、無理矢理花冠を持たせて、自分の頭に載せてくれって強請ったあれか!あの時嫌だったが女官長が来て『載せるだけですから』と言うから渋々載せてやった覚えがある。それにお前、お前に愛称は許してない」
「そんな!幼馴染ではありませんか」
「女官長に付いて来て、一方的にまとわりついて来ただけだろう。寵愛どころか仲良くもしていない。それに女官長に王妃の公務を教えてもらったとか言っていたが、公務は着飾って立ってればいいと言うものではない!他国の王族をもてなすのにお前は何ヶ国語話せるのだ?その国を調べて話題を出す事ができるのか?国内の実情に目を遣り、国王の執務にアドバイスできるのか?国王が留守の時に宰相と執務を回せるのか?できまい?お前は見かけをちゃらちゃら飾って男の腕にぶら下がるしかし脳がない。お前がジークハルト・ブリーゲル伯爵を狙っていたのも知っている!」
あらー役に立ってると思うジークハルト。
泣き崩れて王太子の足に縋り付くイザベラ。そのイザベラを近衛騎士が『不敬です』と引き剥がした。そして王太子はマルガリータに向き直った。マルガリータは期待に目を輝やかせて王太子をじっと見つめた。
「ダンドール子爵が娘と言ったな。お前の家は没落寸前でミケーレの慈悲で助かったと聞いている。それなのにミケーレが明日をもしれないと聞いても嬉しそうだな」
「王太子殿下 あれは綿花栽培の技術を盗み取るためにミケーレ様が仕組んだものですわ。お陰で我が家は技術の権利は取られ、ごく僅かな領地で咲かせた綿花を公爵家に買い叩かれて酷い目にあっております。私が王太子殿下のお側に上がったら、綿花栽培の権利を取り戻していただけますよね」
「仕組んだね。有能なミケーレでも土砂崩れは地域限定で起こせまい。しかも公爵家が買い叩いたと?証拠でもあるのか?ユリウス!」
ユリウスが紙束を持って王太子のそばに行った。王太子がその紙束をユリウスから受け取って一瞥した。
「ここに公爵家の綿花の買取帳簿がある。買取価格は相場で変動するが常に相場より一割高く買い取って貰っている。これのどこが買い叩かれていると言えるのだ」
「恐れながら」
そこにマルガリータの父親のダンドール子爵が進み出た。




