悪魔
「な、なんで君が」
「ふふ、久しぶりに学校に来たからクラスを間違えちゃった」
「なんで死んだはずじゃ」
「あれ、瑛人君、ひとりぼっちじゃない、そうあいつらがあなたをいじめたのね」
だめだ、会話にならない。
しかし、人間とは不思議なものだ、目の前の狂人は左手に怪我を追っているし、いわゆる満身創痍といった状態だ。みんなで一斉に取り押さえるのは容易なはずだ。
しかし、包丁を持ちながら返り血を浴びて、笑っている。この条件がそれをさせない。
周りを責めている訳ではない。僕だって空手をやっていた、だから返り討ちにすることだって可能だ。
しかし目の前の狂人に僕はなす術も出来ない。
クラスメイトのひとりがもうひとつのドアから逃げ出そうとする。
「なんで開かないのよ」
ガチャガチャ扉を何度も開けようとするが何かが引っ掛かり開かない。
「邪魔しないでよぉ」
真奈美はそのクラスメイト目掛けて走り出す。
「いやぁ」
次の瞬間そのクラスメイトは首を切られ盛大に血を吹き出しながら倒れて行った。
また悲鳴がする。
一人の男子は窓から飛び降りようとする。
無理だ、ここは三階だ…飛び降りたら死ぬ。
そんな時だ。
「うわぁぁぁぁ」
ひとりの男子がほうきを持って、狂人へ攻撃を繰り出す。
「ふふふ、残念でした」
左手のギプスでほうきの攻撃を受け止めた真奈美はそのまま相手の懐に入り、喉元に攻撃を加える。
男子生徒はそのまま膝をついて倒れる。
こうなるともう誰も反撃なんて出来ない。
「おい、南川、何とかしろよ」
都合のいい話だな。ずっといないことにしていたくせに。
僕はこんな状況下なのにそんなことを思っていた。
「時間があまりないわね、瑛人君、行きましょう」
「行くってどこに」
(相良真奈美はサイコパス)
あのフリーライターのメモ書きを思い出す。
この女に話を聞けば真実に近づけるのか…
目の前で、クラスメイトを次から次へと亡きものへとしていく彼女を見ながら僕はそんなことを考えていた。
気づくと、真奈美はギプスを、外して、両方の手に包丁を持っていた。
まるで、ダンスを踊るかのように一人一人と切りつけていくその様子に僕は見とれていた。
そうか、僕も狂っているのか。早く終わらないかな。
終わったらそうだ、あの喫茶店に行こう。
そして、彼女から話を聞こう。
真奈美がこちらに近づいてくる。
「じゃあ行きましょう」
僕は黙って頷く。
扉を開けると警察が銃を構えていた。
そりゃ、そうだ。こんな騒ぎになっていたら、警察がくるだろう。
あれ、松田刑事じゃないぞ。
そうかあいつは行方不明だったな。
「と、止まりなさい、撃つぞ」
警官は一人だ。恐らく近くの交番から急いで来たのだろう。
真奈美は歩みを止めない。
「ほ、ホントに撃つぞ」
パーン。銃声が響きわたる。
警官が後ろに倒れ込む。
「えっ」
「意外と当たるものね、私才能あるのかしら」
気づくと真奈美は右手に拳銃を持っていた。
彼女が歩いていく。
もはや誰もそれを止めることはない。
ひたすらに見送るだけ。
僕は黙って彼女の後を追った…
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