退院
あの事件から1ヶ月が経過した。
結局あれから真奈美さんは一度も姿を現すことはなかった。
そして、やっと僕の退院が決まった。
「退院おめでとう、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとう」
「本当にありがとうございました」
母さんは、医者や看護師にお礼をしている。
この1ヶ月何も起きなかった。
唯一起きたと言えばあの刑事が母さんに殺されたくらいか…
くらいって…感覚が麻痺してるな。
「どうしたの、お兄ちゃんにやけて」
「えっ、ああ退院が嬉しいんだよ」
「そう」
そして、僕たちは母さんの運転で家に帰ることになった。
「お母さん、安全運転ね」
「わかっているわよ」
僕はひとつ疑問に思っていることをあえて話題に出してみた。
「そういえばさ、僕らの暮らしてるアパート、全然入居者入らないね」
「そうねぇ」
「だって事故物件じゃん」
「えっ?」
「お父さん」
「あ、ああそうか。でも僕らが来る前から誰も住んでなかったよね」
「そうね、だいぶ古いアパートだからかしらね」
「あの管理人さんも大変だろうね、何で生計たててるのかな」
「あの年だと年金じゃないの?、ここの管理は趣味みたいなものじゃない?」
「あのアパートは誰が見つけたの?」
「えっ?」
「父さんがあんな人が少ない古びたアパートを選ぶとは思えなくてさ」
「私よ、だってお父さん、お給料も下がっちゃうから少しでも安いところで探したらたまたまあそこだったのよ」
「たまたまか…」
「なぁに、どうかした?」
「いやぁ、母さんとあの管理人さん仲良く見えたからさ」
「ふふ、私社交的だから、すぐに仲良くなれるのよ」
そう簡単にボロが出るわけないか…僕はとりあえず、美咲ノートを一刻も早く見直そうと考えを変えた。
アパートの駐車場に車を止めていると、アパートから人が出てきた。
「あら、噂をしてたら管理人さんじゃない」
「ほんとだ」
「一応管理人の仕事もちゃんとしてんのね」
「失礼よ、沙夜」
「私ちょっと挨拶してくるから、二人は先に部屋に戻ってて」
「はーい」
僕と沙夜は部屋に向かった。
いったい何を話すのだろうか。
「なにボケッとしてんの?早く行こう」
沙夜が僕の手を引っ張る。
僕は名残惜しそうに部屋に入っていく。
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