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11 ーからあげ=ロストテクノロジー エピソードZEROー


 建物を後にすると、久世さんは言った。

「じゃあそろそろ解決に動かないとね」

 解決、つまりそれは唐揚げを現代に取り戻すと言う事。

「でも、どうやって」

 俺は素直に尋ねると、彼女はまず大前提の部分から教えてくれた。「まずは、ゴムの板を想像して欲しいの。ゴムの板の一部を指で引っ掛けて、その位置が私たちの時間と場所。で、その指を特定の方向に引っ張る。そうするとゴム板は当然歪む。さらに指の位置も移動している。これが、過去に移動するという原理なの。さらに、この状態でゴムが寄っている部分にペンで文字を書いても、元に戻した時に字は歪むし、何よりゴム板はしっかり元の形に戻る。これが、さっき話した『影響がない』の話。で、この今度はその部分に傷をつけるとどうなる?今度は裂けたり破れたりするかもしれない。これが、『余程の大暴れ』っとワケね」長々と話してくれたのだが、わかったようなわからないような。彼女は続けた。「だから、歴史を修正するって事は、つまりゴム板のその傷を修理するって事」時間の移動の影響とゴム板の話はよくわからなかったが、まあ、なんとなくで理解したふりをした。

「で、今度はその傷の修正はどうするんだ」

「それはね、長い話になるわ…」


   ーーーからあげ=ロストテクノロジー エピソードZEROーーー


 阿部孝宏の父、阿部隆康は冷凍食品の開発担当者だった。阿部隆康はせわしなく家事の時間に追われる母の背中を見てきた。男四人と女一人の五人兄弟で、父親も外で働きっぱなし。次男である阿部隆康が母を心配し手伝いをしようとするのは当然だ。しかし母は言った、もし申し訳ないと思って手伝うくらいなら今勉強をしなさい、そして金を稼いでそこで返してくれればいいから、と。

 阿部隆康の地頭は普通で勉強はままならなかった。しかし、あるモノを一人の子供が作った話を聞き、自身も奮闘するようになる。それは『洗濯板を作る機械』を作ったという内容。イチイチ新しいモノを職人さんに作ってもらう必要がなくなり、波の立った新品をすぐに用意できるようになったのだ。彼の行動原理は、古くなった洗濯板を使う母の役に立ちたかったから。阿部隆康も似た志を持った少年だったため、今はまだ何かを開発できるわけではなかったが、彼なりに必死に勉強に臨んだ。

 大学生になって彼が一番ピンときた仕事は、月清食品の保存食研究開発室。ピンときた理由は、保存食が母親の料理時間を減らせると考えたから。別にもう兄弟のほとんどが手の焼ける子供でなくなっていたのだが、しかしとにかく彼はそれの研究をしたいと思った。

 研究室に入り、当然最初は上手くいかずとも地道に研究を重ね、より良いものを作り上げていった。時がたち結婚して子供も産まれ、更には研究室長となった。そこでは阿部隆康は揚げ物の冷凍食品の開発をしていた。彼は非常に悩んでいた、これら冷凍食品にはどの程度の調理工程を残しておくべきなのか? 電子レンジ等で温め直したらすぐに完成なのか、それとも袋から出して油の中に入れれば完成なのか? この部分だっった。結局悩んだ末、冷凍食品によって全ての手順が無くなるのはもの悲しいという理由で、温め直したらすぐに完成の形はとらなかった。社内にはこれに反対するものは多かった。当然ながら、完成までが楽な方が、売れやすいに決まっている。阿部隆康は両方の形式の研究を進めておきながら、片方は封印してしまったのだった。

 しかし当人は、事故に遭って死んでしまった。葬式の日、彼の封印した方の研究データが他の会社の研究員に盗まれる。それの内容は、完璧だった。手軽に、美味しい唐揚げを作り出せたのだ。ちなみにこの盗む手引きをしたのが、時空唐揚げ軍である。

 話を戻すと、手軽で美味しい冷凍の唐揚げは、工場で安価に大量生産された。多くの人々、いや全ての人類は「唐揚げは自分で作るより冷凍を買ったほうが早い」と気づき、なんと唐揚げを自宅で作る発想も消え失せたのだ。他の企業もここに参入を試みたが、圧倒的技術力で味、値段ともに全く勝負にならなかった。最終的に、全世界の唐揚げはその会社が作っていると表現しても過言ではない状態になってしまった。そんな中で、企業の不祥事による経営破綻に株価暴落、これに加えて災害により冷凍食品の工場も潰れてしまった。その時には皆、唐揚げの作り方は、冷凍食品に頼り切りだったもので、すっかり忘れてしまったし、ここから十数年かけて唐揚げは歴史から姿を消してしまったのだった。


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