覚醒させる者
「ふぅ、ありがとう。逃走の手助けしてくれて」
真奈美は男に礼を言う。
「いいんだよ、それにあんな錆びれた刑務所なんて僕の助けがなくても抜け出せたでしょ?」
「まぁね、でもあなたが助けに来てくれるのが私にとって大事なのよ」
真奈美はにこりと笑う。
「そうか、そう言ってくれるならよかったよ」
「これからどうするの」
「狂ってしまったお姫様のところにでも行ってこようかなって思ってる」
「今は警備が厳重になってるみたいだから少し日をおいた方がいいわよ」
「そうか、残念だな」
山奥で二人は呑気に会話をしていた。
あのニュースが耳に入った、翌日から警察が私の病室の前に立っている。
真奈美は私を殺しに来るのか?
いや、こないだろう…
今日も目をつぶる。
目をつぶればまた、あの人が呼び掛けてくれそうな気がした。
みたことも、聞いたこともない女性…
あの人の声が不思議と自分の精神を何とか維持できている気がする。
けれどあれはただの幻聴なのだろう。
私はもう壊れている。
このまま、ここで死んでも許されるだろう。
私は自分で言うのもなんだがよくやった。
あの二人はいつか誰かが裁いてくれる…
「ダメよ、あの二人を裁けるのはあなただけ」
「私に二人をころせってこと?」
「違うわ、それじゃああなたが犯罪者になってしまう、それではだめ。ちゃんと法で裁くの。それが出来るのは真実を知ってるあなただけなのよ」
「でも、二人がどこにいるかはわからない」
「わかっているんでしょ、いつか二人があなたのところに来るのを」
「そんな気はするけど来る気配はない、待ってるのはもう疲れた、このままほっといてよ」
「…」
女性は黙る。
ガラガラ病室のドアを看護師が開ける。
「南川さん?今誰かと話をしていた?」
「…」
「そうよね、あなたは今言葉が話せないもんね」
「ご飯を持ってきたわ、食べれる?」
私は黙る
「はい、口を開けて」
黙って指示に従う
「おいしい?」
返ってこないのをわかっているのに、この看護師さんは優しく声をかけてくれる。
食事を終えて薬を飲むと私はまた目をつぶる。
もう、どれくらいの時が立ったのだろう、真奈美が脱走してからまた時が立ったはずだがあいつはここには来ない。
せっかく死ねると思ったのに。
「死んではだめ」
「またあなた?あなたは誰なの?」
「やっぱり私の声が聞こえてるのね」
「えっ?」
沙夜は声の主の意外な言葉に反応した。
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