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第35話 目の前で予選をやっています。

「しかし、ずいぶん熱心に試合を見てるね」


 青肌の人を救護室に送り届けた帰りに、猫おじさんが話しかけてきた。


「そう見えましたか?」

「まあねえ。独り言までつぶやいて、研究熱心だ。来年あたり出場する気かい?」

「え、いやあ、私じゃ無理ですよ。あはははは」


 壁際にある警備兵の待機場所まで戻ってきた私は、猫おじさんに聞こえないよう小声で聞いてみた。


「ねえ、ギド王。独り言って?」

≪そういえば、そうなるな。言い忘れてた。俺の言葉は、鎧を着ているやつにしか聞こえないんだ≫


 サラッと知らない情報が出てきたぞ。


「え、ちょっと。それじゃあ、今までの私とギド王の会話って、他の人から見たら?」

≪そこの警備兵の言うとおり、独り言だと思われるだろうな。下手をすると、誰もいない空に向かって語りかけるような女に見られたかもしれん≫

「なんで早く言ってくれないの……」

≪忘れてたんだよ。それに聞かれなかったしな≫


 もう頭を抱えるしかない。

 まあ、これからは気を付けよう。小声でも王様とは会話できるみたいだし。


「さあ! みんな、西の試合場に注目だぁ!」


 いきなり、エコーのかかった大声が斜め上方向から降ってきた。


 誰の声かと思って回りを見回すと、客席の一角、テントが張られたところにそれっぽい人がいた。

 派手に逆立てた全身の毛を虹のような七色に染めた獣人さんが、激しい身振りでこっちのほうを指さしている。


 司会さんなのかな。あんな人までいるんだ。


「盛り上がりまくりの闘技大会にぃ、ついに主役が登場するぅ!」


 宝石がついた杖に向かって彼が叫ぶ。

 すると、その声が観客席の所々に立つ石の柱からも聞こえてくる。


 魔法のマイクとスピーカーみたいなものかな。

 電球もそうだったけど、ちょこちょこ日本にあったものに似た魔法の道具を見かける。 

 魔法の技術というのも、けっこう発達してるみたい。


「知名度最高、賭け人気も最高! 本大会三年連続優勝者にして、現在は首都の守備隊を率いる、この闘技大会の出世頭!」


 三年連続優勝ってすごいな。

 今年の優勝候補ナンバーワンなんじゃないかな?


「その名もおぉぉ、エクサの守護者、ジュリアァァァァァっ!」


 司会さんの声は、直後に起こった観客の雄叫びにかき消された。

 ワアアアア、を通り越して、ドゴオオオって聞こえる。音の圧力がすごくて気が遠くなりそう。


 そして、試合会場に新たな選手が姿を現した。

 奥側の控え室の扉からまっすぐ歩いてくるのは、間違いなく、盗賊のアジトで出会ったエクサ守備隊の隊長さん。

 虎柄の髪をなびかせる六本腕の女性、ジュリアさんだった。


 ジュリアさんも出場するんだ。

 出ることも知らなかったし、三年連続優勝というのも知らなかった。

 盗賊退治の帰り道でも、そのへんの話題は出なかったなあ。

 まあ、自慢話をするような人でもなかったんだけど。


 前にケイが、闘技大会の上位入賞者はエクサの軍隊の部隊長になることもできるって言ってたけど、ジュリアさんがまさにそれだったんだ。


 彼女の姿を見た観客の声が、次第に統一されてゆく。


『ジュリア! ジュリア! ジュリア! ジュリア!』


 観客の声に、ジュリアさんが手に持つ武器を頭上に掲げて応える。

 彼女は光り輝く新品の胸当てを身にまとっていて、六本の腕のうち四本には先端がデコボコした金属棒、メイスが握られている。

 残り二本の腕には、それぞれ円形で小型の盾を持っていた。


 盗賊退治のときは六本の腕全部に剣を持ってたけど、今日は違うみたいだ。


 ジュリアさんを応援したいけど、警備のお仕事中だから、ストレートに応援するわけにはいかない。

 私はジュリアさんに向かって手首だけで小さく手を振った。

 がんばれー。


 ジュリアさんは気づいてくれたみたいで、一瞬こっちを見て微笑んでくれた。


「対するはぁ、登録名、鉄塊王てっかいおう!」


 司会さんが、私たちの後方を指さした。

 そっちを見ると、私たちから近いほうの控え室から、明るい青色の全身鎧を着た人が出てきたところだった。


「今回初出場、全身鎧を身に着けての登場……、って、似たようなのが場内にいるな。黒いほうじゃないぞ。青いほうが鉄塊王だ! 新参者のこいつが、大会王者を相手にどこまで食らいつけるのか!? あのごっつい鎧がハッタリでないことを祈ろう!」


 似たような黒いほうって、私のことか。

 間違われないよう、もっと壁際のほうに寄っておこう。


 ジュリアさんと鎧の人は、試合場の床に引かれた試合開始位置の赤線の上で止まった。

 鎧の人の武器は、両手持ちの槍だ。ぶんぶんと左右に振って準備運動している。

 ジュリアさんは手にした四本のメイスを、手首を使ってくるくる回転させていた。


≪面白い組み合わせだな。あの女、相手の鎧対策であの武器を選んだんだろう≫

「そうなの?」

≪鎧に対して鈍器は有効だ。打撃自体は止められても、中に響く衝撃までは止められないからな。お前が盗賊のアジトで食らった魔法を思い出すといい。あれと似たような感じだ≫


 あれか。

 あのときは痛かったなぁ。

 一瞬、息ができなくなったくらいだし。


 あんなトゲトゲの棒で思いっきり叩かれたら、そりゃ痛いか。


≪この試合は、あの鎧がお前だったらという視点で見るんだ。死鋼の鎧みたいな全身鎧への対策に、相手がどんなことをしてくるかの良い例になりそうだ≫


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