【人なんて大っ嫌い:part3】
「姐さんに嫌われてしまった現状をどうするべきか」
暑い夏の空、アパートの階段も上がるのすら疲れてしまう。
ピンポーン
と、その時だった。
なにやら姐さんの部屋の前で見知らぬもじゃもじゃ男がいた。
「あれ・・・留守かな?」
「こんにちは、知らない人・・・姐さんに様ですか?」
俺は気になったので声をかけてみることにした。
「おう、知らない少年・・・赤いマフラーを夏にまでつけてるとは・・・中々クールなやつだな」
「知らないのはお互いだったか・・・まあ、魔法でどうにかできるんで大丈夫っすよ」
「ははは、こりゃ面白い・・・少年名前は?」
なんというかラフな人だな、そしてなんというかだらしないおっさんだ。
「えっと・・・アダレットです」
「ワシは魔城英司・・・、好きなように呼びなアダレット少年」
まあ、見るからに年上っぽいけどやっぱり軽そうな人だな全体的に。
サングラスなんかしちゃってよ、イカしてるじゃねぇか。
「英司さん・・・あれ待てよ、今魔城って言った?」
「あーそう、ワシはここの家の兄ちゃんよ、ワシ刑事やってんけど、今日非番でな、様子見に来た」
「苗字が一緒だから絶対そうだと思ったけど・・・似てねぇな」
「なっはっはっは・・・必ず目元同じ、性格同じの兄妹が生まれるともわからんぞ、よく言われるけどな」
確かに性格は似てない、ていうか本当にお兄さんなのかちょっと疑わしいレベル。
でも、きっと本人が言うんだし間違いないよね。
「しかし、アイツいないと来た意味がないな・・・腹も減ったしなんか食いに行こうや」
「知らん人誘いますか普通・・・」
「友達ってのは知らん間になってるもんだろ、飯を食い、迷惑を互いにかけ、何も気にすることのない、無駄な存在、それが友達だ」
「言ってることがカオスすぎる」
どうしよう、ちょっと本当にお兄さんかどうかDNA鑑定受けた方がいいんじゃ・・・。
「あぁぁーッ!勇者ァテメェ人の家でなにやってんだボケこのォ!」
またうるさいのが来た。
魔王がなんでこんなタイミングで来るんだ。
「お前まさか魔城がいない間に下着泥棒でもしようって魂胆じゃないだろうなぁ!」
「なんで俺が評価下げる真似をやらなきゃいけないんだよ、これ以上」
「これ以上?」
しまっためんどくさい奴に聞かれてしまった。
「おやおやおやおや・・・レシーマが終わってしまったようですね~・・・夢はお姫様になることだそうですよ、可愛いですねぇ」
「なんでにやけ面で言うことがそれなんだよ、ほかにもっと言うことあるだろ」
「ワシはメイドインアビ〇よりごちう〇好きじゃな」
「その面で!?」
このノリについていける人材はまずいぞ。
またしても俺がツッコみ役に回されてしまう。
「いや~勇者魔城のこと好きで嫌われてしまうとか情けないのお~おお情けない」
「うるせぇな、ドラク〇の死んだときみたいなセリフ言いやがって」
「私が協力してやろうか~?」
「ほっとけ」
人の弱いところにづけづけしやがってうざいやつめ・・・。
「なんじゃ、貴様真桜ねらってんか、物好きじゃな」
「お兄さんのアンタが言うかよ」
兄貴まで物好き呼ばわりか・・・周りからも評価はあんまりだな。
「ま、仲良くなって友達が一人でもできればそれでいいし、正直誰か信用できる奴一人おったほうがええ」
「・・・ふーん」
「まあ、長話になりそうだし、やっぱ飯いこうや、飯」
「ま、お兄さんと仲良くなるのも悪くはないか」
「飯ィ!?飯だと!?私も行く!私にも飯を奢れ!!」
なにかとあるとがしがしこっちに引っ付いて来やがるコイツはァ・・・。
「ン゛ン゛ッ゛離れろッ゛!」
「嫌だー!私もご飯欲しいかしらー!」
「思い出しように語尾つけてんじゃねぇぇぇッ!」
結局めんどくさいので一緒に連れていくことにした。
こんなカオスなパーティ、勇者パーティの時でもなかった。
「で、なんで食べる先がメイドレストランなんだよ!」
「この近くで美味くて可愛いねーちゃんたくさんおるって言ったらここやろ」
「アンタの趣味かッ!」
このノリについていける気がしねぇ・・・。
