【人なんて大っ嫌い:part5】
突然現れた犯罪者にソファーで身を隠して3人並び様子を伺う。
「動くな!コイツの命が惜しくば金を出せ!」
銃も用意しているくせに銀行強盗を行わない辺り小物っぷりが伺える。
見知らぬメイドの女性を人質にとられてこっちも手の出しようがない。
「まいったな・・・ねーちゃん人質にとられてしもうたらどうしようもないのう」
「それでいいのか警察、このまま奴らの言いなりになって金でも用意しろってのか?」
「そんなこと許せば敗北者じゃけ・・・」
「偶然しゃべり方が似ているネタを今やるな、今」
しかしどうする、本当に手の打ちようがないか?
銃なんて向こうの世界でも経験しているが到底避けられるもんじゃないぞ。
かといってこのまま横暴を許してなるものか。
「なあなあ、勇者さんよ」
「なんだよ魔王」
魔王がこんな時に俺の袖を引っ張り声をかける。
「私がなんとかしてやるよ」
「あんだと」
「私は不死身だ、銃を挑発させて私に打たせればいい、その隙にお前がアイツを取り押さえろ」
なるほど、名案だな。
不死身の体のお前を盾に利用して、それで万事解決か。
「・・・当然断る」
「なんだとぉ!?」
「確かに普段からお前のことを打ったり、異世界の時もお前のことを倒した」
「だったら気にせず私を利用すればいいだろ!私は速くこんな状況からおさらばしたいんだよ!」
自分自身を普段痛めつけられ、なぜ今は絶好の条件をのまないことに怒りをあらわにする。
その問いに対して、俺はこう答える。
「・・・友達になったんだろ?」
「グッ・・・」
「これからもお前のことを悪いことしたと思った時は必ず止める、ただ、友達になったヤツを利用して生きることはできない、不死身だから盾にしていいなんてことはないんだ」
「生意気なヤツ・・・」
「お互い様だろ」
お互い軽口を言うようになるくらいには仲はあるようだ。
腑に落ちないところはあれど、ニッと笑い気持ちを確認する。
心は違えど、目的は同じ。
俺は一人立ち上がり、銃を持った男へと向かう。
「なにをするつもりじゃい!」
「魔王、時間は稼ぐ・・・頼んだぞ」
「まかせろ!」
ゆっくりと迫り、相手を刺激しないように前へと歩く。
そして、男はこちに気づいて声を荒げる。
「なんだ!貴様ァ!」
「・・・勇者、人を助けに来た」
「勇者ァ?中二病もほどほどにするんだな・・・そんな奴はゲームと漫画の世界にしかいねぇんだよ!カッコつけてんだったらこの娘に鉛玉お見舞いすんぞッ!」
俺は声を荒げる男に怒りを静かに殺し、ただ冷静に言葉を返す。
「そんな娘一人殺して満足か?」
「なんだとッ!?」
「身動きできなくなった女を一人殺せば確かに良いニュースになるだろうな、お前は一人殺し、俺達はお前の殺人を許したことになる」
「なにが言いたい!」
「目の前にいる男に銃弾を放つ覚悟はないのか?」
「ば、馬鹿か貴様ッ!?そんなことになんの意味がある?」
「俺はお前の銃弾避けることができる、リコリ〇・〇コイルみたいに・・・あるいは〇ねーちゃんみたいにな」
「馬鹿言えよ!?そんなことできる人間がこの世にいるか!?」
「試してみればわかる、それとも俺が怖いか?臆病者!」
「な・・・ッ!!」
「貴様は臆病者の卑怯者であり人生の敗北者!人生を追い詰められ、苦悩の果てに真っ当の道を生きることを諦め、人を恐怖に追いやり、自分より弱い者を狙い、考えることをやめ、人の心を失った・・・ゴミクズだァッッ!!」
俺の言葉に怒りが有頂天になり、乱暴にとらえていた女性を放り投げ。
こちらに銃口が向く、そして男はこちらに向けて言った。
「ほざけぇぇぇぇッ!!クソガキがァァァアーーッ!!」
パァーンッッ!!
放たれただ銃弾が俺の肩に当たるッ!
俺は避けない・・・避ければ窓に当たる、その後ろにさらなる被害が及ぶ・・・ッ!
