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 まずはそれぞれ一〇二ある店舗の中で一品から三品まで候補を絞り、そこで店舗代表として選ばれたモノを本社でもう一度を作る。さらに本社で十品程度まで絞り、再度役員に向けて調理して、商品化するものとしないものを選ぶ。最後に商品化するモノの中から優秀賞を決める。こんな流れだ。俺は合計三回料理するわけだ。

 商品を戦わせていく中で知ったのは、唐揚げの偉大さである。周りは凝ったフランス料理や伝統ある中華料理を作ったり、既存の洋食メニューに工夫を凝らしたり、ゼロから新しいものを考えていた人もいたらしい。これに対し、俺はただの若鶏の唐揚げ。鶏肉を揚げるただそれだけのシンプルな調理工程なのに、細部の調味料にこだわったり、表面的なソース等の味付け変更も可能だ。その汎用性に驚く。

 店舗で候補を絞る際、店長は「誰かが考えていそう」「工夫が足りない」と評したらしい。確かにその通りだ。その日同時に調理した他の人たちと比べて時間も短かったし、食材の種類も少なかった。なので斬新さも真新しさも無いように感じたのだろう。しかし、副店長はこれに強めに反論してくれた。「意外と誰も世に出していないのでは」「レシピが分かりやすく他の店舗でも提供しやすそう」そんなところだ。確かにある程度自炊する人なら唐揚げは自分で作ってしまうだろう。だからこそ逆に評価を高めた。

 そこからはトントン拍子に進んでいく。本社選考でも生き残り、役員選考でも生き残る。役員相手には純粋な料理としてだけでなく、利益を生み出すための商品としての構想を発表する必要があった。ここも、唐揚げの魅力を見出してくれた本社職員と副店長が協力してくれた。最終的にはデミグラスソースのロールキャベツと一騎討ちになり、最終的に役員投票にて二票差で優秀賞を勝ち取れた。

 副店長には賞金の一部を渡そうとしたのだが、断られた。上司としてのプライドと、阿部の料理の可能性を見出せなかった店長の顔を潰さないようにしたいらしい。…なんて語っていたのだが、単純に照れ臭かったのではないかとも思う。落ち着いていて且つわりかし愚痴っぽい人だったので、真剣に取り組む姿を晒すのが不慣れだったとか。

「もし、料理楽しみたいんだったらウチの会社はやめとけよ。本当にやりたい事あるなら、組織に属してる内は難しいぞ」

 賞を取った次の出勤日、そう言ってくれた。ただ俺は別に、自分の実力で勝ち取った訳ではないので、「自分は独立する予定なんてないですよ」と応えた。

 それと賞金の一部で、しばらくシフトに入れなかったので店のメンバーにお詫びとしての菓子折りを買ってきたのと、ロッカルームのソファーも新しくしておいた。


 オフクロにも、休みの日に電話で報告した。

「あの、賞とれたわ。うん、ありがとう」

「そう、よかったね。出世とかはあるの」

「さあ…でも候補には挙げてもらえるんじゃないかな」

「いいじゃん。出世の後は、結婚とかも考えてるの?」

「まだまだだよ。そんな家庭を持てるような歳でも収入じゃないし」

「そんなことないでしょ。歳は気つけんとすぐいくよ」

「それは、ボチボチ考えとくよ」

「料理できる男ならすぐ見つかるでしょ。お父さんもそうだったんだから」

 …オヤジも、料理が出来る人だった。ただし料理人ではなく食品メーカーの商品開発担当。ずっと冷凍食品について考えてた。商品開発のため、一応一通りの料理は出来た。しかしオフクロも上手い方だったので、日々の食事をオヤジが作る事は無かった。

 ただ、いつしかオヤジは仕事を食卓に持ち込むようになった。オフクロがわざわざ手間暇かけて作ったコロッケやアジフライ、ハンバーグ、これらを次々と冷凍食品に仕上げ、食卓に引き連れて来た。オフクロから料理の楽しさを教わった俺からすれば、料理の機会を減らすオヤジの仕事は、なんとなくイヤだったのを憶えている。

「そんなもんかな。ゆっくり探すよ」

「そうしな。…あと、本当に車の運転は気をつけてな。お父さんは事故に遭ったけど、起こさないようにもしないと」

「わかってるって。大丈夫だから、そんな心配しないで」

「ならいいけど…」

 その後は、次いつ帰りそうかとか、手伝ってくれた人にも賞とれたことを伝えてくれ、とか何かお返ししないとな、とかそんな話をしていた。

 しかしそれにしても…オヤジの死因は、居眠り運転でガードレールに突っ込んで死んだと聞かされていた気がする。ただの憶え違いかもしれないのだが。しかし、今更思い返しても、別にオヤジが生き返る訳ではないので考えるのをやめた。


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