早々に仲良くなれてもいつも振り回されそうだわ。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください!英司さん!」
「おおきに~!今日もありがとうな~杏ちゃ~ん!」
「いえいえ!今日もお勤めご苦労様です!」
ちゃんと敬礼して返しているあたり、この人の職業しってるんだろうな。
あと、店員さから嫌そうな雰囲気が伝わってこないのは何故だろう。
「(俺はこう見えて営業スマイルかどうかは見極める地震がある、あれは絶対に素だった)」
「魔王ちゃんなんにする?」
「エビフライオムライス!めっちゃ美味しそう!」
「ええな!ワシ、ラブ飯ハンバーグや!」
「勇者は?」
「クッソ馴染んでんじゃねぇか」
魔王がヤツと溶け込んでいて完全に置いてけぼりを食らっている。
早々に頭抱えそうですわ。
「・・・超カレーで」
「おーけー!おーけー!嬢ちゃーん!注文!」
メニューに癖がないのが不思議だな。
メイドの店ってなんかこうぶっ飛んでる名前多そうだけど。
「しかし、驚いたで・・・お前勇者なんだってな、アダレット少年」
「えっ?話したっけ?」
「こういうのは読者の知らない間に話してるもんやろ、普通、ノリやノリ」
「そうだよ、勇者、ここに来るまでの移動時間とか、ちょっと間が空けば、あっもう話したのねってみんな納得するよ」
「この超展開についていけない人の方が多数なんだからな」
さも当たり前の様にしやがって、一度見本の正しい小説を見直して来い。
「アダレット少年はこの世界馴染んでるかね」
そして、急にまじめな話をふってくる・・・なんなんだよもう。
「まあ、なんとかやっていけてますよ・・・魔王もこんな調子ですしね」
「ま、私は環境の変化に強い、異世界だろうが現代だろうがやることは変わらん、勇者倒して世界を乗っ取るのは私だ」
「馬鹿かテメェ、俺がいる限り悪は栄えない、絶対にな」
「なんだとぉ、お前をいますぐ秒殺してやろうか!」
「秒殺されているヤツが言うセリフか、前話から死んでて出番のなかった奴が」
「テメェ!」
「なっはっはっはっ!!」
俺達が次から次へと会話をつづけていた時に、英司さんは急に大笑いする。
「いや、2人の仲はええのう」
「別にコイツとは仲良くないですよ」
「そうだぞ、コイツは私の敵だ」
異世界でも人類の命を脅かす最悪の存在。
教えによって俺は不殺を誓ったが、コイツは隙あらば人の命を狙う。
「友達は人間のせいで毎日、毎日危険な目に合わないか怯えてんだぞ!」
「・・・ッ」
「こんな奴と仲良くなんかなれるか!」
・・・、なんとも言い返しづらい一言だこと。
人間も一方的に魔物の存在を悪と決めつけて、善良な魔物も傷つける。
そう、俺もまた他者と変わらない存在である。
「まあまあ、言うて2人とも命を狙い合った間柄じゃないんじゃろ」
「・・・まあ」
「それはそう」
「だったらええじゃろて、互いの種族が持った偏見で殺し合いをしてたなら別やが、殴り合い、喧嘩して、明日も同じことする、それもまた友達みたいなもんじゃろ」
「・・・」
「本当に嫌いなら軽口も相手の大ッ嫌いなところも言えん、友情ってのはそういうなんも気にせん気遣いのないのが友情ってもんよ」
なんとなく無理やりいいこと言おうとして失敗してる感はあるが。
まあ、確かにコイツとは腐れ縁のごとく一緒になることが多い。
先代魔王に比べて未熟なところもあるが、それでも優しいやつだからな。
「お前の侵略は絶対に軽視しない、これからも警戒は続ける、だが・・・友達ってのは間違ってはないな」
魔王に思わず真剣な眼差しで返すと、フッと笑って言う。
「別に、ただ・・・友達になってやってもいいかしら」
「生意気ィ」
まあ、確かにこんなやり取りするなら、友達とも呼べるのかもな。
「アンタ達ィ・・・」
・・・、アレ、凄く聞き覚えのある声がするような・・・?
その声の主の先に振り向くと・・・。
「なんで・・・こんなところにいんのよッ!?」
『ッ!??』
思わす驚く俺達と、ものすごい怒りの形相でこちらを睨んでいた・・・姐さん。




