復讐に向けて
あの日、私は泣き叫ぶしかできなかった。
目の前の出来事が信じられなかった。
首から上を失くした兄の姿を忘れることができない。
あの日、私は遅刻をしそうになり慌てて部屋を出た。
「お兄ちゃん、なんで起こして…」
そこには首から上がない兄の姿があった。
私は泣き叫んだ。
そこにお母さんが呑気に玄関から戻ってきた。
「どうしたの…な、え、瑛人…」
「あんたが、あんたがお兄ちゃんを殺したんでしょう」
私は瞬間的にお母さんに詰めより首を締める。
「ちょっ、さ、沙夜。止めなさい」
お母さんの膝蹴りが私の腹部をとらえる。
「ぐうっ」
「あんたが、あんたが」
「落ち着いて、私じゃないわよ」
「嘘つかないで、あんたがこの町の殺人鬼だって私もお兄ちゃんも知っているのよ、だからあんたがお兄ちゃんを殺したんでしょう」
「いい加減にして、私だって瑛人が殺されて、あなたにそんなこと言われて、どうしていいかわからないわよ」
「どうしたんだい!!」
「司書さんが入ってきた」
「あ、これは」
「なんで、あんたが」
私はこんどは司書さんに敵意を向ける。
「旦那が行方不明だからわたしが管理人の仕事をしてるのさ」
そこで声が聞こえたから
「あんたもぐるでしょう、とぼけないでよ」
私はおばあさんにめがけて殴りかかろうとした。
横から私の顔面を母の正拳突きがとらえる。
私はその場でノックダウンした。
「ごめんなさい、まさかこんなことになるとは」
「仕方がない、とりあえず警察を呼ぼう」
「隣の部屋は?」
「なんとかしとくさ」
二人の会話が途切れ途切れ聞こえたが、私はそのまま意識を失った。
兄の事件は証拠不十分で犯人は見つからない。
お母さんはその時、玄関でおばあさんと立ち話をしていた映像が監視カメラに、納められていたためアリバイは完璧だった。
あれから1年。
仏壇に線香をあげて、私は言う。
「言ってきます、お兄ちゃん」
私は中学三年になった。
お母さんは、東京に戻ろうと提案したが、絶対に犯人を捕まえるまでここから離れる気はない。
そもそも、犯人は今目の前にいるんだから。
「おはよう、沙夜、髪の毛ずいぶん伸びたわね」
「伸ばしてるの、前にお兄ちゃんが長い髪が好きだって言ってたから」
「そう…」
「じゃあ」
あの日以来、お母さんと私の関係は冷えきっている。
あの後私は精神をおかしくして半年ほど入院をしていた。今も精神の薬を飲んでなんとか生きている。
どうして、こんなことになったのだろう。
犯人を見つけても絶対に警察には着き出さない。
私がこの手で殺してやる。
「そんなに怖い顔していると、職務質問されるわよ」
聞きなれた声がした。
「あんたは」
目の前にいたのは、相良真奈美だった。
「相変わらず口が悪いのね、瑛人くんの件聞いたわ…」
「あんたが殺したんじゃないわよね」
「ちがうわよ、私は彼のことを愛していたのよ」
「複雑だけどその気持ちは伝わってた…ていうかこんなところにいていいの、殺人鬼さん」
「すっかり、私の事件も風化しちゃったわね、さっきもお巡りさんとすれ違ったけどなにも気付かれなかったわ」
「ねえ、あんたは犯人が誰か知ってるの?」
「ううん、わからない。だから貴方に会いにきたのよ」
「どう言うこと?」
「一緒に瑛人くんを殺した犯人を…そうね、殺しましょう」
「殺すのは私がやる。あんたはまたどっかに隠れててよ、捕まったらめんどくさいから」
「はいはい、じゃあいつものところにいるから、何かあったら教えてね」
「あんたも何かわかったら言いなさいよ」
「はいはい、じゃあね」
私は真奈美を見送る。
あいつは私にとってジョーカーになるのか?
まだ信用はできない。私は真奈美に背を向け学校にむかった。