沙夜の疑問
「ただいま」
「あ、沙夜ちゃん、やっと帰ってきた」
「は?」
「今ね、瑛人が具合が悪いって寝てるのよ、さっきもうなされててね、だから沙夜ちゃんが帰ってきてから、家賃を払いに行こうと思ってたのよ」
「あ。そう」
「じゃあ、よろしくねぇ」
相変わらずお母さんは自分のペースで動く。
昼間お兄ちゃんに、会った時はサボるって言ってたけど、調子が悪かったのか…
私はそーっと部屋を覗いてみる。
なんだか、唸り声が聞こえる。
確かにこれは普通じゃない。
退院してからお兄ちゃんの様子は明らかに変だ。
「精神疾患?それってうつ病とかですか?」
「うつ病と言うよりは、事件のショックによるパニック障害と言う方が分かりやすいかも知れません。薬を処方するのでなにかパニックになって発作が起きたときはそれを飲ませてください」
私は医者とのやり取りを思い出した。
あれがその症状なのかな…
だとしたら薬…どこにしまったのかな。
私は薬を探し始める。
全くどこにしまったのよ。
ぶつくさと文句を言いながら探していると、一枚の写真がハラリと落ちた。
なんの写真だろう?
「えっ、これって、どういうことよ」
写真には幼いお母さんと管理人さんと司書さん、あの安田刑事と思われる人も写っている、それと母さんと同い年くらいの男の子も…
「何これ、なんで?この人たちどういう関係なの?」
ガチャガチャ玄関のカギの音が聞こえた。
私は慌てて写真をもとの場所に戻す。
お母さん…あなたはもしかして
お兄ちゃんはどこまで知っているのだろう。
でも今この話をしたらお兄ちゃんはまたパニックになってしまうかも知れない。
独自に動くしかないか。
「ただいま、あらどうしたの?そんなところで座り込んで」
「こないだ、お医者さんから貰ったお兄ちゃんの薬を探してたのよ、どこに置いたの?」
「ああ、あれならここよ」
「もっと分かりやすいところに置いといてよ」
「発作がおきたの?」
「いや、なんかうなされてるから飲ませた方がいいかなって」
「そう、そうよね。じゃあちょっと飲ませてくるわ」
人間は不思議な物だ、一度不信感を持つとそうとしか思えなくなる…
お母さん…あなたはいったい何者なの?
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