前を向いて
看護師と医者が私の心配をするが、私は大丈夫と言ってその場をやり過ごした。
それよりも早く由梨さんと話したい。
一通り診察?を終えると部屋を移されまたベッドに横にさせられた。
私は力が抜けてしまった。
「おい、大丈夫か?」
沙夜は無反応だ
私の声はもう聞こえないのか?
じゃあ死ぬこともないだろう。
「由梨さん、そこにいるの?」
「あなたの姿と声が聞こえないの」
やっぱりもうこの子は生きることを選んだんだな。
由梨はふっと笑う。
メモ用紙とペンが用意されてたかのように置いてある。叔父さんの仕業だな。
由梨はメモ用紙に文字を書く
【私はここにいる、ただ私の声はあんたにはもう聞こえないみたいだ】
「そんな、もっと話したかったのに」
【元気になったらいつか会えるかもな、絶対に死ぬなよ、死んだら呪ってやるからな】
由梨はそのメモを渡す。
沙夜はにこりと笑う。
この子はもう大丈夫だろう。
由梨は病室を去っていく。
病室の扉が開いたのをみて沙夜も由梨が出ていったことを感じる。
「ありがとう、由梨さん」
「もうこれでほんとに終わりだな」
「うん、ありがとう。叔父さん」
「あの子は大丈夫か」
「うん、私の声も姿も見えなくなってたから大丈夫じゃない?」
「なんだかいい加減な存在だな」
「仕方ないだろ、私だって好きでこうなった訳じゃないんだから」
「はいはい、じゃあ帰るぞ」
車は走り去っていった。
その後、私は警察の事情聴取を受けた。
あのおじさんがつれてきた斉藤刑事は優しく接してくれた。
そして、この町の事件についてはすっかりと風化した。
気づくと季節は春になっていた。私の退院がきまった。
1年も入院してたのか…
私高校生になるのか。
「これからどうするの?」
看護師が質問する。
とりあえず、家の荷物を片付けて知り合いの家にお世話になろうと思ってます。
「そうなんだ、何かあったらいつでも連絡してね」
看護師さんは自分の携帯番号を書いたメモをくれた。
「ありがとうございます」
私は足取り軽く家に帰った。
ガチャリと玄関を開ける。
「お父さん…あなたは成仏できたの?」
私は独り言のように呟く。
いそいそと自分の荷物をまとめる。
じぶんの荷物以外はすべて処分していいと斉藤刑事にいったら、知り合いに処分を頼んでおくよと言ってくれた。
「さてと」
私はあの日車に落ちていた名刺を見る。
「ここからだとどのくらい時間がかかるのかな、まあいいや。無理やり行ってしまえ」
名刺には【小林探偵事務所】と書かれていた。
今日はいい天気だ。
あの後、瑛人と真奈美がどうなったのかはわからない。
未成年の犯行だ。いずれこの世界にまた出てくるのだろう。
その時また、私を追ってくるのか。
いや、暗いことを考えるのはやめよう。私は前を向いて歩くって決めたんだ。
沙夜は大きめの鞄を担いで歩いていった。
お読みいただいてありがとうございます。ブックマークや、評価いただけるとうれしいです。明日はエピローグ投稿して完結となります。初めてのジャンルに挑戦して、課題は沢山ありましたが楽しくかけました。