闇を掴む
母さんと僕は二人で家まで帰っていく。
母さんは犯人じゃなかったのか?
確かに証拠はない。
ただ、今回の事件は起こそうとすればできる。
ずっと狂ったふりをして裏で人を殺していた。
…我ながら乱暴な推理だ。
「瑛人、家に入りましょう」
「う、うん」
「ご飯、出来てるから一緒に食べましょう」
食卓にでてきたのは、いつも母さんが作る料理だ。
壊れたときに作っていたものではない。
やはり完全に戻っている…
「瑛人…さっきから様子が変よ」
「いや、いきなり母さんが元通りになってびっくりしちゃってさ。それになんで母さんが沙夜が入院したのを知ってるのかなって」
僕はさりげなく聞いた。
「ふふっ、管理人さんが教えてくれたのよ」
「管理人さん?」
「そう、あなたたち救急車に乗っていって管理人さんをこの家に残していたでしょう?そこで、私が現れて管理人さんにビンタされてね」
「ビンタ?」
「そう、親のあんたが壊れている間に子供たちが苦労しているってすごい剣幕で怒られちゃって…そしたら何だか頭がスーッとしてね」
「それで元に戻ったって言うの」
「戻ったのかしら?正直まだ現実を見たくない部分もあるわ」
「もういいよ、母さん」
「何?」
「僕は母さんが今回の事件の犯人だと思っているんだ」
「いやだ、瑛人。笑えない冗談ね」
「冗談じゃないよ」
「一応、あなたの話を聞いてみようかしら」
「母さんは犯人の1人だ。父さんは共犯者に殺された。それを利用して狂ったふりをして今回の連続殺人の物語からそうそうにリタイアするふりをした」
「それで?」
「そこからは僕達が不在にしている間に犯行をすることも可能」
「それだけじゃあ、弱いわよ。私が目が覚めたのは管理人さんに叱咤されたからって言ったじゃない」
「じゃあ、これは何?」
僕は安田刑事のメモから出てきた写真を出した。
一瞬母さんの顔がぴくっと動いた。
「この写真…」
「ここに移ってるのは母さんだろ」
「何を言ってるのよ、この町に来たのははじめてよ。確かに私の小さい頃に似てるけど、そうだとしたらここに写ってるのはお母さんの両親ってこと?前にも言ったけどお母さんの両親は私が小さい頃に亡くなったのよ。親戚もいなくて苦労したんだから」
「確かに母方の祖父母の件に感しては小さい頃に聞いたことがある。」
「瑛人、これだけでお母さんが犯人だなんてひどい話よ。でもあれね。この刑事さんは顔変わってないのね」
「ああ、確かにそのまま大人になったって感じだね」
「瑛人、探偵みたいで面白かったけど、冗談は止めにしましょう。でもこれからも私を疑うならそれでもいいわよ、お母さんはお母さんで身の潔白を証明し続けて見せますから」
にこりと笑う。
「わかった、ごめんね。母さん、今は色々不信感で一杯でさ」
「しょうがないわ」
やっぱり母さんは犯人の一人だ。
この写真に写ってる女の子の隣にいる男の子は確かに安田刑事だ。
ただ僕はこの写真について安田刑事の名前は一切出してない。そして、安田刑事と母さんが接触したのはすでに母さんが壊れた時だ。
なのにこの男の子を安田刑事と言った。
母さん…なんでなんでなんだよ。
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