ヤツが完全に怒りがこちらに向いている、ヤツは気づいていない。
この隙に、もう残っているのは・・・俺と。
「せやぁぁぁーーッ!!」
「なにィ!!?」
ドサァ!
魔王だけだッ!
隠れて別行動していた魔王が、後ろから男に覆いかぶさる。
「ガキがッ!もう一人!?」
「うぉぉッ!銃を下ろせ!!さもなくばこの場で殺す!」
店の人達を、上手いこと英司さんが逃がしてくれた。
なんと勘の鋭い人だ、助かったが。
俺は腕をやられている、力を振り絞り、どうにか・・・ヤツをッ!」
ガッ!!
その時、突如誰かが俺の腕を引っ張り力強く別の部屋と移動させる。
目の前が気が付けばそこはキッチン、そして目の前にいたのは。
「馬鹿なの!?アンタは!?」
「あ、姐さん・・・ッ!?」
眼を開き、ギラギラと怒りをあらわにする。
これまで感じたことのない、不安、不満、心の底からの感情的な怒りだった。
姐さんは急いで自分の服をビリビリと破いて俺の腕に巻きけつる。
「死にたいの!?アンタ、異世界から来て、竜とか魔物とかと戦ったんでしょうけど、その体は単なる生身なのよ!?」
「わかってます、けど、俺は人を守らなきゃならない、今も魔王がこうして戦っている」
「魔王はいい!けど、現実に来てまで銃で殺されてアンタ悔いはないの!?もし死んだらどうする気なの!?」
俺は今、わからないことがある。
どうして、そんなに心配するのか。
姐さんは俺のこと嫌いなんじゃなかったのか。
人を、みんなを、嫌っているんじゃなかったのか。
その言葉は、その怒りは、人の心配をする気持ちそのもの。
ああ、ただ確信した気がする。
姐さんは、人が嫌いなんじゃない。
ずっと、好きだったんだ。
ただ、その交流の仕方が人と少しずれていただけで。
その形は同じ、彼女なりの好きなんだ。
だからこそ、自分を受けいれてくれる人を探しているのかもしれない。
姐さんはずっと、待っているのかもしれない。
迷っていたんだ、信じていいかわからないから。
俺は怒る姐さんに、フッと笑い、静かに立ち上がり言う。
「貴方を・・・守って死ねるなら・・・それでいい」
「・・・勇者さん」
怒りから、不安に俺を見る姐さんに向けて言った。
「姐さん・・・信じてください」
「・・・?」
「過去になにがあったか、俺にはわかりません、けど、俺は姐さんのすべてを受け止めます」
「ッ!!」
驚きを隠せず、なにか、心の中で揺れ動くような表情。
「必ず、帰ってきます」
その言葉を聞いて、姐さんの心はどう響いたのか。
俺には分からない、ただ、魔王の抵抗しているあの場所へ急ぐ。
「魔王!!」
「遅かったなァ・・・頭血だらけぞ!!」
何度も何度も頭を打たれたかのような傷。
銃声が聞こえなかったが、まさかずっと銃ょ押さえつけていたのか。
「コ・・・コイツ、なんて奴だッ!?」
俺は魔王を解放させるべく、両手を合わせて、ある呪文を口に出す。
「【ハンガー】ッ!!」
ブゥンッ!
俺の下から風が舞い上がり、魔法陣が展開され目の前に一本の鉄パイプが現れる!
俺はその鉄パイプを強く握りしめ、飛び上がり、回転し、振り下ろす!!
「【鉛天空落とし】ィィーーッ!!」
ゴォォォンッ!!
振り下ろされた鉄パイプは見事に頭に命中、重症を負った男はとっさにフラつく。
「ごォ・・・ば、ばかな・・・」
意識がもうろうとする、男に魔王が目の前に立ち、大きく拳を構えたッ!
「私の必殺技・・・【魔王拳リベンジナックル】ッ!受けた攻撃を・・・100倍にして返すッ!!」
ドッ・・・ゴォォォーンッ!!
袖から巨大な禍々しい手が男を襲い、重い一撃を放ったッ!
その勢いは凄まじく。
何も言うこともできず、店内を抜け、隣のビルにまでフッ飛ばされた。
ガシャァァァンッ!
「・・・やりすぎだ、魔王」
「へっ、私の必殺技を知らないやつが悪いね」




