最期の会話
僕はやはり眠れなかった。
その時思い出したことがあった。
父さんの遺体だ…
父さんが殺されてからもう2週間程たつ。
捜査のために未だに葬儀もできないし遺体の返却もない。
「あの遺体は本当に父さんなのか?」
僕は独り言のようにつぶやいた。
明日安田刑事と連絡を取ってみよう…
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ、おはよう」
「なんだか、独り言?寝言?を言ってたわよ」
「そ、そうか?うるさくてごめんな」
「ううん、何いってるかわからなかったから」
にんまりと沙夜は笑う
久しぶりに見たな。沙夜の笑顔
僕らは学校に向かった。
沙夜と別れたあと、沙夜には気づかれないように僕は学校から抜け出した。
最近まともに学校いってない気がするけど、単位とか大丈夫かな…
僕は安田刑事に電話をした。
「おう、どうした」
「会って直接話がしたいんですが」
「電話じゃだめそうだな、わかった。1時間後に警察署の近くに来い。ついたらまた連絡入れてくれ」
電話を切った。僕が知りたいのはあの川の遺体。
昨日北條の遺体がみつかったのだから、あの川の遺体は北條ではなかった。遺体は親族に返却されて火葬されてしまったのか?それともまだ警察が…
1時間後に安田刑事に電話をした。
「近くに喫茶店があるだろ、コロンボっ名前のそこに入れば」
僕は辺りを見回す。あった。古そうな喫茶店だ。
僕は恐る恐る入った。
「おう、こっちだ」
「なんだ、もう先にいたんですね。待たせてすいません」
「かまわねぇよ、それで学校をサボってどうしたんだ」
「あの、父さんの遺体はいつもどってくるのかなって」
「ああ、解剖にまわしたろ、サインをしてもらったとおもうけど、そこから色々死因とか調べるのに時間がかかってよ」
「最初、自殺だって言ってましたもんね」
「あ、ああ。あれは忘れてくれ」
安田刑事は自分の発言が恥ずかしかったのか手をブンブンふった。
「じゃあ、まだ時間がかかるんですね、ちなみにあの遺体は父さんで間違えないんですよね?」
「ああ、それは間違いない。提供してもらった親父さんのデータと照合できたから」
「そうですか、それで本題なんですけど」
「親父さんの話しは本題じゃないのかよ」
「2体目の遺体、北條と思われていた遺体まだ、警察にあるんですか?」
「…ああ、親父さんと同じようにまだ捜査中で親族に返却できてない、というか親族とも連絡取れないしな」
「そうなんですか?あの、2体目の遺体は誰なんですか?」
「やっぱ、そうなるよな。俺もてっきり2体目の遺体は北條だと思っていたからよ」
「誰だかわかったんですか?」
「ああ、あの遺体はお前さんの親父さんだった」
僕は言葉を失う
「どういうことですか」
「焦るな、俺も驚いてるんだ。どうやら一度遺体安置所から持ち出されたみたいなんだ」
「じゃあ、犯人は警察関係者ってことですか?」
「その可能性は高い、いや犯人は複数人かも知れない」
「確かに一人でそんなことできないですよね」
「俺も署内にいると思うと気が気じゃなくてな」
「安田さんじゃないですよね?」
「そうだったらどうする?」
にやりと安田刑事は笑う。
「そうだったら、殺しますし、もうとっくに僕殺されてますよね」
「はっ、そりゃそうだ」
「とにかく警察は俺以外は信じるな、俺も独自で捜査は続ける」
「大丈夫なんですか?」
「ああ、心配すんな、また何かあったら伝えるよ」
安田刑事は席を立つ
「会計は済ましとくからゆっくりしてけ」
手を上げて安田刑事はお店を出ようとする。
「安田さん」
「なんだ?」
「死なないでくださいよ」
「縁起でもねぇ、心配すんなって言ったろ」
これが僕と安田刑事の最期の会話になるとはこの時は思わなかった…
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